クロノプロジェクト正式連載版シーズン2
 

第103話「呪印解放」
 
 中に入ると、火の呪印の間同様に入り口の封鎖が起こり、完全に閉まった音が聞き取れると、徐々に中心の呪印を守るモンスター像が光り輝き、視界が戻った。
 戻った視界に現れた空間は洞窟の岩肌そのもまのくりぬかれた空間で、一面砂が敷き詰められていた。
 中心に立つ蛇とも竜とも言い表せるであろう判別の付かない姿をしたモンスター像から声がする。
 
 
「我は地が呪印を守りし者。その力、全てを揺るがし、その拳、金剛を極める者。我に挑戦せしは己らか?」
 
 
 モンスター像はぼんやりと明滅を繰り返しながら問い掛けてきた。
 代表してクロノが答えた。
 
「あぁ、俺達だ。」
 
 彼の声を聞くと、モンスター像は突然輝き、表面にヒビが入るとピシピシと音を立てて表面が崩れ始めた。そして、剥離した表層の下から屈強な肉体が現れた。
 
「我が名はミドガルズオルム。大地を揺るがし、全てを震わせる者。お前達が我が前に震え泣くのを楽しみにしておる。」
 
 そう言うと、モンスターは突然オーバーモーションで尾を振り上げると、そのまま地面に無かって急速に叩きつけた。
 
 巨大な衝撃が走る。
 
 その力は一瞬で空間に広がり共振し、三人は身動きが出来ぬほどの振動に襲われる。咄嗟の受け身もとれずにいると、次の瞬間、地面に急速にめり込みだし、三人に巨大な重力のプレッシャーが襲いかかる。
 
 モンスターはしたり顔で見ていた。
 最早この者達に抵抗する術などない。
 このままリタイヤを宣言し、彼の仕事は勝利に終わるに違いない。だが、彼としては気が抜けなかった。なぜなら、ここ最近の試練の挑戦者の中には、彼の予想外の力を持った者たちが増えていたからだ。しかし、何としても負けるわけにはいかない。彼には勝たねばならぬ理由がある。
 
 
「(あと6チームだ。それで俺は自由になる。こいつらをやれば、あと5…)………!?」
 
 
 モンスターは目前の状況に驚いた。
 彼がアレコレ考えている間に、三人は体の自由を取り戻して普通に立っているではないか。しかし、あの状況でどうやって。
 
 
「驚いたかしら?でも残念ね。私達、この手の攻撃には慣れてるの。これよりもっと強烈な奴を受けた事があるんだから。」
「…そういうことだ。観念してもらうぜ。っといっても、お前に攻撃しても無駄なんだよな。」
 
 
 そういうと、クロノはシズクに目配せする。
 彼女はクロノの意図を理解すると自分の魔力の影響範囲を広げ、クロノとミネルバをその影響圏に入れた。すると、三人の体はすうっとゆっくり浮き上がった。
 彼はそれを確認すると魔力を集中し始める。次第に青白い輝きが全身から湧き出し、彼の足下に無数の魔法陣が描き出され、その支配を広げた。
 
 
「(なんだこいつは!?これは…天の法陣!…しかも、こいつは最高位の天空陣!?この時代にこんな化け物がいるなんて!?!)…ちょ、おい、待て、そんな力を使われたら、この空間その物が!」
「問答無用。はぁああああああ!!!!!!」
 
 
 ゴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
 
 
 クロノの周囲に敷かれた魔法陣が爆発的に支配を広げる。
 その力は一瞬で地の重力を崩壊させ、全ての物体に浮力となる斥力を発生させた。
 突然の力の転換に耐えられず空間にヒビが入る。
 
 
「ま、まて!くそ、なんで俺様が!?!」
 
 
 モンスターはそう言うと、全魔力を注いで空間を繋ぎ止め始めた。しかし、クロノの魔力は途方もなく膨大で、半ば無謀にも思えた。だが、このまま放置しては自由どころの騒ぎではない。
 
 
「くぅ、管理者!印の解放を要求する!我が印の力を解き放て!」
 
 
 彼の言葉に呼応するかのように、モンスターの額に輝く呪印が青白く一際強く輝いた。
 そして、
 
 
「うごぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」
「!?」
 
 
 咆哮とともにモンスターの体からの魔力が突如膨れ上がる。
 その魔力は巨大な引力となって空間に浸透し、それまで崩壊しようかという程に空間を満たした斥力フィールドを力押しで制し始める。
 クロノはそれに負けじと魔力を放出し続けるが、時既に遅く、瞬間的に増大してしまった力を抑えることは容易ではない。じりじりとクロノの劣勢が濃厚にになりだした。だが、ここで負けては先に進めない。
 しかし、そこに放送が入る。
 
 
「現在戦闘をしているチームぽちょに戦闘の終了を通告します。直ちに戦闘を終了して下さい。この戦闘の結果はチームぽちょの勝利として決着はついています。」
 
 
 突然の放送に戸惑う3人。
 シズクが理由を尋ねる。
 
 
「本当に勝利なの?どうして?」
「既に呪印獣は印を解放しています。本来呪印獣はその印の力の中で活動しなければなりません。しかし、現在の状態は異常事態です。よって緊急時対応として不戦勝と処理し、この戦闘を終結させるものとします。」
「それって、これはやばいってこと?」
「いいえ。あなた方の戦闘を終了すれば、呪印獣も不必要な魔力の行使をやめます。」
 
 
 カナッツの言葉にシズクはクロノの方を振り向き頷いた。
 彼はその合図を見て戦闘態勢を解いた。すると、確かに呪印獣は攻撃をやめて空間の維持に向けて魔力を注ぎ始めた。
 
 
「…ぐぅぅぅ、お前達のせいで俺はこんな作業までしなければならんのだ。少しは反省しろよ。くぅぅ。」
 
 
 そう言うと呪印獣は一気に魔力を放出した。
 その力はがたがたに歪んでいた空間を一瞬にして見事に修正した。
 
 
「お前達の勝利は放送の通りだ。我が呪印をお前達に授ける。受け取れ。」 
 
 
 彼はその言葉の後、光の粒子となって一点にその光が収束すると呪印球になった。その色は茶褐色をしており、黄金の輝きを放っていた。呪印球はゆっくりと降下してシズクの持つプレートに収まった。
 
 
「これで3つ目の属性を通過した。次は天だな。」
「えぇ。」
 
 3人はなんとか無事に手に入った呪印球に安堵しつつ、次なる天の呪印の間を目指して歩き始めた。


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