そう思ってた時だった。
あの子が……、
「遅ぇーぞ、セルジュ。」
キッドが私の前に現れたの。
「キッド!?なんでココに?」
「何で?じゃねーだろ。」
最初に会った時はビックリしたわ。
まるで男の子みたい…って。それもそのはずよ。
「俺がどれだけ待ったと思ってるんだ?」
だって、女の子なのに自分のことを俺、なんて言うのよ。
服装だって男の子みたいだったし。
いろんな意味で印象が強い子だったわ。例えばこの後だって………、
「ったく、こんなにかわいいレディを……ん?」
私のことを見るなり、ニヤ〜って笑って………、
「ちょっと…何なの?あなた。」
「ハハ〜ン……そういうことか。」
目の前まで来て、ニヤけながら私の顔をじろじろ覗き込んだりするのよ、キッドったら。
いくら何でも初対面に対して失礼でしょ。けど、こんなのは序の口。もっと印象が強いと思ったのは、私も真似出来ないほどの その大胆さ。
もう、キッドったら本当に大胆なのよ、この後、目の前でいきなり………、
「分かったぜ。こちらのお嬢さんがお前のナニってわけか♪」
「ちょ…ちょっとキッド!」
や…やだ、いきなり何言い出すのよ。
…恥かしいじゃない。
なんて事言うのよ。
もうビックリを通り越して恥かしかったわ。
顔から火が出るくらいに恥かしかった……けど、ホント言うとね………、
「まぁ心配するなって。俺は恋人たちの語らいを邪魔するような野暮じゃねーからよ♪」
「ちょっと待った!君と僕は昨日会ったばかりだろう。その君が一体何を分かりきったような事いい出すんだい?」
本当は凄く嬉しかったの。
だってそうでしょう。
それって私たち二人が恋人に見えるって事でしょう♪
だって私あなたのこと好きだもん♪
恋人だなんて言われたら凄く嬉しいわ♪
心がウキウキ弾んじゃうぐらいに凄くよ♪
「まぁ隠すことねぇって。心優しいキッド様だ。しばらく待っててやるって♪ついでにその犬も預かっててやるぜ♪」
「シュ!!ポシュル犬じゃないでしゅる!!」
「犬じゃないって、どう見ても犬だろ♪」
「だから犬じゃないでしゅ!ポッチャリでしゅ!ポシュルはポッチャリレディでしゅる!!」
「プッ…タッハッハッハッハッハ!!」
「笑うなでしゅる!!!何がおかしいんでしゅる!!!」
「ハッハッハッ…分かった、分かった。そういうことにしとくぜ、ポッチャリレディさん♪」
「シュ!!あんたしゃんなんか嫌いでしゅる!!」
だからこんな些細なやりとりも楽しく思えたっけ♪
ポシュルが犬じゃないっていうのは日常茶飯事なのにね。
よっぽどキッドの言葉が嬉しかったんだろうな、私♪
「んじゃ、後はごゆるりと〜お二人さん♪邪魔だけにはなるなよ、ポッチャリレディさん〜♪」
何なの?あの子、私たちのことを祝福してくれているの?
じゃあもしかしてあの子は愛のキューピット?
なんて思ったりもしたっかな。
キッドはどこか子供っぽくて大胆で、それでいて思いやりがあって……あの子はどこかまた、あなたとは……セルジュとは違った意味で特別な子だったわ。
そう……特別なね……。
「シュッ!!なんかポシュルだけ扱いが軽いでしゅるね。」
「軽いって言うか、ふざけてるんじゃないかな?キッドは。」
「あら、いいじゃない。あれも一つの個性…でしょ♪」
悪い人だとは思わなかった。ううん、むしろその逆……。
「レナ。やけにご機嫌だね?何かあったの?」
「ううん♪別に♪」
まるで私たちの仲を応援してくれているみたいだったわ。
だから嬉しかったんだよ、私。
「それじゃあ行きましょう。セールジュ♪」
「わわっ!いきなり引っぱらないでよ。」
そして一緒にテルミナを見て回る私とあなた……まるでデート気分だったよ♪
初めてだよ、こんな気分♪
「コリャ!ポシュルも忘れるなでしゅる!!ちゃんと居るんでしゅからね!」
そうそう、いつの間にかポシュルがいたのすっかり忘れて置いて行っちゃったのよね。後でポシュルに見つかって怒られてヘケランの骨を買わされる事になっちゃったのよね。
まぁポシュルにもちょっと悪かったし仕方ないね。
ま、最初からいろいろあったけど本当に楽しかったなぁ。
一番のイベントは何といってもキッドとの出会いね。
だって私キッドのこと本当に「愛のキューピット」 だって思ってたもの。もし出来るならこの関係のままで旅を続けていたいな。
だってそうすれば私はあなたと……。
でも…、その想いはすぐに裏切られるなんて夢にも思わなかった。。
初めてそう思ったのはあの日。
あの日蛇骨館に潜入した時、私たちとキッドの3人はヤマネコたちに屋上にまで追い詰められた時、あの時こそが始まりだったの。
もう全ての逃げ道を失って崖から飛び降りるしかないって、みんなが崖を見下ろしていた時だった。
「ぐあぁっ!!」
キッドがヤマネコの放ったナイフを体に受けてしまったの。
一瞬崩れ落ちるキッド………、
「大丈夫か!?キッド!」
え?
セ…セルジュ?
そんなキッドをあなたは抱きかかえた……まるで大切な人を支えるかのように。
仲間なんだから……とも言えるかもしれない。
でも私にはそれが特別な光景に見えて仕方なかった。
「テテテ・・・大丈夫だ、こんなの。どうってことねぇよ。」
「大丈夫なものか。深く突き刺さっているじゃないか。」
「うるせぇーな!大丈夫って言ってるだろ!」
「大丈夫じゃない!!」
あなたはずっと彼女を、キッドのことを心配していた。
必死な顔をして………そんなあなたを前に私は少しも口をはさむ事が出来なかった。
ただそこに居るだけ……。
セルジュ…どうしてそんなに真剣なの?
どうしてそんなに一生懸命になるの?
私にだってそんな姿見せたことないのに。
私ね、この時からキッドに対してある気持ち……ある感情が芽生え始めていたのかもしれない。人として……仲間として感じちゃいけない何かを……。
それが確信に変わったのはもっと後、ガルドーブの診療所に辿り着いてからずっとずっと後だったわ。
突然キッドがヒドラの毒に倒れてしまったの。
ヤマネコのナイフを受けた時から毒が体中を回り始めていたらしいの。
診療所の先生からはヒドラの毒を中和するにはヒドラの体液が必要だって…キッドの命はもって後2日。 だけどヒドラはエルニドでは何年も前に絶滅してしまって、もうこのエルニドでは体液を入手することは不可能とさえ言われて………みんな深刻な気持ちになっていったわ。
この診療所にいる人たちみんなが…。
でもね、ただ一人私はそんな気持ちにはならなかった。
「くっそーどうすりゃいいんだ!?オイラ達にはどうすることも出来ねーってのか!?」
コルチャの言い表しようのない怒りの言葉も………、
「ねぇみなしゃん、これからどうするんでしゅか?このままじゃキッドしゃんの命が……」
ポシュルのキッドを心配する言葉も私の心には届かなかった。
ううん、ただこのまま時間だけが過ぎればいいと思った。
ただこのまま………そんな時だった。
「僕が行く!!僕がヒドラを探しに行く!!」
突然のあなたの言葉に私は驚いたわ。
だって、キッドを助けるだなんて言い出すから……もちろん私は止めようとした。
「止めてセルジュ!行くって一体どこに行くの?ヒドラが何処に居るのかさえ分からないのよ。それに私たちはヒドラがどんな生物かさえ知らないのよ。もしあなたに何かあったら」
「そんなの関係あるものか!万に一つでも可能性があるなら僕はそれに全てをかける!」
「ダメよ!そんなの危険すぎるわ!そんなの絶対私が許さ」
「仲間を見殺しに出来るものか!!!」
「…………セルジュ…」
何も言えなかった。
あなたのキッドを助けたいという気持ちの前に何も言う事が出来なかった。
初めてだったかも知れない。
あなたが……セルジュが私の反対を押し切るなんて……。
どうしてなの?
どうしてそんなにキッドに一生懸命になろうとするの?
あなたにとってキッドって何なの?そんなに特別なの?
もし出来るなら、あなたの事を止めたかったんだよ。
ううん、遠くに行って欲しくなかったんだよ……でも、出来なかった……悲しいよそんなの。あなたが手の届かないところの行っちゃうなんて。
もう泣いちゃいそうだよ。
もうダメだよ私……・
「お願いだみんな、ヒドラの体液を手に入れるために手を貸して欲しいんだ。誰か協力してくれないかい?」
「へっ、聞くまでもねぇだろ。このオイラが一緒に行ってやるぜ!」
「えっへん、他ならぬセルしゃんのためでしゅる。合点承知の助任せとけでしゅる!」
「ありがとう。コルチャ、ポシュル。それからレナ………あれ?レナは?」
「レナしゃーん!一体何処に行ったんでしゅか!」
「おーいレナ!ったく何処行っちまったんだ?あいつ。」
みんなの呼び声は私の耳には入らなかった。
だって私、すでに診療所を逃げ出していたんだもん。
辛くて、心が痛くて………。
どうして?
私はどうして逃げているの?
どうしてこんな事になっちゃったの?
どうして?……本当はわかってる。
ただ自分の気持ちを認めたくなかっただけなの。
人を妬む気持ちなんて、そんな最低な気持ち認めたくなかったの。
どうしてキッドは私たちの前に現れたの?
あの子さえ…あの子さえいなければ……、
本当は私、キッドが…あなたに強く想われているキッドがうらやましかったの。あなたの気持ちをキッドに奪われるのが悔しくて仕方なかったの。
そう……私キッドのこと 心の中でずっと嫉妬していたの。
ずっと妬み続けていたの。
もちろん人を妬むなんて感情が最低なのはわかってるわ。
でも……でも、キッドが現れてから全てがおかしく なったと思うと、キッドにあなたを取られちゃうと思うと、この感情が止め処なくあふれてくるの。
抑え続ける事が出来なくなるの。
胸が凄く苦しくて仕方ないの。
やだよ………もう、やだよ………こんな気持ち………、
もうこんな気持ちイヤだった。
あなたをキッドに取られたくなかった。
だから私いつの間にか、キッドが助からなければいいって思うようになってしまったの。ヒドラなんてどんなに探しても見つからなければ良いって。
だってそうなれば……キッドさえ居なくなれば、またあなたとの楽しい日々が戻って来るんだから。
だからと言って人の不幸を願う事が決して良くないって事はわかっているわ。
こんな事を 考えるなんて、自分はなんてひどい人間なんだろうとさえ思う。
でも……それでも私、キッドが助からないで欲しいって思わずにはいられなかった。だって……だって私、あなたの ことが……セルジュのことが好きなんだもん!
本当は今すぐにでも抱きつきたいくらいに、出来る事ならギュッと抱きしめられたいくらいに大好きなの!
ねぇ…気付いてよ。
私はセルジュのことが好きなんだよ。
だから気付いてよ…お願いだから。
これは一生に一度のお願い。
私はあなたと二人一緒に生きていきたい………二人で未来を歩みたいの。
そのためにはどんな代償を背負う事になっても良いわ。
本当にこれが一生に一度のお願いなの。
セルジュとの……大好きなあなたとの失ってしまった未来をもう一度取り戻したい、取り戻したいの。……他には何もいらない……あなたさえ…セルジュさえそばにいてくれるなら。
でも、現実はそんな私の願いさえ受け入れてはくれなかった。
「全くヒヤヒヤさせるぜ。さすがのオイラも一時はどうなる事かと思ったぜ。」
「でもキッドしゃん良くなったんでしゅよ。めでたしめでたしでしゅる〜。ねぇセルしゃん。」
「そうだね。僕たち死ぬ思いで必死にヒドラを探したんだよ。本当に元気になって嬉しいよ、キッド。」
キッドが回復して、あなたは本当にうれしそうだった。
だって幸せそうに笑みを浮かべていたんだもん……私にさえ見せたことの無い笑顔で……。
「バカヤロ、ラブコメするなって。恥かしいじゃねーか。けどよ、セルジュ……ありがとな……」
「あ。照れてるでしゅよ。キッドしゃん顔赤いでしゅる〜♪」
それはキッドも同じだった。
だって、今まで私たちに見せたことの無い幸せそうな笑顔で微笑み返していたんだから。そして満天の星空の下、テルミナの広場の中で、二人の頬はお互いに赤く紅潮していたの。
私うらやましくて仕方なかった!
心から、あなたと……セルジュと想いを通わせる事の出来るキッドが……。
「おっとそうだ。レナも元気になったキッドに何か言ってやれよ。セルジュと同じ仲間だろ。な、言ってやれよ。」
「え?あ、うん…えっと、あれほど苦しそうな顔してたのに、何よ?本当に元気になっちゃったわけ?さすが盗賊だけあって見上げた体力ね。私なんか本当に死んじゃうかと思ってたのに。」
私はこの言葉の中に本音を隠して言い放ったの。
アンタなんか死んでいれば良かった、という本音を冗談で覆い隠してね……私はキッドの回復を望んでなんかいなかったんだから。
「たりめぇだ!俺を誰だと思ってるんだ!?このキッド様が簡単にくたばるかってんだ!このラジカル・ドリーマーズのキッド様がよ♪」
キッドは笑顔で言ったわ。
私の本音は冗談で隠し切れたの。
そう、冗談で……私の気持ちなんて少しも気付かないで……、
「大嫌い……」
その途端、目の奥が熱くなって、涙がぼろぼろ溢れ出して……、
気付きなさいよ!
勘付きなさいよ!
バレなさいよ!
アンタなんか、アンタなんか大ッ嫌いなんだから!!
大ッ嫌いなんだから!!
「みんな大ッ嫌い!!!!」
私、泣きながらその場を飛び出したの!
瞳から涙が止まらなくてなって、居ても立ってもいられなくなってテルミナから逃げ出してしまったの!
もう自分を、自分の気持ちを抑えることが出来なかったの!!
「あ!レナ!待って!!レナァ!!!」
ほんの少しでもよかった!
早くこの場から逃げ出したかったの!
これ以上心が傷つく前に!
だから無我夢中で走った!
もちろん宛なんか何処にも無いわ!
ただそれでも逃げたくて仕方なかったの!
だってもう私、自分に負けちゃいそうだったんだもん!!
自分の気持ちに耐えられなかったんだもん!!
もう私どうしていいのかわからない!
だってこの気持ち、私には重いよ!重すぎるよ!!
いっそこのままどこかに遠くに消えたいよ!
誰もいない所に消えてしまいたいよ!!
セルジュ!!!
「お、おいセルジュ、待てよ、オイラも行くぜ。」
「ポシュルも行くでしゅる〜。」
「バカヤロー!余計な事するんじゃねー!!」
「な、何だよイキナリ。何で止めんだよ?」
「そうでしゅよ。このままじゃレナしゃんが」
「だからバカヤローって言ったんだ!てめえら何でレナが泣いて飛び出していったのかわからねーのか!?レナはな、セルジュのことが好きなんだよ!好きで好きで仕方ないんだよ! だからこういうことになったんじゃねーか!!オメーらそんなこともわからねーのか!?」
「……そうだったのか…だからアイツ……。」
「レナしゃん……」
「俺だって本当は気付いてたぜ……レナの気持ち。けど俺じゃ…俺達じゃどうすることも出来ないんだよ。俺やお前らが同情だけでレナの気持ちに首を突っ込んでも、ただアイツ 傷つけるだけだ。本当にレナを助けてやれるのはセルジュしかいないんだよ。俺達に出来るのはただ2人を見守る事ぐらいなんだよ。それしか出来ないんだよ…。」
「セルジュ……」
「セルしゃん……」
「セルジュ。絶対にレナを助けてやれよ。お前しかいないんだぜ。お前しか……」
第3話へ………
後書き
セルジュ×レナの小説第2弾。
今回のテーマはやはりレナのキッドに対する嫉妬でしょうか。
だってセルジュはキッドが好きだし、キッドもセルジュのことが大好きですよね。 だから何もしなければ自然とセルジュの気持ちはキッドの方に行ってしまうじゃないですか。
今回はそこにレナの強いセルジュへの想いをぶつけて見たかったんです。と言うより 僕自身レナのことが好きなんです。だからどうしてもセルジュがレナの気持ちを受け入れるところを見てみたいんです。
次こそは必ずそうさせます。
でも、もしそうなったら 二人は一体どうなるでしょうか?
|