クロノプロジェクト正式連載版シーズン2
第95話「絶対防衛主義」(CPss2第11話)
翌朝
「おはよう。」
「おはよう!ミネルバさん。」
「昨夜はよく眠れました?」
「えぇ、そりゃもう!」
ミネルバの問いに元気よく答えるクロノ。
彼女はその表情に思わず笑う。
シズクが異様な元気のよさに怪訝な顔をして言った。
「随分元気ねぇ。もう、女の人だったら誰でも良いのねぇ。」
「うへぇ〜〜!?なんでそうなるんだ!」
シズクは自分の言葉に慌てる彼を見て、にやりと笑う。
そのやりとりをみていたミネルバはニコニコと微笑んでいた。
程なくして列車は試練の洞窟駅に到着した。
洞窟駅というから地下にあるのかと思っていたクロノだが、実際は森の中だった。
時刻は朝七時。
自分でもよく起きれたなと内心思いつつ、ドアが開くのを待った。
3人は列車の出口に集まっていた。
ドアが開く。
そこには警備員の様な男達が、まるで乗客が降りるのを拒むように立ち並んでいた。
車内放送が入る。
「…乗客の皆様、まだ降りないでお静かにお待ち下さい。今からお一人ずつ降りて頂きますが、その際にドア前の係員が一人一人チケットを拝見させて頂きます。乗客の皆様は係員が告げるゲート番号のゲートへ向かってください。なお、指定のゲートと違うゲートに入った時点で試験は失格となりますので、お間違いなくお進み下さい。では、お一人ずつ降りてください。」
車内放送が終わると、列車を一人一人おり始めた。
皆言われた通りにチケットを手に持ち係員に差し出すと、係員は事務的に素早く背後にいる数人の係員の一人にチケットを渡して何かを告げる。受け取った係員はチェックして受験者に指示を告げ、それを返却した。その間にチケットを受け取る係員は次の受験者からチケットを受け取り、また背後の空いている係員に渡して何かを告げチェックさせた。
その流れは次第に幾つかの列となり、沢山の人の流れがホームを満たし始める。
クロノ達の順番が回ってきた。
彼らはまずクロノから降りた。
「チケットを拝見します。」
警備員がそう告げると、クロノは予め出せる様に準備していたチケットを手渡す。すると、警備員は背後にいるもう一人の警備員に何かを小声で告げてチケットを渡し、クロノに前に進む様促した。そして次のシズクが降りてくるのを待っていた。
クロノは前に進むと先程の背後にいた警備員がチケットを渡し、行き先を告げる。
「あなたは2番ゲートへお進み下さい。二番ゲートへは床のピンクのラインをお進みください。」
クロノはチケットを受け取ると少し進み、二人が来るのを待っていた。程なくして二人も降りてくる。
「どうだった?俺は2番ゲートだったぜ。」
クロノの言葉に、二人はニッコリ微笑んで同じだと言った。
3人は一緒にゲートへと進む。途中に4番や3番などのゲートへ進む人の列が見える。2番ゲートの前にはあまり人が居ないので、スムーズに進んだ。
その先に見える一番ゲートへは一際多くの人が並んでいた。
「凄い数が並んでるんだな。」
「ゲートの違いって何かあるんですか?」
二人の発言にミネルバは苦笑いし言った。
「ゲートを出れば分かるわ。」
そういうと彼女は先を急ぐ様に進んだ。
二人もその後をついて行った。
2番ゲート行きの通路は入ってすぐに下に降りる階段があり、そこを降りるとすぐに右側へ伸びる通路があった。通路は突き当たりまで200mほど有り、そこを左に曲がると再び200m程続く通路があった。そこも突き当たりがあり、右に曲がると改札らしき物が100m程進んだ前方に有った。
改札は4つ有るが、開いているのは2つだけ。しかも、こちら側から出る一方しか開いておらず、向こうから入ってくるゲートは無い様だ。改札口には大きな青いドアのついてない囲いが立っており、少々駅の改札にしては他とは違い、なんとも異様な雰囲気である。
そこには4人の先程ホームで見た警備員の様な服を着た係員が立っていた。ホームと違うのはこちらは皆女性だということだ。それぞれの改札口に二人組みで立っていた。
まずミネルバが先に進んで改札をした。
「チケットを拝見させて頂きます。」
まず前方に立っていた係員がチケットを受け取ると、先へ進む様に促される。その間にチケットは後方のもう一人の係員に手渡され、何らかの機械にスキャンされる。ミネルバがゲートを潜り終わると、係員はチケットを手渡した。
「おめでとうございます。一次試験合格です。二次試験頑張ってください。」
「えぇ、ありがとう。」
ミネルバはチケットを受け取ると少し前に進み、振り返ると微笑み二人に来る様促した。
二人はそれを見て頷くと、一緒に二つあるゲートにそれぞれ入っていった。ミネルバ同様にチケットを渡し青いゲートを潜ると、突然ベルが同時に鳴った。
「お、おい、なんだ!?」
「何か問題有るのかしら?」
二人の不安な表情に、係員は苦笑しつつ言った。
「いえ、一次試験合格です。おめでとうございます。ただ、お二人の魔力レベルがですねぇ…」
「何よぉ、勿体ぶらずハッキリして頂戴よぉ。」
詰め寄るシズクに、係員は困った表情でたじろぎながらも答えた。
「このゲートで計測不能な魔力が検出されまして、機械がエラーを出したんです。この機械で計測不能の数値を出した人はそういません。お二方は凄いですねぇ。」
「え?へ、へぇ〜?そうなの。あは、あはは、あは。」
二人は頭を掻きつつチケットを受け取り、ミネルバのもとに合流した。
ミネルバは微笑んで言った。
「おめでとう。一次試験合格よ。」
彼女の言葉にも二人は不可解に感じていた。
クロノが思わず尋ねる。
「しかし、どこで試験があったんだ?」
クロノは自分の頭の中でこれまでの行動を回想していた。列車に乗って、食事をして、寝て、駅に着いて………思い当たる試験らしきものは無かった。
「試験なんて見なかったわね。」
シズクも同様の結論の様だ。
二人の疑問にミネルバは簡単に回答した。
「食事よ。」
「食事!?」
二人は思いも寄らない答えに驚いた。
ミネルバはそんな二人の反応に微笑んで続けた。
「思い出して?あの食堂では魔力使わないと注文出来ない仕組みだったわよね?」
「えぇ、そういえばそうね。でも、食事なんかで何が分かるの?」
「この試験では基本的に食事込みのチケットを使い、食堂車利用が義務づけられているの。だから、まず食堂で食事をしなかった人はアウト。次に、食堂を利用した人は出現させたディナーの内容によって振り分けられるわ。一番下は軽食程度、次は簡単な一品料理、その次に定食セット、最後が私達が食べたフルコースよ。」
「へぇ〜、俺たちって成績優秀?」
「フフフ、そうね。お二人はかなり優秀よ。あのゲートで計測不能の魔力反応が出たのなんて、私が知る限りはボッシュ様やルッコラ博士、それにビネガーくらいね。」
クロノは最後の名前に驚いた。
「いぃい!?ビネガー???」
「どうしたの?」
「いや、その、ビネガーってどんな人なんだ?」
「ビネガー8世第二代共和国大統領よ。この国が今あるのは、ボッシュ様は勿論、彼の存在無くして語れないわ。」
「どうゆうことだ?」
そこにシズクが言った。
「ビネガー主義ね。」
彼女の言葉にミネルバは頷くと、話し始めた。
「この国の外交戦略のことよ。ビネガー8世は王国歴で言う1004年に来襲したパレポリに対して、ボッシュ様が纏めた共和国の初代防衛大臣として対峙した人物よ。パレポリに対して独特の防衛戦術で共和国を鉄壁の防御で守り、ガルディアでさえ後に屈したパレポリの軍勢を退却させた手腕の持ち主。外交でパレポリとの同盟を樹立すると、彼は後に2代大統領に就任した際、ビネガードクトリンを発表。人間の軍事への無干渉絶対防衛主義を打ち立て、現代に続くこの国の行くべき道を定めた人よ。」
「ビネガー主義…、つまり、メディーナは同盟を結びながら、パレポリと同盟軍を結成したことは無いのか?」
「そうよ。この国は飽くまで人間との直接的争いへの干渉を避ける事を第一に外交をしているの。でも、それは自分達の平和が脅かされなければという前提においてね。もっとも、最近の私達の様な若い世代の中には、このビネガー主義を臆病主義と揶揄する人もいるわね。」
クロノは自分の記憶では落ちぶれているはずのビネガーが、この国では再び権威を誇っているという事実は勿論、自分が知っているつもりの歴史とは確かに違うことを感じる話だった。何より、彼女の話が本当であるならば、ガルディアへ来襲したパレポリの軍勢の中にいた魔族達の背景が変わってくる。
メディーナ共和国と言う不思議な国の不思議な事情は勿論、この国の置かれた特殊なポジションは、まだ色々な話が隠れていそうだった。
「平和を当然と思えば、戦が恋しくなる。特に玩具が揃っていたらな。」
クロノは自分で言葉を発しながら自戒するように思っていた。
ガルディアが戦争を止められなかったことは、長く続いた平和故の出来事だったのではないかと。
当時の元老院や貴族院の非現実的な認識の上に立った外交観や、まだまだ未整備だった国民から直接選挙で意見を聴く仕組みなど、人々の気持ちと議会の気持ちは大きく離れていた。確かに予兆はあり、幾らでも動く余地があった。
あの当時にこの国で表立って立ち上がったボッシュの様に、もし自分達がもっと真剣に世界中を眺めて政治に取り組んでいたら、あるいは…。
こうして過去を回想して、本当は違う未来があったはずだと思っている安易な認識は、過去に歴史を変えた自分達の力を過信していた面から起きたことは否めない。ボッシュが立ち上がったのは何故だろう?…それは、彼がこの時代に「生きる」ことを選択したからなのではないか。そして、自分自身はボッシュとは反対に、この時代に生きていることをどこか他所の事に思っていたのではないか。
彼女の話を聞いて、早くボッシュに会い、彼のとった行動の理由を聞きたいと感じていた。
ミネルバは彼の言葉を聞いて、静かに言った。
「そうね。」
クロノが先を進んだ。
二人も後を追った。
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お読み頂きありがとうございます。
拙い文章ですが、いかがでしたでしょうか?
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