クロノプロジェクト正式連載版シーズン2
 

第122話「第3次試験開催」(CPss2第38話)
 
 
 ンパン!パン!パパン!パンパン!
 
 
 闘技場の上空に開催の合図が打ち上げられる。
 白き壮麗なる競技場は日の光に照らされてキラキラと輝きを纏い、その威容は見るものを圧倒する。その姿は近くに見ることでより一層強く感じられる。
 正午の太陽の輝きに照らされる闘技場までの通路脇に見える庭園は、ボッシュの街で見た国立研究院の敷地の木々同様に独特のデザインで綺麗に整えられた樹木が植えられている。
 クロノ達は美しい庭に和みながら通路を進んでいた。
 およそ緊張感とは真逆にありそうな3人だが、カナッツに案内されて進む闘技場への道すがら、彼女から不意に話があった。
 
 
「…みなさん、いいですか?」
 
 
 彼女の声は静かでいつものように冷静だった。
 彼女の問い掛けにクロノが答える。
 
 
「なんだ?」
 
 
 彼女は振り向く事も無く、歩きながら言った。
 
 
「次の試験では大統領閣下もお見えになります。また、国営放送MBSでも配信される大切な試合となります。つまり、この試合は国民の皆様の目に触れることをご了承下さい。」
「………え?………シズク、どういうことだ???」
 
 
 カナッツの話にいまいち理解出来ない彼はシズクに尋ねた。
 その尋ねられた方は、見るとそれは湯気が出てきそうなほど真っ赤な様子だった。
 
 
「ど、どういうことですって?それはねぇ、私達の姿が全国の皆さんに届けられますよ!ってことよ。おわかり???」
「…そうか。そんなに沢山の人が見るのかぁ。格好良くしなきゃな?」
 
 
 クロノは彼女の説明に困るどころか、全く動じていない様子だった。
 シズクがそんな彼の反応に腹が立ちつつも、カナッツに尋ねた。
 
 
「あぁーもう!!…ねぇ、それってもし『不測の事態』が起きた場合は、どうなるわけ?」
 
 
 カナッツはシズクの問い掛けに少し間を置くと、答えた。
 
 
「生放送ですから、そのまま流れるでしょうね。」
「…そう。」
 
 
 カナッツの言葉にシズクはぞっとするものを感じた。
 そして、その不測の事態が起こる可能性が高いであろうこの試合で、メディーナはあえて生放送中継をするというのだ。この国の政府が何を考えているのかは定かではないが、相当な動揺が国内に起こる可能性は否定出来ない。
 そうまでしてメディーナ政府がこの試合を「演出」する意味は何処にあるのだろうか。どちらにしても、メディーナ政府も相当の自信を持って挑んでいるのだろう。そうでなければ、単なる無能といわざるを得ない。
 だが、彼女は不意に疑問も感じた。
 この件でメディーナ国民であるミネルバの反応はといえば、驚くでもなく冷静だった。彼女の落ち着き振りはもはや珍しい事ではないが、彼女からすれば普通の事なのだろうか。
 
 闘技場のゲートをくぐると、長く暗いまっすぐな通路が続いていた。正面には日の光を浴びて白く輝く階段があり、どことなく雰囲気は試練の洞窟に似ている。
 カナッツを先頭に歩く3人は、次第に高くなる闘技場から漏れ入る騒めきの音に鼓動が高鳴るのを感じた。
 階段手前でカナッツが止まった。
 
 
「ここまでで私の案内は終ります。皆さんの御健闘をお祈りします。」
 
 
 そう言うと彼女は手を前へ向けて促した。
 3人は互いに頷き確認すると、クロノを先頭に階段を上った。
 光が視界に溢れる。
 
 
「チーム、ポチョの登場です!!!」
 
 
 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
 
 
 マイクで大きな声でチーム名が呼び上げられ登場が伝えられると、一斉に会場の観客達が声援を送る。白く艶やかに輝く丸い闘技場は日の光を浴びてキラキラと輝き、前方に見えるその舞台まで階段からの通路は続いていた。
 たぶん、このまま進むべきなのだろう。
 舞台には既にメーガスかしまし娘。チームやグリフィスチームが上がっていた。
 クロノは躊躇う事無く舞台へ上がった。
 
 
「全国の皆様、今期は3チームが揃いました修了生達です。
 試練の洞窟修了生闘技会は今期で通算57回目となりました。
 最初の第1回開催は20年前となる紀元13005年(王国歴1005年)からとなりますが、その後5年ごとに見直し、第一回時期は年1回の開催でした本試験も、その5年後には年2回、そのまた5年後には現在同様の年4回の季節開催となりました。
 今期の開催につきまして、共和国第6代大統領、ビネガー9世・ワイナード・ワイナリン閣下より開催宣言をお伝えします。」
 
 
 放送が終ると、闘技場に溢れていた歓声が静まり、観衆の耳目が一点に集中するのがわかる。その視線の先には舞台より上方に作られた美しい彫刻が施された観戦展望台より立ち上がり、観衆へ向けて手を振って笑顔で応える大統領の姿があった。
 クロノはビネガー9世大統領と聞いて昔のビネガーの姿を思い出していたが、実際に目前に見える人物は殆ど人間と変わらない顔をしていた。
 大統領がマイクの前に立ち胸に手を当てて敬礼をすると、観衆が一斉に同様の姿勢をした。よく見ると他のチームメンバーもそうしていたので、クロノも彼らに倣った。
 
 
「…国民の皆様、そして、世界中より本試験を楽しみに来て下さいましたお客様へ、私、ビネガーより心よりの感謝を申し上げます。
 本試験は共和国の発展において多くの人材を育て、供給する重要な役割を果たしてきました。我々に力の正しい扱い方を示し、文明社会の一員として担う役割をお示し下さいました国父ボッシュ博士が、本来であればこのご挨拶をされているわけですが、今大会へはご多忙ということもあり、私が僭越ながら代わりを務めさせて頂きます。
 人の王国が消えて20年あまり、世界は大きく変わりました。この20年は人類史を紐解いても比類なき激動の20年と呼べるでしょう。この僅かな時間、人と我々の間の関係もまた大きく変わりました。
 今や、我が国は勿論、遠く大陸における人と魔を持つ人々の違いは、時を経るごとに少なくなりつつあります。そして、人もまた我らの持つ魔の力に目覚め、その力を文明の力として活かし、我らとの良好な関係を望むような時代になりました。
 魔の力はいにしえの頃は悪しきものとして恐れられましたが、今では人の生活に欠かせぬ繁栄のための重要なファクターです。それ故に、本試験の重要度は年々増加しており、本試験修了生には多大なる期待を持って、我々の社会の一員としてがんばって頂きたいと思います。
 既に修了生の皆様には、本試験の合格が伝えられているものと思います。この闘技場での闘技は、それらの成果を披露する舞台です。存分に戦って、私達にその成果を見せて下さい。では、最後に、辛く困難な試験を合格された勇敢なる若者達。私は君達に輝かしい未来を築いてもらいたい。」
 
 
 大統領が深々と礼をした。
 それに向けて舞台にいる者たちは敬礼で答えた。
 大勢の歓声と拍手が一斉に湧き上がる。
 
 セレモニーはその後試合内容のアナウンスが有り、第一試合の開始が宣言された。
 舞台にはクロノ達チームポチョとメーガスかしまし娘。が上がった。
 
 
「はい、開始して下さい!」
 
 
 第三次試験が始まった。
 
 
 試験は円形の舞台から落ちたり、ギブアップを宣言すれば終了する。ただし、戦闘で相手を殺害することは許されておらず、死亡に至らしめた場合は反則として負けとなる。また、舞台に上がってから何もせずに時間を稼ぐ行為も反則で警告され、その警告を3回受けると反則負けとなる。戦闘方法は3人で自由に連携して攻撃出来るので、チームワークを駆使して如何に相手を舞台から落とすまたはギブアップさせるかで勝利が決まる。
 メーガスかしまし娘。は試合開始早々にお得意のリフレクトフィールドを形成した。彼女達は持久戦に持ち込む気らしく、攻撃してくる様子は無い。…冷静に彼らは彼らで魔力差を計算したのだろう。まともに戦えば確実に攻撃力で劣る彼女達は、完全に防ぐ事で戦い抜く気らしい。
 
 
「…彼女達、見たところ魔力はそんなに多くないと思うから、力押しで叩けるとは思うけど、それにはあのフィールドを超える魔力供給を続けるってことだから、超えるまでは反射で私達がダメージ負う計算よ。持久戦と考えると面倒な相手ね。」
 
 
 シズクの分析は正しいのだろう。あのフィールドを超える魔力供給はそう簡単に出来るものではない。ヒカルのシャイニングですら跳ね返したフィールドだ。そう簡単には行かないだろう。特に、以前の彼女達は不必要な魔力供給はセーブしている様に見えた。たぶんあの時、クロノの魔力供給が仮に無くとも、彼女達は自力で十分にシャイニングを防ぐ事は出来たに違いない。
 クロノは突然構えると魔力を集中し始めた。次第に彼を中心に魔力が集中し身体が浮き上がり、その彼の足元には青白い輝きを放って魔法陣が形成され始めた。
 
 
「ちょ、クロノ!?あんた、私の話聞いてたの!!?」
「試す価値はある。」
「え!?」
「(シャイニング)」
 
 
 彼を中心に莫大な魔力が吹き出すと、それが一斉にメーガスかしまし娘。に向かって襲いかかる。その出力はヒカルを遥かに上回り、闘技場全体に青い光の柱が立つほどだった。
 だが、その魔力の流れは急速に反転を始める。
 
 
「(さすがにきついわね。)これでお仕舞な私達じゃないわけ。」
 
 
 強力な魔力の流れは、まるでアミラがシャイニングを放っているかのように彼女を中心に魔力の流れが集約すると、一気に反転を始めたのだ。
 
 
「いや、マジ!?ちょ、クロノ、あんた、あんなのどうすんのよ!!!もう!」
 
 
 シズクが慌てて天のバリアフィールドを形成して吸収を狙うが、その許容量を遥かに超えたシャイニングの魔力流には焼け石に水だった。クロノもあまり慣れていないフィールド形成を試みるが、失敗に終わり、手を前に構えて防御姿勢をとった。
 しかし、覚悟していた痛みは一向に起こらない。
 
 
「大丈夫ですよ、お二人とも。」
 
 
 ミネルバがマイティガードを発動していた。
 シャイニングの反転流は全てマイティガードが受け止めて無傷で済んでいた。
 
 
「ふぇ〜、助かったぁ。」
「ちょ、なんであんたが安心してるのよ。元はと言えば私の話をきかないあんたの責任でしょう!!」
「まぁまぁ、助かったし良いじゃないか?」
「それは、私が言うセリフでしょう…。はぁ。しかし、シャイニングも駄目な奴を、どう戦う訳?」
「…私がやってみましょう。」
 
 
 そう言うと、ミネルバがフィールドを操作して以前のようにボコボコと球体を宙に浮かせ始めた。ふよふよと浮かび上がった球体は、突如鋭利に突出してメーガスかしまし娘。へ向かって刃を向けた。だが、その刃もフィールドに触れる直前で勢いが止まると、ジリジリと後退を始めて、結局全ての突起は元の球体に戻り、ボコボコと吹っ飛ばされたかの様にポンポンとマイティガードフィールドに戻ってしまった。
 
 
「お宅らの技はそんなものなわけ?…もうちょっと楽しませて貰えるかと思ったけど、この程度なら恐るるに足らずなわけ。」
 
 
 アミラが憎まれ口を叩く。
 しかし、彼女の言う通り、手詰まり感は否めない。このまま何もしなくても時間切れで反則を取られ、戦っても跳ね返されてしまう。何か無いか。
 その時クロノはふと思いついた。
 先ほどシズクが放ったトラップフィールド。あの時はシャイニングの前に焼け石に水だったが、もし、シャイニングじゃなかったら違う結果が出たのではないか。だが、そんな小さな攻撃ではフィールドには傷すら付けられない。しかし、反射によるダメージを吸収出来れば、向こう側の魔力の限界まで戦い抜く事は出来る。
 それでも、1人で器用に魔法を放ちながらフィールドを形成し続けるのは厳しい。同じ出力で常にフィールドを形成させながら攻撃する他に無いが、そんなことが可能なのだろうか。
 
 
「シズク、俺の出力に合わせてトラップフィールドを造れるか?その、完璧にシンクロさせるんだ。」
「………!、OK。良いわ。そういう事なら私がフィールドは引き受けた!」
「おし!なら、ミネルバさんはバックアップ!俺とシズクで攻撃するぜ!行くぜ!」
「はいな!」
 
 
 二人が目を閉じて魔力を集中し始める。
 魔力の上昇をシンクロさせるために、クロノがシズクの肩に手を触れた。すると、シズクにクロノの魔力が流れ始めるのと同時に、クロノにシズクの魔力が流れはじめる。
 二人は試練の洞窟を思い浮かべていた。お互いの魔力を感じながら、互いの力を近づける。試練を超えた二人には難しい事ではなかった。
 二人は同時に目を開くと、同時に構えた。
 
「は!」
 
 掛け声も重なるほどシンクロした二人は、同時に魔法を放った。
 シズクのトラップフィールドが形成されるのと時を同じくしてクロノのサンダーがメーガスかしまし娘を狙う。サンダーは当然のように跳ね返されて来るが、そこはシズクのフィールドが完全に吸収した。
 それを確認すると互いを見て頷き、ニヤリと笑みを浮かべた。
 二人は再び魔法を放った。だが、今度は一発ではない。連続で何発も同時に放ち始めた。しかし、その出力では案の定全く向こうには効いていないことも見て取れた。だが、二人は止めるでも無く、延々と魔法を放ち続けた。
 
 
「(あ〜、もぅ、セコイ攻撃で鬱陶しいったら何なわけ?シャイニングの連発ならともかく、こんなサンダーごときに負けるあたしじゃないわけ。ったく、こんなモノに貴重な魔力を使わせないでほしいわけ。…貴重な魔力、………しまった!向こうの狙いはそれ!?でも、まって、今の今まで気にしていなかったけど、これって本当にサンダー!?…ダメージがあたらないから分からなかったけど、この出力は既にサンダガを超えているわけ…。)…やってくれるじゃない。マルタ、リーパ、ちょっと場が天に流れ過ぎなわけ。OK?」
「はい、お姉様。」
「はい、お姉様。」
 
 
 二人の妹達が魔力を集中し始める。
 すると、リフレクトフィールドが黄金に輝き始め、なんと、クロノの放つサンダーを吸収し始めた。
 
 
「なんだ!?」
「随分舐めた真似してくれたわけ。あたし達も馬鹿じゃないこと忘れてるわけ?」
「忘れていません。この時を待っていました。」
 
 
 そう言ってミネルバがマイティガードを発動させると、彼女はフィールドを形成するのではなく、そのまま大きな魔力を込めた刃として、一瞬でリフレクトフィールドを貫通した。
 リフレクトフィールドがまるでガラスが破裂するかのように、キラキラと輝く破片をまき散らして崩壊する。その事態にクロノ達は勿論、アミラもまた呆然とその場に立ち尽くした。
 
 
「…私達のフィールドが……負けなわけ。」
「はい、お姉様。」
「はい、お姉様。」
 
 
 二人の妹達の悪気の無い返事が、アミラの心に深く突き刺さった。
 
 
「試合終了!メーガスかしまし娘。チームの敗北宣言により、ポチョチームの勝利です!!」
 
 
 会場が大きな歓声をあげた。

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