CHRONO CENTER--- SIDE-A --

 

 あなたと生きたい。
 何を失っても構わないから、あなたと一緒に生きたいよ。

 なのにあなたの前から逃げるなんて、こんなに心が弱いなんて、自分で自分がイヤになっちゃうよ。

 本当はあなたの事で胸がいっぱいなのに、それなのに自分に負けちゃうなんて、わたしもっと強くなりたいよ

 もっと自分に素直になりたい。
 あなたに秘めたこの想い、面と向かって打ち明けたいよ。

 けれど私は自分に素直になれない弱い娘です。
 それでも想いを打ち明ける資格があるのなら、こんなに弱い私を許してくれるなら、今夜だけでいいのお願い、わたしのそばに来て。
 今夜だけでいいのお願い。

 

第3

 
 は走り続けた。
 こすってもこすっても溢れてくる涙を拭いながら………。
 あなたが遠い人になってしまったと思うと悲しかった。
 
 
「バカバカバカ!私のバカ!!一体何やってんのよ!!」
 
 
 今すぐにでもどこかに消えてしまいたいという気持ちで………苦しくて行き場の無い気持ちで胸がいっぱいだった。
 
 
 どうして…どうしてこんな事になっちゃったの。
 
 セルジュ!
 セルジュ!!

 
 
 そう思うと悲しくて悲しくて、胸が苦しくて……もう何も考えられなかったの。
 ただ無我夢中で走り続けたの。そして……、
 
 
「あっ!!」
 
 
 足元の岩に足を取られて転んでしまったの。
 でもその場所は………、
 
 
「こ、ここは……?」
 
 
 風鳴きの岬の、幼いセルジュの墓のあるその場所だったの。
 私は心からあなたの事を……セルジュの事をを求めていたから……だからここに来たのかもしれない。
 
 
「……セルジュ…」
 
 
 私は幼いセルジュの墓に歩み寄って……そして、すがり付いたの。
 そっと抱きしめるようにすがったの。
 
 
「ぐすっ…セルジュ、セルジュ、私…私…」
 
 
 まるで泣きつくように……ううん、本当に泣きついてた。
 私泣いてたの……記憶の中の幼いセルジュのことを求め……幼いセルジュと過ごした日々をその瞳の奥に思い浮かべて………。
 そしていつしか私の意識は深い眠りの中に落ちて行ったの。
 
 
 
 
 それからどれくらい経ったかな……私が深い眠りの中に落ちていたその時だったわ。
 
 
『…レナ、レナ…』
 
 誰かが私に語りかけてくるのが聞こえたの。
 ううん、耳で聞こえるんじゃないの。心で感じるの。
 誰かが私の意識の中に直接語りかけて来るのを感じたの。
 
 
『…レナは今苦しくて仕方ないんだね。弱い自分がイヤで嫌いになりそうなんだね…』
 
 あ…あなたは…?
 
 気づくと私の前には小さな少年がいたわ。
 その子とは言葉じゃなくの…その、心と心で会話しているといえばいいのかな?そんな感じだったの。
 
 
『…でもそれは違うよ。レナは弱くなんか無いんだよ。少なくても僕の知ってる中では誰よりも強いんだよ…』
 
 その少年の声は私の記憶のそこに眠る懐かしい声……まるで私の心の中から何かを解き放ってくれる……そんな声だったの。
 
 
『…けど今のままじゃダメ。自分の気持ちを解放してあげなくちゃ、このままだとレナの心は壊れちゃうよ…』
 
 心が…壊れちゃう?それってどういうことなの?気持ちを開放しろってどうすればいいの?
 
『…レナ レナはその答えを知っているはずだよ。ただ知らないふりをして自分から目を背けている。それだけなんだよ…』
 
 そう言うと少年は私の手を優しく包むようにとったの……優しく微笑みながら。なんだかとても懐かしかった……抱きしめたいくらいに愛しいぬくもりだったのを私は覚えてる。
 
 
『…さぁ行こう。本当の自分を探しに。泣いてばかりいると宝物が見つからなくなるよ…』
 
 少年は微笑んだまま、私を背中を押すように励ましてくれた。
 そして彼は私の前から姿を消したの。
 
 
 待って!あなたは一体誰なの!?
 私はあなたのことを知っている気がするの!
 お願い答えて!あなたは誰!?誰なの!?

 
 私は必死に彼を呼んだ。
 心の中からその子を呼んだわ。
 心の声が枯れてしまいそうなくらいに……。
 
 
『…もっと耳を傾けてごらん。心の中の自分にさ…』
 
 その言葉の後、突然目の前が明るく光りだして………私の意識はそこで、ゆっくりと手放すように途切れたの………私は夢を見ていたのかも知れない。
 とても不思議な夢を……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「レナ…レナ…」
 
 
 それからだったわ。
 私を優しく眠りから覚ますように、そっと耳元で呼びかけられたの…私の想いを寄せる彼の声に。
 
 
「レナ、気がついた?」
 
 
 私が目を覚ますと、そこには私が心から求めていたあなたがいて……私を優しく見つめていてくれたの。
 
 
「探したんだよレナの事。いきなり突然飛び出して行っちゃうんだもん。」
 
 
 そう…あなたはずっと私を探して、ずっと後を追って来た。
 ずっと心配してくれてた。
 それを示すようにあなたは手を差し述べてくれて……、
 
 
「帰ろう、みんなの所へ。僕心配したんだよ。いや、僕だけじゃない。みんな心配してるんだ。だから帰ろう。」
 
 
 本当は嬉しかった。
 あなたの優しさが嬉しくて……本当はあなたの胸に飛び込みたかった!
 すぐにでも!!でも…でも、私は……、
 
 
「帰って…」
 
「えっ…?」
「あなた一人で帰って……」
 
 
 それでも素直になれなかった。
 テルミナでのキッドとの、二人の絆を思い出だすだけで胸が苦しくて……張り裂けそうだった!もう二人の事を考えるだけで私、どうかしちゃいそうだった!!
 
 
「…どうして?どうしてそんな事言うの?みんな本当にレナの事が」
 
「帰ってって言ってるのよ!あなたに話す事なんか何も無いわ!私に構わないでよ!!」
 
「レ…レナ?」
 
「一体何しに来たのよ!私の事なんか心配もしてないくせに!どうでもいいくせに!!」
 
「レナ……」
 
「あなたキッドが好きなんでしょ!だったらずっとキッドと仲良くしてれば良いじゃない!さっさと帰りなさいよ!!セルジュなんか大ッ嫌い!!
 
 
 もう頭の中がめちゃくちゃで!!
 自分でも何を言ってるのか分からなかった!

 ただどうしてか、この時はあなたを責めるような、八つ当たりをするような言い方しか出来なかったの。本当は素直になりたいのに ……あなたにに想いを伝えたいのに!
 あなたに……セルジュに愛されたいのに!!
 
 
 
「…自分が何を言っているのかわかってるのかい?」
 
 
 突然、声の調子が変わったのがわかった。
 あなたの声は怒りを帯びているように感じられたわ。
 
 
「レナの様子がおかしい事ぐらい、苦しんでいる事ぐらいわからないとでも思っていたのかい。だからこうして君の後を追ってきたっていうのに」
 
「な、何が言いたいのよ?ハッキリしなさいよ!
 
 
 正直に言うとね、この時あなたと向き合っているのが少し怖かったんだ。
 この後何を言われるかと思うと怖かったの。
 
 
「ハッキリ言うよ。僕は今ここに来た事を後悔してるよ。レナがこんなにも弱い女の子だという事を知ってしまったんだからね。」
 
「何ですってぇ……」
 
 
 この時の言葉で私の中にハッキリとした感情が、わき上がってきたの……ハッキリとした怒りが……、
 
 
「レナがこんなに弱いなんて、見損なったよ!!
 
「何よそれ……そんなことを言うために、そんな嫌味を言うためにわざわざ来たっていうの!?
 
「自分で招いた事だよレナ!!君は自分に負けた!自分の気持ちに勝てなかった!自分と向き合う事が出来なかった!だからこうなった!!みんなレナ自身のせいだ!!!」
 
「何よ!偉そうな事言わないで!セルジュに私の何が分かるって言うの!!?」
 
 
 この言葉の後、セルジュは少し黙り込んだ……そしてこう言ったの。
 
 
「……分からないね。自分にさえ勝てないような弱虫の気持ちなんか分かるもんか!!レナの弱虫!!!
 
 
 その言葉に私の怒りは頂点に達したの。
 そして……、
 
 
パァン!!
 
 そして怒りのあまりに、あなたのことを思いっきり叩いた。
 私は心の底から湧き上がってくる感情を抑えきることが出来なかったのよ。

  
「何よ!!セルジュのバカ!!最低!!大ッ嫌い!!
 
 
「弱虫!!!」
 
 
 パァーン!!!
 
「うぁっっ!!」
 
 
 そんな私をあなたも叩いた。ううん、私なんかよりずっとずっと強い力で、その体ごとぶつかってくるぐらいに強い力で……私はそのまま倒れてしまったの。
 
 
「レナのバカ!!弱虫!!許せない!!!
 
「きゃあ!!」
 
 
 そして倒れてしまった私を体ごと抑え込んだの。
 あなたの力は私なんかよりずっと強くて………、
 
 
「いやっ!!離して!離してよ!!離してよセルジュ!!!」
 
 
 私動けなかった。
 あなたに手足をグッと強く抑え込まれて……手足が痛くなるくらいに強く……もう私泣いてしまいそうだった。何も、どうすることも出来ない自分が悔しくて、泣き出したかった。
 もう今にも泣いてしまいそうな時だったわ……。
 
 
「許せない!!!」
 
「あっ、んくっっ・・・・!!!
 
 
 あなたが私に思いっきり強くキスしたのは……。
 唇を塞ぐように、力いっぱいにキスしたのは……。

 そうなの…私は泣いてばかりの弱い娘なのに、あなたに強く抱きしめられるように、 それでも優しく愛撫されるようにキスをされて……。
 
 
「んっ!……んくっ!……んんんっ!!……」
 
 
 いやっ!!
 セルジュ!!!

 
 私は抵抗しようとして腕を伸ばしたわ。
 でも……体に力が入らなかった。だって、逆らえるわけないじゃない!
 拒めるわけないじゃない!! 本当は私…ずっとあなたに、こうされる事を望んでいたのだから。もう目の奥が熱くなって…涙があふれちゃいそうだった。
 
 
んっ!!…んんっ!!…んはっ!!!…はぁはぁはぁ……セルジュ……」
 
「レナ…君の心が泣いてるよ…自由になりたいって、泣いてるよ。だから開放してあげよ。自分の心を…自分自身をさ」
 
「……セルジュ……」
 
 
 その途端、私は今までの全ての抵抗を忘れて……その、泣いたの……思いっきり声を上げて……あなたはそんな私を、泣きじゃくる私を強く抱きしめてくれて……、
 
 
「ごめん…なさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。だって私、自分でどうしていいかわからなかったの。辛くて悲しくて……そんな気持ちをどうしたらいいのかわからなかったの。」
 
 
 ぬくもりのあるあなたの胸の中で、全てを打ち明けたの。
 親に泣きつく子供のようにすがりついて……心の内の全てを、素直に打ち明けたの。
 
 
「やっと…やっと素直になってくれたね、レナ。もう僕の前で何も隠さなくていいんだよ。だから、ほら…。」
 
「…うん。」
 
 あなたはこんな私を温かい心で優しく包んでくれて……私はその中で、素直に、自分の全てを開放するように声を出して泣いた。そして私の心の中の苦しみは……胸が張り裂けそうな辛く悲しい気持ちは……完全にその姿を消したの。
 
 
 ありがとうセルジュ。
 私あなたの中で本当の自分に向き合えた。
 ずっと昔に無くしていた宝物にめぐり会えた。
 本当にありがとうセルジュ

 
 私嬉しかった……だって、やっとあなたの前で素直になれたんだもん。
 ううん、何よりあなたが本当の私を見てくれて幸せだった。けど、あなたの前で泣くなんて、今考えるとちょっと恥かしくなっちゃう……かな。
 だって抱きしめてくれている間ずっと泣き続けていたんだもん。
 
 
 
 
 
 
 
「ねぇセルジュ。どうして私なんかを?あなたが好きなのはキッドなんでしょう?それなのに…」
 
 
 そう、私はどうしてもその事が気になって仕方なかった。だからね、思う存分に泣いて、もう涙が引いた後にあなたに聞いてみたの。
 でも、これは突然すぎると自分でも思ったわ。だってあなたは、突然どうしたんだい、と言わんばかりの顔をしていたんだもの。本当に無理ない事言っちゃったよね、私ったら。
 それでもあなたは笑顔で私に応えてくれた。
 私を優しく見つめて・・・・・ね。
 
 
「確かに僕はキッドが好きだよ。でも、僕のレナに対する気持ちは変わらないよ。前にも言ったろ、レナはレナだって…。」
 
「私への……気持ち?」
 
「そう、僕のいた世界のレナはね、それはいつも元気で勝気で笑顔で……そんな彼女はいつも僕に幸せを運んでくれた。レナは僕の憧れだったんだ。心の光といえばいいのかな。そんな存在だったんだ。」
 
 
 あなたの生きているもう一つの世界、もう一つの世界の私……聞けば聞くほど、なんだか不思議な話だったなぁ。だってもう一人の私なんて、まるでおとぎ話じゃない♪
 正直もっと知りたいなぁ、もう一人の私を♪
 
 
「君だってそうだよ。この世界に初めて来た時、不安だった僕にレナは笑顔をくれた。僕を優しく励ましてくれた。笑顔で明るく照らしてくれた。君も僕の光だったんだ。今でも僕はそう思ってる。」
 
「セルジュ…」
 
 
 この時はちょっと不思議な気分だったかな。
 それは確かに、そう思われているっていうのは嬉しいんだけど、面と向かって言われると……ちょっぴり恥かしいかな、やっぱり……。
 
 
「だからレナ。今さらだけど…僕の素直な気持ち聞いて欲しいんだ!
 
 
 え…?
 セ…セルジュの……気持ち……?

 
 本当言うと胸のドキドキが止まらなかった。
 もちろん私はキッドには敵わないって事は分かってた。
 分かってたけど……やっぱりドキドキしちゃうよ。
 だってあなたの本当の気持ち、知りたかったんだもん!
 
 
「レナ。今さら遅いかもしれないけど、ずっと僕のそばにいて欲しいんだ!ずっと笑顔でいて欲しいんだ!ずっと僕の光であり続けて欲しいんだ!!
 
 
 セ……セルジュ!!
 
「……本当?本当…に?」
 
 
 嬉しかった。
 あなたが私をそんな大切に想ってくれていたなんて……本当に嬉しかった!!
 だって、今まで私のことなんて心の片隅にも無いって思ってたんだもん!
 私あなたの前で素直になれて良かった!本当に良かった!!
 私、嬉しくて嬉しくて、また……、
 
 
「今日は泣いてばかりだね。レナ。」
 
「あ…やだ、私ったら……さっき泣いたばかりなのに…」
 
 
 温かい涙が頬を伝って……また泣いちゃったんだ。
 あんなに温もりのある胸の中で泣いたのに……いつからこんな泣き虫になっちゃったんだろうね、私。本当恥かしいよ、あなたの前なのに…。
 
 
「いいよ、おいで。」
 
「…うん。」
 
 
 そんな私をあなたはそっと抱き寄せた。
 そして、どちらからともなく交わすキス………
 
 
「んっ……」
 
 
 ………今度はお互いにそっと触れ合う優しいキス………それでもあなたと私の掛け橋な甘いキス………、
 
 
「…ん……っはぁ、んっ……」
 
 
 セルジュ……大好き!大好き!!
 
 ……手そして交わされる抱擁……私、それだけで幸せだった。
 世界で一番幸せだったよ。ありがとう……本当にありがとう……本当に……。
 
 
 
 
 
 
 
 
「…そろそろテルミナへ帰ろう、レナ。みんな心配してるよ、きっと。」
 
「え…あ、うん。そうね……」
 
 
 そう言って私は、ゆっくりあなたの手を取ろうとしたの。
 けど………、
 
 
「…レナ?どうかしたのかい?」
 
 
 けど私、この時少し迷っちゃってたんだ。
 だって、本当は帰りたくなんかなかったんだもん。
 ずっと静かに触れ合っていたかったんだもの。
 
 
「…ごめんなさい。やっぱり、まだ帰りたくない……」
 
「え?レナ?」
 
「まだテルミナには帰りたくないの。セルジュと二人だけでいたい……」
 
 
 私はまだ、あなたと……あなたと二人きりでいたかったの。
 だから……、
 
 
「お願い、セルジュ。今夜だけでいいの…今夜だけ、私の傍にいて…」
 
 
 だから私はあなたにすがり付いてお願いしたの。
 
 
 ごめんなさいセルジュ。
 でも今だけは……今だけでいいの。
 あなたのぬくもりに甘えさせて、お願い……。

 
 
「…レナ……」
 
 
 もちろん無理を言ってるのは分かってるわ。
 だって……だって、あなたが本当に好きなのはキッドだもの。
 テルミナであなたとキッドが互いに頬を赤くして見つめあっているのを見た時から分かってた。あなたが心から好きなのは……心の底から想っているのはキッドだって事は……私なんかじゃないって事は分かってた。
 
 それでも……それでも私は そうせずにはいられなかったの。
 だって、このままキッドの所に帰ってしまったら、あなたはもう私の方を見てくれなくなるじゃないかって……私の傍からいなくなっちゃうかもしれないって……そう思うと、心が辛くて仕方なくて………だから私あなたをキッドの傍に行かせたくなかったの!引き止めずにはいられなかったの!
 
 けれど私の心は不安でいっぱいだった。
 私がどんなにあなたを想おうと、あなたがキッドを好きなのは変えようのない事実だから……もしかしたら、私のお願いはあなたの胸に届かないかもしれない…私がどんなにお願いしても、あなたはキッドのいる街へ帰ろうとするかもしれない。
 
 そう思うと怖くて怖くてたまらなかった。
 だけど………、
 
 
「分かった。今夜は君の傍にいてあげるよ。絶対に一人になんかしない。約束するよ。」
 
「ほ…本当、に…いい…の?」
 
「嘘つくわけないだろ。約束だ。」
 
「……うん、約束…。」
 
 
 だけどあなたは、そんな私を優しく抱きしめ返してくれた。
 私のワガママなお願いを承諾してくれた。

 こんな私に……涙声になって答える私に、心を丸ごと包んでくれるような優しい笑顔までくれて……そんなあなたの優しさがすごく嬉しかった。ものすごく嬉しかった!!
 だからね、これから始まる あなたと私の二人だけの時間を大切にしようと思った。短いけれど、私にとっては何よりもかけがえの無い二人だけの時間を大切にしようと思った。
 あなたが…セルジュがくれた大切な贈り物を……そんな時だったわ……、
 
 
「あ!見てセルジュ!流れ星!」
 
「本当だ。凄く綺麗だね。」
 
 
 満天の星空の中を、綺麗な流れ星が……まるで、星空の女神のような美しい流れ星が通り過ぎたのは……。
 
 
「お願い事、しなくちゃね。」
 
「何てお願いするんだい?レナは。」
 
「えへっ♪秘密だよ♪」
 
 
 私のお願い事?決まってるじゃない♪
 私のお願い事……それは……
 
 
 セルジュの、セルジュに傍にずっといられますように。
 きっとセルジュと幸せになれますように

 
『…なれるよきっと。僕が保証する…』
 
 え…?今の声、
 確か……、

 
 私が幼いセルジュの墓の方を振り返ると、そこには夢の中の少年が立っていたの。
 満面の笑みを浮かべて……。
 
 
 あ…あなた、あの時の……、
 
『…大丈夫。今の素直なレナなら問題ない。だって僕が好きになったレナは誰よりも強いんだから…』
 
 そう言い終えると、少年の姿は消えてしまったの。
 夢で見た時と同じように……。
 
 
「待って!あなたもしかして!」
 
「レナ。一体どうしたんだい?」
 
 
 その言葉で私は我にかえった。
 その後、私はすぐに首を横に振ったの。
 心配そうに私を見つめるあなたを心配させたくなかったから……。
 
 
「ううん、なんでもないわ。大丈夫よ。」
 
 
 そう言って私は再び岬の先の、幼いセルジュの墓の方を見た。
 夢の中の少年の事を思いながら……。
 
 
 そうか……そうだったんだね。
 やっぱり、やっぱりあなたは……、

 
 そう……今ならわかる。
 ううん、今やっと分かった。
 あの子が誰なのか……あの子が私に伝えようとした想いが、今やっと……。
 
 
 ありがとう。
 あなたの想い、しっかり受け取ったわ。
 もう私何があっても絶対にくじけたりしないよ。

 
 だから私頑張るわ。
 頑張って、きっとあなたを……セルジュを振り向かせて見せる!
 きっとキッドよりも素敵な女の子になってみせるわ!
 きっと……、
 
 
 これからはどんな事があっても自分に負けない。
 だから…だから私のことを見守っていてね……セルジュ。

 
 
 
『…頑張れ!!レナ!!…』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 それから私たちはアルニ村に……アルニ村の桟橋の上に……あなたと初めて会った……ううん、再会したあの場所に向かったの。
 そして桟橋の上で私たちは、満天の星空に輝くたくさんの星たちに見守られる中、その体を横にしたの。

 私はあなたと一言も言葉を交わすことなく、横になったまま抱き合って……お互いを優しく包み込んで、まるで何度も慰め合うようにして……私たちはお互いに何度もその身をそっと寄せ合ったの。

 ううん、言葉は 必要なかったの。
 お互いにその存在を確かめ合うように、そっと寄りそい合うだけで………それだけで、あなたと私の心は通じ合えるのだから………あなたと私は一つになれるのだから……。
 それは私の心を癒してくれる恋の一部であり、恋の全てでもあったの。そう……まるで、あなたの事をずっと想い続ける私自身の心を表すかのように……

 
 
 
 ありがとうセルジュ。私、本当に嬉しかった。
 短い間だけでもあなたと一つになる事が出来て幸せだった。
 私、忘れない。
 あなたが今だけでも私を見てくれたこと、また一つあなたとの宝物が出来たこと…忘れないよ、絶対に………。

 
 
 
 
 
 それからどれだけの時間が経ったかな?
 私はいつの間にかあなたの中で眠ってしまって…まぶしい陽の光で目を覚ましたの。
 あなたはというと、まだ隣で眠ったまま。
 だから私ね、ちょっと覗き込んでみたの。
 あなたの、ね・が・お♪
 
 
「えへっ♪カワイイっ♪」
 
 
 可愛かったなぁ、あなたの寝顔♪
 出来る事なら、このままあなたにキスしちゃいたかった。
 ううん、このままあなたの中に飛び込んでしまいたかった。
 
 でも、やっぱりそれはダメ……いけないの。
 
 だってあなたにはキッドがいるもの……あなたが本当に好きだと想っているのはキッドだもの。だから少なくても今は……セルジュが振り向いてくれるまではダメ!
 だって私、今のままじゃ、あなたに何をしてもあなたを……セルジュを 振り向かせる事は出来ないもの。それに、私はあなたに心の内の全てを伝える事が出来た。
 今はそれだけでじゅうぶんだよ。
 
 これ以上のことを望むなら、もっと素敵な女の子にならなくちゃね!
 もちろんキッドに負けないくらいに……ね!!
 
 
「セルジュ。ありがとね。私もっと強くなるから……世界で一番誰よりも強くなるから、だからその時は……ねっ♪」
 
 
 眠っているあなたにそう言うと、私は桟橋に腰をかけて鼻唄を歌いながら潮風に当たったわ。この時の潮風はすごく心地よかったなぁ。だって、私の心の中は大好きなあなたの事でいっぱいになっていたんだもん♪
 
 あなたの事で……セルジュのことで私満たされていたのよ♪
 身も心も幸せいっぱいになるのも当然じゃない♪
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「う…う〜ん……」
 
「あら、セルジュ。ようやくお目覚めかしら?」
 
「ああ、レナ。おはよう。」
 
 
 おはよう……か。
 でもね、私はその…おはよう…を待ってたんだよ。
 だって私、あなたが目を覚ましたら、どうしても直接あなたに伝えなくちゃいけないことが………ううん、伝えないと絶対に後悔する事が……、
 
 
「ねぇセルジュ…」
 
「何だい?」
 
「昨夜はどうもありがとう。私の気持ちをわかってくれて……わたしの事を見てくれて本当にありがとう。」
 
 
 そう。
 私はどうしても昨夜の事で、面と向かってあなたにお礼が言いたかったんだ。だけど、今まで自分がして来たことを考えると、その……昨夜はどうしても気持ちの整理がつかなかったの。
 自分から言い出す勇気が持てなかったの。

 でも今言わないと、きっともう言えなくなっちゃうから……だから思い切って言う事にしたの。でもあなたは……
 
 
「お礼を言われても困るよ。それに僕も悪かったよ。レナの気持ちに応えてあげられなくて。君を苦しませてしまって。」
 
 
 そう言うとあなたはそっと立ち上がって、私に背を向けてしまって………そんなあなたに私はたまらなくなって………、
 
 
「いい、いいの…」
 
 
 ……気が付いたら私、後ろから優しく触れるようにあなたの背中を抱きしめていたの。ううん、悪いのは私なのに、謝るあなたが愛しくて……自然とそうせずにはいられなかったの。
 
 
「あなたはじゅうぶんに応えてくれたよ。私を救い出してくれた。それだけで嬉しいよ。私幸せだよ、セルジュ。」
 
「レナ……」
 
 
 もちろん、今私があなたと触れ合いたい……ずっとこうしていたいって想っちゃいけないのは分かってる。だから私は、すぐにあなたから離れたんだよ。
 でも、あなたをキッドに譲るつもりだって無いわ!
 だからね……
 
 
「本当にありがとうね、セルジュ。」
 
「だから、お礼なんていいんだよ。それに僕は」
 
「分かってるわ。私じゃキッドには敵わない……でしょ。」
 
 
 だからこそ、私はあなたの前に立って、上目遣いになって忠告したんだよ!
 だって、これだけはどうしても、あなたには知っていて欲しかったんだから!
 
 
でも!…私は諦めたわけじゃあ無いんだからね。」
 
「え?それって、つまり…」
 
だから!いつかキッドより素敵な女の子になって、セルジュを振り向かせるの。それならいいでしょ♪」
 
 
 もちろん!それはキッドなんかには負けないっていう、私の決意!!
 第一、もうキッドに嫉妬するなんて、みっともない事はしたくなかったもの。
 
 
「なるほどね。そういうことか♪」
 
「そう、そういうこと♪」
 
 
 だからこれからはキッドを目標にするの!
 一人の女の子として、必ず超えて見せるわ!…って目標にね。
 もう弱い自分は卒業なの!卒業!!それなのに……、
 
 
「だけど!!」
 
「・・・だけど・・?」
 
「だけどキッドはすごく手強いよ。それでも、勝つ自信はあるのかい?」
 
 
 それなのに…あなたったらそんな私に、そんな事言うんだもん。
 ちょっとムカッとしちゃったよ。
 
 
「ああっ、ちょっと!何よそれ!?私はいつまでも弱虫じゃないんのよ。いつまでも泣いてばかりの弱い女の子じゃないんですからねっ!
 
 
 この時ばかりは、さすがに私もそっぽ向いちゃったっけ。
 だって私、この時だけは本当に少し拗ねちゃったんもん。
 あなたに弱い女の子だって思われてて……。
 
 
「ああ、分かった分かった。ごめんごめん。悪かったね。レナ。」
 
 
 でも、私はあなたが思ってるほど弱い女の子じゃないの!
 だから私は、手を合わせて謝るあなたに、思いっきり……、
 
 
本当にもおっ!セルジュを想う気持ちなら、誰にだって負けてないんですからね!!だ・か・ら・覚悟しときなさい。私、絶対に諦めないわよ。最後にあなたに本気で『好きっ!』って言わせてみせるのは、私なんだからねっ。」
 
 
 思いっきり胸を張って言い返したのよ!
 だってあなたに……セルジュに、私は本当は強いんだからねっ!
 本気であなたを振り向かせてみせるんだから!
 …って所を見せたかったんだもん!だからこそ……
 
 
「なるほどね。つまりは、この僕にこころから本気の本気で『予告K・O宣言!』ってわけね♪」
 
 
 だからこそ、あなたは気付いてくれたんだよね。
 そう……私の、本当のこころの気持ちに…ねっ♪
 
 
「…うふっ、そうよっ。やっと気付いたかしら。もうっ、当然じゃない。恋のかけ引きなら絶対に負けないわよ♪私のアタック、すごーくキツいんだからねっ♪」
 
 
 そんなあなたが嬉しくて、私は笑いながら言ったわ。
 それもさらに、優越感にも浸ってね♪
 でも次の瞬間……、
 
 
よし!それでこそレナだね♪」
 
「あっ……」
 
 
 本当に胸がドキドキしちゃった。
 だってあなたは私の肩を、両手でポンっと抱き寄せてくれたんだもの。
 それも満面の笑みでね。だから……だから私も、思わずつい笑顔になっちゃったの♪
 
 
「えへへ♪ありがと♪」
 
 
 どうしてかな?
 どうして一緒にいるだけでこんなに嬉しくなれるのかな?
 胸がこんなに弾んでくるのかな?
 やっぱりこれがセルジュの魅力なんだろうなぁ。
 だからセルジュって大好き♪

 
 そう…あなたは本当に不思議な人……そばにいるだけでこんなに楽しくて元気になっちゃう。だから私はあなたのことを好きになったのかもしれない。
 何があっても負けない強い意志と不思議な優しさを持ったあなたを……。
 だからあなたのことは絶対に譲れないわ!
 何としてでも、必ず恋人同士になって見せるんだから!!
 もうキッドでも何でも来なさい!!!

 なんてね……あなたに元気付けられた今の私の心はそんな感じかな。
 だって 仕方ないじゃない。
 私はあなたが大好きなんだから。

 これだけは、絶対に変わらないんだからっ。
 
 
 
 
 
 
 
「ところで……いつまで僕たちはみんなを待たせておけばいいのかな?もうみんな怒ってるよ、きっと。」
 
「あっ、いっけなーい。すっかり忘れてた。もういい加減に戻らないとマズイかしら?」
 
「そりゃさすがにマズイでしょう。だってもう半日以上待たせてるんだよ。さぁっ、戻ろう。」
 
 
 そう言ってあなたは私の手を引いて歩み出そうとした。でも、私は……、
 
 
「あ、あのセルジュ…?」
 
「ん?何だい?レナ。」
 
 
 私は、先に進もうとするあなたのことを引き止めてしまって……その……、
 
 
「あのね、セルジュ……またこうして二人きりになれる時が来るかな…?私、出来るならまたセルジュと二人きりになれる時間が欲しいの!ううん、また私と二人きりでこうして欲しいの!
 
 
 またワガママなお願いをしちゃったの……。
 せっかくあなたが、私を一人にしないっていう約束を守ってくれたのに……またワガママを言ってしまったの。
 
 
「………ダメ、かな?」
 
 
 もちろん自分がどんなに身勝手なことを言っているかは分かってた。
 けど、どうしてもそうせずにはいられなかった……あなたに胸の内側を打ち明けずにはいられなかった。
 だって私……私、それほどにまであなたが……あなたの事が……。
 だけどそんなのは私の勝手…私の、身勝手…私の、ワガママ……だからね、
 今回ばかりは私もダメかと思った……あなたに、いい加減にしろ!って、怒られるかと思った。でも…、
 
 
「ああ。いいよ。またいつかきっと二人きりで……約束だっ!
 
えっ!…いいの?本当にいいの!?
 
 
 それでも、あなたは快く約束してくれた。
 何より、また私に笑顔で返してくれた!
 また私に優しい笑顔をくれた!!
 
 
「だってレナは僕の大切な人だよ。レナにそんな顔されたら……断れないじゃん!
 
 
 そんなあなた笑顔のあなたが嬉しくて、私……
 
 
「セルジュ……ありがとう!セルジュ!
 
 
 私あなたに抱きついちゃった♪思いっきり抱きついちゃったの♪
 あなたが…セルジュが大好きって想いも込めて…ねっ♪
 
 
あっ!……もうっ、レナったら大胆だなぁ。いきなり抱きついて来るなんてさ。」
 
「えへへ♪だってぇ〜♪」
 
 
 だって嬉しかったんだもん♪仕方ないじゃない♪
 あなただって、私を抱きしめ返してくれて、頭を撫でてくれたじゃない…何度も何度も、優しくそっと……。
 もう私の心は幸せいっぱいだったわ!
 もし出来るなら、このままずっと抱き合っていたかったなぁ……。

 でも、それはダメ。
 だって、まだキッドとの決着がついていないもの。

 これから先は、キッドと正々堂々と勝負して、勝ってからじゃないとね!
 それでこそ、初めてあなたを私の方に振り向かせる事が出来るんだから!!
 
 
「さぁ行こう。みんな待ちくたびれてるよ、きっと。」
 
「そうね。行きましょう。」
 
 
 こうして私は歩み出したの。
 キッドという目標に……ううん、恋のライバルに向かって……その胸には、絶対に負けないっていう強い闘志を秘めてね!
 
 
 待ってなさいよキッド!
 セルジュの心は絶対に私が射抜いて見せるんだから!
 勝つのは私よ!!

 
 そうよ!勝つのは私!私なんだから!
 私は必ずあなたの恋人になって見せるんだからね!
 セルジュっ!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
かぁ―――っ!!やってくれるぜ、あの二人は。とてもじゃねぇけどオイラついていけねーや……」
 
「憎いでしゅ♪憎いでしゅ♪二人とも憎いでしゅる♪けどイイんでしゅか?キッドしゃん?レナしゃんかなりイイ感じになってるでしゅるよ。」
 
「へっ!心優しいキッド様だ!今日ぐらい目をつぶってやらぁ―!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 セルジュ、私はあなたが好き。
 誰が何と言おうとあなたが好きだよ。

 
 
私頑張る。何があっても諦めない。
 絶対にあなたを私の方に振り向かせるから。

 
 
必ず誰よりも素敵な女の子になってみせるから。
 きっとキッドにだって勝ってみせるから。

 
 
そしてあなたに心の底から好きって言わせてみせるから。
 だからその時こそ、その時こそセルジュ、

 
 
私だけを見て 。

 きっと私を見て。

 私だけを見て。

 きっと私を見て。

 きっと…
 
 
 
 
 
END
 
 
 後書き
 
 
 ついに迎えたセルジュ×レナの最終章。
 僕の中では、時に強くもあり、時に弱くもある。それがレナなんです。
 この最終章ではそんなレナを描きたかったんです。そして、レナにはセルジュとどんな形であれ、幸せな未来をつかんで欲しかったんです。
 一度は逃げ出したレナですが、最後には勝気で幸せなレナになれました。終わりよければ全て良し♪この小説ではそれが実現できて、 とても嬉しい限りです。
 なぜなら僕はレナのことを、心から大好きだからです。レナには幸せになって欲しいと今でも思っています。クロノクロスでも、それが可能なエンディングがあったのは嬉しかったです。
 
 レナよ、どうかお幸せに!!
 

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