クロノプロジェクト正式連載版シーズン2
 

第114話「降参」(CPss2第30話)
 
 
「…かないのね。ならば、こちらから行かせて頂きます!」
 
 
 ミネルバが宣言するやいなや、彼女は杖を振りかざす。
 すると、急速に水の魔力が集中し巨大な氷の刃を幾つも作り出した。
 
 
「如何に皮下脂肪が厚かろうと、研ぎ澄まされた刃の前には無力です。はっっっ!」
 
 
 無数の氷の刃が降り注ぐ。これほどの大きさの氷の刃を受けては、さすがにどんな生物でもただでは済まないだろう。アイスガを超えた強力な氷の刃が容赦なくヤッパへ向かう。
 だが、なんと、彼は突如肉で埋もれた目をカッと見開くと、あの巨体に似合わず俊敏に寸でのところで避け、その後も的確に文字通り驚異的なスピードでまるで羽が生えた様にふわりと優雅な微笑みを浮かべて華麗に見切って見せたのだ。あの彼を見て、この動きは誰もが予想できなかっただろう。しかし、彼の仲間達は驚いていない様子だ。
 ヤッパは全て綺麗に避け終ると、また何事も無かったかのように菓子袋からペロペロキャンディを取り出すと、これまたとても幸せそうに舐め出した。
 
 
「…なんか、とても見てはいけない生命体を見てしまった気がする。」
 

 シズクがぼそりと呟いた。
 流石にこの感想にはクロノ達は勿論、彼の仲間達も同意せざるを得なかった。
 
 ミネルバは作戦を変えた。
 相手が異常に高速な回避が出来るならば、回避する余地を与えない作戦にでた。しかし、それは彼女にとって賭けでもあった。
 
 
「(私の魔力では長期戦は無理。一か八か、賭けるしかないわね。)ハッ!!!」
 
 
 周囲から急速に熱が奪われてゆく。
 ミネルバが杖を構えて魔力を集中し始めると、彼女を中心に青い輝きを放って魔法陣が形成される。それは次第に輝きを強め、円筒形の光の柱となった。そして、次第に陣は支配を広げ、ヤッパを中心に陣を形成させた。
 
 
「…我は求めん!汝全てに凍れる時を!………フラッド!!!」
 
 
 陣が一斉に閃光を発する。そして、陣を中心に膨大な冷気の煙を噴き出して鋭利な氷の刃が次々に襲いかかる。
 
 クロノ達は驚いた。
 この魔法はハイドが使った魔法だ。しかも、その出力はハイドに引けを取らないどころか凌駕する程の魔力が込められている。あの大人しいミネルバさんからは想像できないほどのパワーだ。
 だが、ヤッパは大口を開けると、下から生えてくる氷の刃をガリガリと食べ始めた。その早さたるは恐るべきもので、出て来る全ての氷をがっつくように食らいついていた。
 
 
「クッ!」
 
 
 ミネルバはそれを見て更に魔力出力を上げる。
 だが、ヤッパはそれに対応するかのように懐からシロップをとり出すと、氷にドバドバ注ぎ込んでガツガツと噛み砕いて行く。その表情は幸せそうに目尻が下がり、幸福を感じているようだ。
  
 
「(これだけの魔力を注いでも効果が無いなんて…)」
 
 
 彼女はこのまま攻撃を続けても埒が明かないと悟った。しかし、彼女にはもう他に使えそうな魔法は無かった。
 
「(ここまで来たんだから、負けたくない。)」
 
 その思いはクロノ達に対する面目もあるが、己の意地として譲りたくない気持ちだった。だが、その思いとは裏腹な言葉が脳裏を過る。
 
 
「引き際を知らぬ者は、全てを失う。お前はまだそれが分からぬか。」
 
 
 幼き頃より父から厳しく言われてきた。
 戦いは「今」が全てではない。
 常に戦いであり、いつまでも戦い続けられる力を持ち得るものが、真の勝者となる。
 …それは父が言わなくとも、代々語り継がれた歴史的な事実として学んできた。
 
 ここで無理をしてみたところで、勝率は99%無いだろうという確信はあった。
 元々出力の弱い水に対して相手は最強属性である天。こちら側が魔力出力を上げたところで、天へ対抗するには通常の1、5倍程度の出力を常に続けなければ拮抗しない。勿論、継続する事自体は可能だが、問題は拮抗しているだけでは勝てないということだ。
 彼女は既にアイスガを超えて氷牙も使い、水属性エインシェントの一つであるフラッドすら使ってしまった。残された選択肢は決して多くない。しかも、この試験は「まだ続く」のである。
 
 
「降参よ。」
 
 
 その言葉には誰もが驚いた。
 さすがにクロノ達は勿論、相手のメンバー達も驚きを隠せなかった。しかし、彼女が口に出した以上、それを認めないわけにはいかない。
 
 
「ちょっと、ミネルバさん!どうして!」
「シズク!」
 
 
 クロノがシズクの疑問の声を制する。
 その行動にシズクは更に反発した。
 
 
「ちょっ!クロノまで!?どうして、こんな中途半端な…」
「シズク、良いんだ。」
 
 
 そこにミネルバがシズクの方を向き、深々と礼をした。
 
 
「ごめんなさい。」
「ミネルバさん…。」
 
 
 彼女の謝罪を聞いては、シズクもそれ以上の追求はできなかった。
 そこに、話が片づいたのを見てバンダーがクロノ達に問い掛ける。
 
 
「さて、お次は誰や?俺達はメンバルが相手になるで。」
 
 
 メンバルがにっこり微笑んで前に出る。
 
 
「私がやるわ!」
 
 
 颯爽とシズクが前へ進み出た。

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