クロノプロジェクト正式連載版シーズン2
 

第123回「誤算(前編)」(CPss2第39話)
 
 
 ネルバの活躍で呆気なくも突然に試合は終了してしまった。これには仲間であるクロノ達も驚かざるを得なかった。
 会場はしばしの休憩時間となり、第二試合の予告が行われている。
 
 
「ミネルバさん、今のは…?」
「彼女達のフィールドは冥による完全無属性反射フィールドを形成していました。しかし、先ほどの黄金の輝きは無属性反射フィールドから天の吸収フィールドに変化したのです。私のマイティガードであれば、無属性反射フィールド同士の衝突では無力でしたが、属性のあるフィールドに対しては貫通できます。」
「…凄い。でも、そうか、俺達が魔力をシンクロして調整した様に、相手の魔力も慎重に探ればわかる。こりゃ、ミネルバさんがいなけりゃ勝てないや。ははは。」
 
 
 クロノは思わず笑った。
 自分自身としては、アミラが察知した通りに力押しで魔力出力限界まで持って行くつもりだったが、彼女が属性変異させることまでは頭に無かった。それに対して冷静にミネルバは相手の動向を見て、的確にまさにバックアップしてくれた。
 だが、その時、ミネルバが目前でよろめいた。
 クロノは慌てて彼女の身体を支えた。
 
 
「おい、大丈夫か!?」
「ミネルバさん!?」
「…大丈夫です。ただ、少々魔力を使い過ぎたようです。」
「マイティガードか。」
「えぇ。…でも、試験も後僅か。…戦い抜きます。」
「…無理するなよ。俺達もいる。」
「はい。有り難う。」
 
 
 彼女は相当堪えている様に伺えた。
 あのマイティーガードは全属性の斥力フィールドを形成するだけに、想像以上に彼女から魔力を奪うのだろう。彼女自身は頑張ると言ってはいるが、実際にこれ以上の負担を彼女に強いるのは無理だろう。…とはいえ、次の試合はあのグリフィスとなる。そう負担をかけずに済むような話には終らないだろう。
 クロノは改めて気を引き締めた。
 
 休憩の選手控室のソファで休憩する3人。
 ウェイターの持ってきたドリンクを飲みながら休んでいると、先ほど戦ったメーガスかしまし娘。チームの面々が彼らの前に現れた。
 
 
「はぁい、チームポチョ。」
「おぅ、君らの分も戦うぜ。」
「ちょ、何言ってくれるわけ!!…もう、腹の立つのも忘れるわけ。調子狂うったら。おたくら、特にそこの緑女の魔法!あれは何なわけ!?」
 
 
 アミラの質問に、ミネルバは答えようとしない。
 
 
「…あら、回答拒否なわけ。まぁ良いわけ。あたしらは忠告に来たわけ。次の相手、あいつらやばいわけ。洞窟であいつらの戦いを観たけど、とんでもないわけ。あんな化け物、どうやって戦えば勝てるわけ?…特にあの女、ガーネットと言ったかしら、…あいつの先天属性は火みたいだけど、そんなことお構いなしに何でも使いこなしていたわけ。普通じゃないわけ。百歩譲って認めてやっても、あの魔力は尋常じゃないわけ。」
 
 
 彼女の忠告はクロノ達もハイドと彼らの戦闘を見て感じていた。彼女のあの絶対的な余裕は、それ相応の力のある現れ。彼らに弱点らしい弱点は無いだろう。今までの相手は何らかの弱点があり戦術次第で対応出来たが、次の相手は正攻法で戦う他無い。まさに力のぶつかり合いになるだろう。
 
 
「忠告有り難う。ところで、君達はグリフィスについて、他に何か無いのか?」
 
 
 クロノの問い掛けに、アミラは人さし指をあごにあてて考え始めた。
 
 
「他に何かって何なわけ?…まぁ、強いて挙げるなら、あたしの嫌いなタイプってとこかしら。ああいう女は大っ嫌いなわけ。いかにもあたし綺麗でしょ?秀才で何でもおできになりますわよ〜なタカビーな所とか、超ムカツクわけ。じゃ、精々頑張るわけ。さらばいば〜い。」
「さらばいば〜い。」
「さらばいば〜い。」
 
 
 3人がお決まり(?)の別れの言葉を口にして控室を去っていく。
 アミラの答えに、三人は思わず苦笑を禁じえなかった。
 
 
 
 
 騒めく闘技場。
 人々の声が暗い通路の中で反響して伝わってくる。
 
 
「チーム、ポチョの登場です!」
 
 
 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
 
 
 大観衆の声援を受けて、クロノ達が闘技場に入場する。2度目ともなると最初の緊張はもはや感じる事も無かったが、3人は違う方向で緊張感を感じていた。
 次の試合の相手は、今までの相手とはまるで桁が違う相手だ。あのハイドのパーテクトを素手で破壊して見せたのだから、少なくともガーネットと呼ばれる女の力は侮れない。
 アナウンスが場内に木霊する。
 
 
「チーム、グリフィスの登場です!」
 
 
 クロノ達が闘技場に上がる頃、相手チーム名がアナウンスされる。
 3人の向かい側の入り口から出て来るグリフィスチームのメンバー達は、相変わらずガーネットを先頭に二人の大男が後を歩くというスタイルのままだった。
 ガーネットは闘技場に入ると観衆に向って投げキッスを放つ。その行為に観衆の声がより大きくなった様に感じられた。
 
 
「…何あれ。感じ悪い。」
 
 
 シズクがぶっきらぼうに言った。
 クロノは何も感じなかったが、同性にはあまり受けの良くない行為だったのだろうか。
 そんなシズクの反応などを気に留める事も無く、彼女は威風堂々とでも言うべきだろうか、クロノ達3人の前に余裕の表情で現れた。
 
 
「…お手柔らかに。」
 
 
 彼女は微笑みを浮かべて挨拶を述べると、手を差し出した。
 クロノがそれに応じる。
 
 
「こちらこそ。」
 
 
 二人が握手を交わす。
 その時、彼女の視線がクロノの目を捉えた様に感じられたが、それは一瞬で、すぐににっこりと微笑むと手を離した。
 
 
「君達は、何の為にこの試験に臨んでいるんだ?」
 
 
 クロノが単刀直入に質問した。
 彼の質問に、彼女は悪びれるでも無く微笑みを讚えて答えた。
 
 
「そんなこと決まってるわ。楽しいからよ。」
 
 
 彼女の回答は何とも普通過ぎて、どう考えて良いか分からなかった。クロノ自身、正直な気持ちで言えばこの試験を楽しんでいた。
 好き嫌いで言えば、強い奴と戦えることや難しい事にチャレンジすることは苦しくも有るが楽しく好きだった。特に、それら困難を超えられた時の達成感はやめられない。
 根っからの体育系の彼からすれば、うじうじ悩んでいるよりは突き進んでぶっ壊すくらい単純明快な方が、気持ちが良いしスッキリすると言えた。彼女の反応はクロノからすれば正直共感出来なくはないものだっただけに、余計に判断に躊躇った。
 だが…、
 
 
「…そう、祭りは派手な方が大好きだから。」
 
 
 彼女はそう続けると、不意に視線を変えた。そして、投げキッスを贈った。
 その相手はVIP席で観戦する大統領へ向けたものだった。
 
 大統領がそんな彼女の行動に笑顔で手を振った。
 しかし、次の瞬間、VIP観覧席が爆発した。
 
 
 ドォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーン!!!
 
 
 爆風と悲鳴が飛び交う。
 騒然とした場内が煙が引けるに従い、沈黙する。
 煙の向こう深手を負いつつもフィールドを張って防いでいる大統領の姿があった。しかし、その力も限界と見え、フィールドが消失しかけている。
 
 
「お父様!?」
 
 
 ミネルバが叫ぶ。彼女は急いで走り、観覧席で必至にフィールドに集中し立っている大統領の元へ飛んだ。
 
 
「親思いねぇ。でも…」
 
 
 突然の出来事に、皆何が起こったのか困惑していると、ガーネットの背後に立つ二人の男が突如体中がゴムのように弾力を持ったかのごとくうごめき、なにやら巨大に変貌を始めた。
 その皮膚はみるみるうちに青くなり、ゴツゴツとした象の様な固い皮膚に変化してゆく。その顔は人間とは似ても似つかないものであり、遂にその変化が一定の形で定まった。
 そこに現れたのは巨大な二頭のヘケランだった。
 
 そして、ガーネットが桃色の宝石の玉を上空に投げた。するとその玉が粉々に爆発し、キラキラと舞い散る破片が降下しながら次第に人の形に整形され始めた。そして、
 
 
「…をーっほっほっほっほっほっほ。お久し振り………なのヨネ〜♪」
 
 
 そこに現れたのは、見まごう事はない。
 その妖艶な美貌の持ち主は、中世で見た魔王軍三魔騎士が1人…空魔士マヨネーの姿だった。
 彼女…もとい彼は、その美しき美貌を精一杯振りまくように手を広げ、高らかに観衆に言い放った。
 
 
「…あたしはマヨネー。400年の日月を経て、皆様にこの姿を披露するのよね〜!」
 
 
 観衆は突然の宣告になんとも反応しようがなかった。まずマヨネーという単語が出て来るまでに数秒の時間を要した。そして、目前に見える奇怪な美貌の持ち主を見て、歴史書に記されるマヨネー=男というイメージとはあまりにかけ離れた「女性」の登場に、どう理解すればいいのか…無理からぬ反応だった。
 しかし、そんな反応は織り込み済みとでも言うかのように、「彼」は観衆に向けて話しかけた。
 
 
「親愛なる全ての魔の力を持つ国民の皆様へ申し上げるわ!今やあたし達魔族の力、『魔力』が世界の最も高き頂に祭り上げられたことは、全ての世界の人類の知るところとなったわ。これはどういうことかしら?…あたし達が400年も昔に魔王様と共に戦った理想こそが、今の社会の姿を示したのよ?…人類は、あたし達の正当なる戦いを否定しておきながら、これはどういう了見なのよね〜?
 残念な事に、この国の政治は『魔族の共和国』でありながら、実際は人間達が裏で操る傀儡政権に成り下がっているのよね〜。あたしはおかしいと思うのよね。そうは思わない?…だって、この試験で上がってきた受験生は、人間達のメーカーで働くのよね〜?
 誤解無きように申し上げるわ!あたしはパレポリも許さない!でも、今のメディーナの体たらくはもっと許せないのよね〜!だから立ち上がったのね。…勿論、そう豪語するだけの力もあるのよね〜。」
 
 
 そういうと、彼女…もとい彼は右腕を天高く垂直に振り上げた。
 すると、すっくと闘技場の観客席で立ち上がる人々が現れた。
 
 
「あたしの忠実なる支持者の皆様なのよね〜。おや、あらら、よく見たら、国務大臣さんや財務大臣さんのお顔もあるわよね〜?うふふ、そうよねぇ〜?どうみたってあたしとビネガーじゃ、あたしの方が魅力的ですものね〜。」
「おだまりなさい!この痴れ者が。大統領閣下への狼藉では飽き足らず、我々国民が築き上げた国家への侮辱、断じて許すわけには参りません!」
 
 
 ミネルバが大統領の身体を支えながら、彼を代弁するようにマヨネーを断じた。それに対して彼は不敵な笑みを浮かべて言った。
 
 
「うふふ、そこの娘、おまえは国家を語るに足らんのよね。国民の皆様は最近の世論調査でも賢明な判断をされているのよね。代弁するならば…この国に必要なものは人間の顔色を窺う臆病主義ではない。もはや自らに革新する力を持たない人間に代わり、我々魔族の栄光の光を掲げられる強き指導者を欲している。そして、それはあたしをおいてこの国に正当なる魔の力を持った者が居て?…魔族は純血種が衰退し、人間との混血が進んだ結果「魔の力」を失いかけている。今が最後のチャンスなの。それは、おわかりよね?」
「お前の言葉は国を破滅に追い込む!平和は啀み合う事から生まれはしない!平和の無い所に…」
「おだまりなさい!!!全ては何を決めるかも国民が決めるべき事。私はこの腐った人間への中立という建前にNoを宣言する。それに賛同する者は、あたしと共に立ち上がるだけ。あたしを批判する前に、恥じるべきは己と知りなさい。」
 
 
 マヨネーの気迫がミネルバを圧倒的に凌駕した。
 ミネルバの反論を押さえ込んだその時、マヨネーに対して、闘技場の最上階に囲むように国防軍が銃口を向けて立ち並んだ。
 
 
「撃てー!!!」
 
 
 号令下、斉射される。
 しかし、マヨネーの周囲には緑色に輝くバリアフィールドが張り巡らされており、全ての攻撃は無力化されていた。彼は微笑すると、バリアフィールドに吸着させていた銃弾を全て出元へ返す様に弾いた。
 攻撃を受けて数人が防御体制をとれず貫通し倒れたが、多くの兵士は防ぎ切り突入を開始した。だが、そこに突入を妨害する者たちが現れた。なんと、それは先ほどの観衆の中でマヨネーの呼び掛けに応えた人々だった。彼らは魔法を使って兵士達に攻撃を仕掛ける。兵士達は無闇な攻撃は出来ず、場内は混乱し始めた。と、その時。
 
 
「おい、クロノ!観客は俺達が引き受ける!お前はあいつをなんとかしろ!!!」
 
 
 その声はヒカルの声だった。
 彼だけじゃない、腐れ縁チームのメンバーは勿論、フロノ・ノ・コリガー、乙子組、コアガードのメンバー達も闘技場の四方に現れてマヨネー側についた人々を押さえるのに参戦した。
 
 
「…ミネルバ、私は大丈夫だ。…お前も共に戦いなさい。」
「お父様!?」
「ここで火の粉を飛ばすわけにはいかん。」
「…わかりました。」
「大丈夫ですよ。お嬢さん。」
 
 そこに現れたのは、白いスーツを着た彼女もよく知る老紳士の姿だった。
 
 
「…アンダーソンさん!?」
「はっはっは。まぁ、彼の事は私に任せなさい。これでも、私もね…」
 
 
 彼は突然片手を上げ、掌を見せると、その中心に水晶を発生させた。
 
 
「!?…あなたは!?」
「人間で魔法が使えるのは…あそこの彼だけじゃないってことだよ。これがどういう意味かわかるね?…マヨネーの言った言葉もまた、この国の全てを表さないということだ。行きなさい。」
 
 
 彼はにっこりと微笑んで掌を握ると、魔力の集中を解いて歩み寄った。そして、古い友の肩を支えた。彼女は促されるまま彼に父を任せると、深々と頭を下げて闘技場のクロノのもとへ跳躍した。
 
 
「…フリッツ、完璧な誤算だった。…してやられたよ。」
「まぁ、そうでもないでしょ?…彼らもまた誤算が生じているさ。」
「…であれば良いが。」
「…信じよう。今は若い者達を。我々ができるのは、それを支えることさ。」
「…そうだな。老いたもんだ。」
「おおう、老いたさ。あんなに綺麗な娘さんに育つんだから。」
 
 
 二人は微笑み、娘を見送った。
 彼らの眼下ではクロノ達と合流し、力を合わせて対峙する姿が見えた。

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