クロノプロジェクト正式連載版シーズン2
 

第109話「暗闇の理由…前編」
 
 らかに叫んだクロノだが、そこに脇からぬぅっと出て来る気配があった。
 
「おわぁ!?な、なんだよシズク!」
「…そこのおにーさーん。威勢が良いけど、何かお忘れではありません?」
「・・・・・何?」
「火がまだよ。バンダーに奪われたでしょ。」
「…あ。」
 
 クロノは彼女の指摘にぽりぽりとばつが悪そうに頭を掻いた。そう、クロノ達はまだ火の呪印を手に入れていない。冥の呪印の前にバンダー達を探し出して奪い返さなくてはならないのだ。
 
「くっそ、…でもよぉ、今思ったんだが、冥の呪印はプレートの何処に収まるんだ?プレートには穴が4つしか無いだろ?」
 
 シズクは彼の指摘に、仕舞っていたプレートを出して手で探った。
 確かに穴は4つしかない。
 
「ほんとだ。どうするのかしら。…と言う前に、私、思い出したけど、この迷路には4つの属性の魔力は感じるけど、冥の魔力って感じないわよね?」
「あぁ、そういえばそうだな。」
 
 二人のやりとりにミネルバが思わず笑った。
 
「フフフッ、もう、お二人とも面白いわねぇ。そもそも、お二人は冥の魔力なんて感じた事がお有りなんですか?」
 
 二人は彼女の指摘にしばし考えた。だが、確かに思い当たるようなものは無い。
 クロノ自身は魔王の魔力を感じた事が有ったが、それは属性魔法を使っている時だけで、魔力の圧力こそ感じた事はあるが、冥の力らしきものは感じた事がなかった。
 二人の困った波動を感じて、再び微笑みながら彼女が言った。
 
「冥の魔力なんて感じませんよ。冥は元々全ての均衡を保った状態。つまり、この世界その物が冥の均衡で出来ているんです。感じるはずがないんです。」
「え、ちょ、待ってくれよ?なら、俺達は元から冥の魔力を感じているってことでもあるわけだよな?」
「そうともいえますね。」
「ということはさ、この迷宮から冥の呪印の間を探すのって至難の業だろ?もしかして、この暗闇の理由はそこか?」
「あっ!?」
 
 3人が一斉に止まった。
 クロノの推測は確かにその可能性が高かった。
 二人はクロノの推測に、ようやくこの試験の闇の理由が見えた気がした。
 
「…ちょっと、…もしかして、最後は壁をバタバタ叩いて歩くとかってオチじゃないでしょうねぇ。あ"あああああー!!!!んもぅ、なんなのこの試験の理不尽っぷり!」
 
 シズクは気が狂わんばかりに頭を掻きむしって怒りを鎮めていた。
 ミネルバも自分で言っていた事の重大さに気付き、流石の彼女も内心穏やかではなかった。
 
「うはぁ…、先が思いやられるぜ…。」
 
 3人は力なく再び歩み始めた。
 何はともあれ、まずはバンダーを見つけなくてはならない。

 クロノは集中してバンダー達の魔力を探した。だが、今更になって気付いた事だが、ここには8チームの魔力がいるはずだが、どういうわけか4チーム分の魔力が消えていた。
 何かの間違いかと思い、更に深く全体をまるで見渡すように探ったが、それでも反応が感じられなかった。
 いや、そう思っていた矢先に、突然2つのチームの存在が現れた。
 それもごく至近距離で。
 
 クロノが察知したのと同様に二人も気配を感じたようで、3人は静かに気配に近づいた。
 そこはホールのような開けた場所らしく、空間全体が2つのチームの魔力で満たされて行くのが感じられる。
 3人はホールより少し外れから中の様子を探った。
 
 
「…探したぞ。」
 
 
 少年の声がする。
 そこに新たな声が反応する。
 
 
「…そう。でも、私は貴方の事を知らないわ。」
 
 
 その声は女性で、とても穏やかで冷静だった。
 
 
「お前は知らなくとも、僕は忘れない。この領域に踏み入った事を後悔するがいい。」
 
 
 少年はそう言うと、一気に魔力を解放した。
 その魔力は凍てつくような水の魔力。それも今までのどんな使い手をも超越した途方もないエネルギーを感じる。
 
 
「(なんだ!?こんな水の魔力があるのか…)」
 
 
 クロノは内心の驚きと共に、この後の動きにわくわくするものを感じていた。
 少年の相手である女性は、彼の動きに一呼吸置くと呟いた。
 
 
「…根に持つ男は好きじゃないわ。それに坊や、私は子どもが嫌いなの。あなたがもう少し大人じゃなきゃ、つまらないわ。」
 
 彼女はそう言うと微笑んだ。すると、彼女の意思に応えるかのように二人の巨体の男が彼女の前に並んだ。
 
「ツー!」
「カー!」
 
 二人はそう叫ぶと、深く深呼吸をして少年たちの前に対峙した。
 少年は巨漢を前にしても怯まず、手を前にかざして呼び出す。
 
 
「我が支え、今呼び出さん。ハイドロン!!!」
 
 
 少年の声に反応して一振りの杖が現れた。それは青き輝きを放ち、空間を照らす見事な宝石を先端に持つ杖。少年は杖をしっかりと持つと、巨漢男に向かって構えた。
 少年を中心に魔法陣が次々と展開し、支配を広げ始める。その陣は少年の杖の動きに従い、全てが女性と巨漢男達のもとに集った。
 
 
「我は求めん!汝ら全てに凍れる時を!フラッド!!!」
 
 
 陣が一斉に閃光を発する。そして、陣を中心に膨大な冷気の煙を噴き出して鋭利な氷の刃が次々に襲いかかる。
 巨漢男達が悲鳴をあげて負傷する。しかし、女は瞬時にそれらを全てかき消した。彼女の周りから爆炎が吹き上がり、空間を赤々と照らす。
 
 
「ケア!」
 
 
 女がエレメントを発動させ、巨漢男達の傷を癒す。
 彼女は何事も無かったかのように涼しげな表情で少年を見据えていた。
 
 
「…終わりですか?」
 
 
 彼女の不敵な言葉に、少年は内心の思いを封じて冷静に返した。
 
 
「…これからだ。」
 
 
 両チームの力は確かに少年が言う通り、まだまだ計り知れないものが感じられた。

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