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■REDCOW作・「回想・幼き日」
 
 ふと、振り向くと強い風が顔の真正面に向かって吹き付けて来た。
 風の向こうに見えるのはいつものように浮かぶ島々であり、いつもと変わらぬ陽気な光の中にぷかぷかと俺達の島は浮いているんだ。
 だが、その時間を思い出すにはあまりにも長かった…。
 
 
 この前、僕は母さんが器と話しているのを聴いてしまった。
 そんな気は全くなかったけど、ただ、母さんが1人でこっそりと部屋から出歩くのが珍しかったから、そっと後を付けたんだ。
 僕は怖かった。いつも優しかった母さんがあのt気は絶対正気じゃ無かった。
 器に移る自分の顔と話しているように1人でぶつぶつと話している時のあの顔は…僕達と母さんを裂いた時だったんだと思う。
 
 あの日、僕は母さんを止めたかった。いや、姉ちゃんを助けたかった…。
でも、僕には無理だった。だって、3賢者のお爺ちゃん達だって無理なんだよ?僕には…。
 でも、僕はもう泣かないんだ。姉ちゃんを助け出すためには何だってする。
 
 
 
 例えそれが…冥府魔道のものであっても。
 
 
 
「近い!この巨大な魔力はただごとじゃないぞ!」
 
 貫禄ある体型の中年の魔族の男が言った。
 その言葉に美しい姿をした女性が煩そうに返答する。しかし、その声は女性とは似つかわしく無い。
 
「そんなの言われなくたってわかるのヨネー!」
 
 そんなふたりのやり取りを見て黙して語らぬ男がもう一人そこにいた。
 
「…。」
 
 3人はゼナン中央大陸を中心に軍勢をまとめ上げ、今や魔族の中でも一定の発言力を持つに至った。
 しかし、全ての魔族をまとめあげるにはまだ及ばなかった。
 彼等は全てをまとめあげる「象徴」を欲していた。そして、それは今彼等の目前に現れようとしていたのだった。
 
「者共!包囲しろ!!!」
 
 貫禄ある体型の男が周囲の部下達に命令した。
 命令は即座に実行に移され、部下達は彼等の前方に光る青い輝きの湧き出る泉の周囲を完全に包囲した。
 
「さぁ、出るのよねぇ〜」

 美しい女性風の男が笑みを浮かべて構えた。それに呼応するように寡黙な男も自前の愛刀を抜き構えた。
 
「来る。」
 
 寡黙な男が呟いた。その瞬間、光の泉から光の柱が立ち上り、眩しい輝きが一瞬辺りを包み込むとすぐにそれは収まった。
 そして、収まったそこには光の泉も消えて1人の少年が立っていた。
 
「子ども!?」
 
 寡黙な男が驚く、しかし、その子どもからは確かに彼等が感じた「力」が感じられた。貫禄ある男が部下に命じる。
 
「取り押さえろ!」
 
 部下達が一斉に少年に向かって飛びかかる。
 しかし、その動きはまさに少年を全員が取り押さえたと思った瞬間に予想外の力で阻まれた。
 少年が周囲を睨むと全ての魔族の兵隊の動きが宙に浮いたまま止まり、少年が右手を振り上げてからひと回りすると、
 回った方向から順に全員飛びかかった元の位置の方向に吹き飛ばされたのだった。
 
「チィ!良いな!」
 
 貫禄ある男が二人に合図する。二人もそれに同意すると三人は素早く動き陣を完成させる。
 そして3人同時に少年に向かって魔法を放った。
 
 
 (続く?)

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