クロノプロジェクト正式連載版シーズン2
第120話「鬼だ。」(CPss2第36話)
「僕らは負けるわけにはいかない!!!ランタ、ティタ、行くよ!」
「おう!」
「えぇ!」
3人が構える。
瞬時に魔力を集中すると、3人は魔力を結集して連携発動させた。
「ヴェイパーストーム!!!」
あまりに急な攻撃に焦るクロノ達。だが、冷静にミネルバは水のトラップフィールドを展開すると、ハイドの水の魔力を吸収し連携の相乗効果を減衰させた。そして、続けてシズクとクロノが連携し天のバリアフィールドを展開。ヴェイパーストームは強固なフィールド効果によって相殺されてしまった。
クロノが相殺した後すぐににシズクに目配せすると、シズクがハイド達へ向かってサンダガを連打で放つ。それに対してティタがトラップフィールドを展開して魔力を吸収すると、その魔力を利用してサンダガを返してきた。しかし、返されたサンダガはミネルバの形成した水のバリアフィールドによって減衰され、シズクのトラップフィールドで吸収された。
だが、その時ハイドは判断ミスをしていた事に気付く。
シズクの後方で魔力を溜めていたクロノの足元に魔法陣が形成されだしていることに気付いたハイドは、ティタとランタに呼びかけるとすぐに構えた。
「(シャイニング)」
クロノの身体が宙へ浮き上がる。
全身から湧き出す魔力は、まるで無尽蔵に感じられるほどに対象を威圧しただろう。あふれ出した力は彼の足元の魔法陣を中心に一気に支配を広げ、空間を青白い光で満たした。
「(やったか!?)」
爆風で空間が溢れ返る。
行き場を失った力は洞窟全体へ巨大な爆発力を伝える。しかし、洞窟内部は特殊な魔力のフィールドに包まれており、シャイニングの大出力も壁その物を大きく破壊する事はなかった。だが、その力の本来の標的であるものも壊すには至らなかった。
「…パーテクトフィールド。」
シズクが呟く。
ハイドの形成した絶対防御魔法であるパーテクトは、彼らを完全に安全に包み込み保護していた。シャイニングの爪痕は、彼らのフィールド周囲を中心にクレーターが出来るほどだったが、彼らには傷一つ付けられていなかった。
「…あの時と一緒かよ。」
クロノは思い出していた。
あの結婚式の夜、今の旅を始める切っ掛けの戦いの最中に目の当たりにしていた状況。
自分の最大最強の魔法は、防御フィールドによって再び完全な形で阻まれたのだ。
「…如何にシャイニングが天属性最強のエインシェントスペルだとしても、その不完全な術式では僕のパーテクトを崩す事は出来ない。」
ハイドが不敵に言った。
背後でランタが魔法を放つ。
突如クロノ達の目前に冥の魔力が急速に集り始める。
「(ダークボム!?)」
シズクとクロノが合わせ掛けで天のフィールドを形成するが、そのフィールドの形成に合わせるかのように冥の魔力がフィールド内部に進入する。
「(間に合わない!!)」
クロノは咄嗟にサンダガを放って魔力集中の分散を図るが、もはやその程度で制御し得るほど小さな出力ではなく、逆にその魔力ごと飲み込まれた。
臨界に達する。
ドドォォォォォォォォォーーーン!!!
完全にクロノ達の至近距離で爆発を起こしたダークボムだが、ランタは手を抜かずに連続でダークボムを放ち、相手が反撃する暇を与えない腹積りでいた。だが、一度に放てる魔力にも限界がある。特にハイド達はクロノ達と比べれば圧倒的に魔力放出可能量は限られている。ハイドはランタの攻撃を制止すると、クロノ達の状態を確認した。
パーテクトの青白い輝きに照らされ、次第に爆風が晴れて向こう側が見え始める。
そこには、ハイドの全く想定外の事態が起っていた。
「…そんな、どうして…」
そこに現れたのは、自分達ど同様に青白い輝きのヴェールに包まれたクロノ達の無傷な姿だった。そして、それを放っているのは1人の女性の様だった。
「…ハイドロン無しでパーテクトを…しかも…1人で。どうして!?」
ハイドの困惑の言葉に、クロノ達の前に立ちフィールドを形成するミネルバが静かに答える。
「…私の使う魔法は、あなたのパーテクトではないわ。でも、そうですね、私の使う魔法もまたパーテクトと同じ効果を持っている。…元は同じものですもの。」
「…まさか、あなたは…!?」
「察しの通りです。…私達の家系はパーテクトフィールドの問題点に早い段階から気付いていました。この力を本来の目的通りに機能させるには、その発動条件のハードルは後々私達自身のリスクになることを予見していました。ですから、私達の先祖は、この魔法の単独発動を模索したのです。…そして、先祖であり、我が一族の宗主は完全な防御フィールドの単独発動に成功したのです。」
彼女の話を聞くハイドは呆然といった表情だった。
彼同様に困惑する背後の二人も、動揺の色を隠せない。
しかし、ハイドは気を引き締めると、フィールドを強化して言った。
「その様な亜流の力に、我が一族一万年の歴史を重ねて完成させたパーテクトが負けるはずが無い!!!」
ランタが再びダークボムを発動する。
だが、ミネルバの防御フィールド内部にはダークボムの魔力は進入できない。ランタが焦り試行を繰り返すが上手く行かない。
ミネルバの口が開く。
「その魔法はパーテクトのフィールドに極小の穴を開けて、そこから魔力を供給することで、あたかも外部に自由に魔力を行使できるように見せかけているだけのもの。確かにそのコントロールは元祖と認めますわ。でも、我が一族が昔のままだと思ったら大間違いです。」
そう言うと彼女は魔力を集中する。
すると、フィールドから無数の突起が発生し、それはやがてポコポコと空中へ飛び出すように浮き上がる。そして、ミネルバが意識を集中すると、ハイド達目掛けて突進を開始した。
「!?」
ハイドがフィールドへの魔力を強化する。
だが、それは彼にも信じられない事だった。
ミネルバの魔法はフィールドを難なく貫通し、ハイド達へ直撃したのだ。
彼らは何ら防御体制が取れず、背後の壁面へ強かに突き飛ばされた。
「ぐあぁああ!!」
「きゃぁ!」
「ぐっ!!」
壁に激突した彼らは、そのまま力なく倒れ込んだ。
「あ、…えーと、…み、ミネルバさん?」
今までの戦いとは一回りも二回りも違うミネルバの戦いに、仲間ながら驚く二人。確実にいえる事は、この戦いはどうやら彼女の勝利だ。
ミネルバは魔法を解くと、ゆっくりハイド達に近づいた。
彼女が近づいてくるのを見て、ハイドが必死に立ち上がろうとする。
「ま、まだ、勝負は終って、いません!」
彼の言葉とは裏腹に身体は言うことを聞いてくれないようだ。彼の身体はよろめき前方に向かって倒れそうになるのを必死にこらえ、踏み出してバランスを整えて支えようと踏ん張るが、それすらも間に合わぬようによろめく傾きの方が彼の身体の自由を奪っていた。
ミネルバは倒れ込む彼を支える。
「…立派でした。でも、私の方が今回は上でしたね。」
彼女の言葉に彼の目前の視界が真っ白になった。
気を失ったようだった。
「………鬼だ。」
それを見ていた周囲の者達の誰もが、心の中でそう呟いていた。
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