クロノプロジェクト正式連載版シーズン2
 

第108話「魅惑のミラクル」
 
 
「…い。」
 
 
 ミネルバが思わず呟く。
 彼女の目前に広がる戦いは次元の違う物のように感じられた。今までの試験の歴史でこれほどの戦いは有っただろうか。自身の知り得る範囲では聞いた事の無いことが起こっている。それはとても恐ろしい事だ。
 
 
「ぐ、ぐぅうう!!!」
 
 
 ヒカルが唸る。
 既にクロノが先ほど放ったシャイニングの出力の倍は有ろうかという巨大な魔力に、体の全体から悲鳴が上がっていた。ただでさえコントロールの難しいシャイニングという魔法を、これほどの大出力で長時間使い続けることは並大抵ではない。だが、ヒカル自身は既にそんな事は関係の無い事だった。
 
 目前の敵を倒す…ただ、それだけだ。
 
 アミラは相手の出力の高さに対応を苦慮していた。だが、彼女としてもこのままこの力に対抗し続けるのは得策ではなかった。
 
 
「…仕方ないわね。あまり使いたくなかったけど……マルタ!リーパ!返すわよ!」
「はい!お姉様。」
「はい!お姉様。」
 
 
 二人の返事を聞くと、彼女は集中した。すると急速にバリアフィールドの厚さが厚くなった。それを確認すると、彼女はフィールドへの魔力供給を打ち切り、新しい魔法の集中を始めた。
 魔力供給を打ち切られたフィールドは、一時的に分厚くなったとはいえ徐々に抵抗力を弱め、次第に削られ始めた。
 
 
「…メーガスかしまし娘。〜」
 
 
 アミラが唐突にお決まり(?)の決め台詞の宣言を始めた。
 
 
「…魅惑のミラクル〜〜〜、ミラー!ミラーッッ!!!」
 
 
 そう叫ぶと、彼女はまるで押し出すような動作をして魔力を解放した。
 すると、突然冥の黒きバリアフィールドは明るく輝く光を放って、一瞬にしてヒカルの魔力を跳ね返した。
 
 
「!?」
 
 
 ドドオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォン!!!!
 
 
 巨大な爆風が巻き起こる。
 シャイニングの閃光が空間全体を満たし、猛烈なエネルギーの渦がアミラのフィールドにも襲いかかる。その力は大きな振動となって少なからず伝わり、中にいる者たちを動揺させる。
 
 
「だ、大丈夫かケロ!?」
「いやん、怖いわ!」
 
 
 カエオとパンチが不安を口にする。しかし、アミラは不敵に言った。
 
 
「心配無用よ。さて、私達の勝利は確定の様ね。」
 
 
 そう言うと前方を見据えた。
 そこにはボロボロになった腐れ縁チームを保護する光の幕が見えた。
 
 
「…最後にエンジェルバードに救われたようね。でも、彼らは再起不能よ。」
 
 
 彼女はそう言い放つとフィールドを解き、つかつかと腐れ縁チームのもとへ行くと、魔力で呪印プレートを引き出し、そこから一つ呪印を引き抜いた。緋色に輝く火の呪印だ。
 彼女はそれを仕舞うと、二人の妹達に目配せした。
 彼女達はそれを合図に、フロノ・ノ・コリガーチームと乙子組から魔力で呪印を奪った。
 
 
「あぁ、勝手にぃ!!!」
「あんまりだケロォ…」
 
 
 2チームから不満が漏れる。
 しかし、アミラはそんな彼らに反論した。
 
 
「あたしらはあなた方に呪印争奪のバトルを申し込んでいるワケ。つまり、お宅らはそれに同意したわけだから、負けた以上は差し出すのがルールなワケ。…それとも、失格の方が良かったワケ?」
 
 
 彼女の言葉は正論だった。
 2チームは大人しく彼女の言に同意した。
 彼女らはそれを確認すると、にっこりと微笑んでクロノの方を見た。
 
 
「うふ、あなたと戦えて良かったわぁ!」
「おう!こちらこそありがとよ!」
 
 
 クロノはそう言って頷くと、彼女は再び微笑んで別れを告げた。
 
 
「では、さらばいば〜い♪」
「さらばいば〜い♪」
「さらばいば〜い♪」
 
 
 メーガスかしまし娘。は謎の別れの挨拶を残し、再び闇の中に消えて行った。
 クロノ達も去ろうとしたが、敗者として残るチームが気にかかった。
 
 
「元気出せ。まだ終っていない。頑張れよ。」
「もう、終わりだケロ。」
 
 カエオの力ない言葉が返る。
 フロノ・丿・コリガーチームはまるで真っ白と言わんばかりの状態だった。すぐ隣の乙子組も………ここは触れないでおこう。
 クロノ達は身支度を整えると、光のヴェールで守られた腐れ縁チームのもとへ行った。
 
 
「大丈夫か…って、大丈夫じゃないよな。」
「…、…、…るせい。さっさと消えやがれ。」
「…そうか。凄かったぜ。じゃぁ。」
 
 
 クロノの言葉に、ヒカルが少し微笑んだ気がした。
 クロノは新しく現れた通路へ向けて歩き出す。
 それにシズクが続く。
 最後尾のミネルバは、彼らに深々と一礼を捧げると、彼女もまた彼らに続き闇の中へ歩く。
 
 
「おーし、最後は冥だ!」
 
 
 クロノの力強い声が洞窟に響いた。


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