クロノプロジェクト正式連載版シーズン2
第94話「新たなる乗客」(CPss2第10話)
列車は途中の停車駅である首都メディーナ駅に到着しようとしていた。
町は水晶のように輝き、青を基調とした美しい町並みは芸術品の様な輝きを持っていた。そして、この首都メディーナの玄関口であるこのメディーナ駅は、毎日数十万人の乗降客を誇るメディーナ交通の中心地でもある。
メディーナ駅に入った列車はボッシュ駅同様に専用のホームへ誘導される。この街からも試練の洞窟への参加者は多数有り、ボッシュ駅と同様の人数が乗り込む予定だ。
ホームには既に沢山の受験生が到着を待って並んでおり、それぞれがこの試験に対して相当の意気込みを持って参加していることは想像に難くない。そんなピリピリとした空気で張りつめていた。
「ハイド、君はもう少しリラックスした方が良い。」
長身の若い魔族の男が、彼の仲間にそう諭す。
ハイドと呼ばれた少年は、仲間の心配に謝意を告げた。
「すまない。つい。」
だが、彼を諭した長身の男の方をいかにも面白くないという表情で、緋色の髪に黒い肌をした少女が少年を気遣うように言った。
「良いのよ。こんな状況で緊張しない方がおかしいんだから。ランタの言うことは気にすること無いわ。」
「…はは、ありがとう。ティタ。ランタ。」
少年の反応に、二人は顔を見合わせてお互いの世話焼きっぷりに苦笑した。
3人は列車の扉が開くと、一番手に車内に入っていった。
沢山の受験者が車内へと入ってくる。
クロノ達も含めたこの試験に参加するのが初めての者は、その様子を車窓から眺めていた。
「すげーな。」
「随分いるのねぇ。」
二人の感心の声に、同室の大学生風の魔族の青年…ベンが言った。
「僕も初めてなんですが、さすが首都ですね。」
「あぁ、すげーよな。でっけー駅。」
クロノの反応に、後方から批判の声が上がる。
「ふつー、人の方を見るだろ!あれ見て何も感じねぇのかよ!!!」
少年…後にベンから聞いて知ったヒカルは、クロノの緊張感の無さに苛立っている様だった。
「良いじゃない。私達がどんな反応しようと。私達には人より街の方が新鮮なの。OK?おわかり?」
「うっせー!ぶーす!」
「なにぉおお!?!」
シズクが怒り少年にまるで猫の様に飛びかかった。それに対して驚く少年だが、負けじと応戦する。
そんな二人の姿にベンがつぶやいた。
「…なんだかんだと良いながら、仲良いじゃないですか。」
その呟きに二人はハモった。
「良くない!!!」
彼らがそんなやり取りをしている頃、粗方列車に乗って空になったホームに上ってくる人影があった。階段を上るのは一人の女性と二人の男性。ツンと高飛車な雰囲気を見るからに感じさせる、黒スーツに長い髪を綺麗に束ねてお団子状にした女性を先頭に、二人の男はまるで付き人の様に背後を息ぴったりの身のこなしでまるで行進しているかのように歩いていた。
階段を上り終え、ホームに接続する車両のドア前に立つと、女性が右側を振り向き言った。
「ツー!」
彼女の言葉に、背後の男が可愛らしい奇声を発した。
「キュー!」
彼女はその返事を聞くと、すぐに左横を振り向き、
「カー!」
すると左横の男性もまた、右横の彼同様に可愛らしい奇声で答えた。
「キュー!」
彼女はその返事を確認すると頷き、車内に静かに侵入を開始する。
背後の二人も右横の男性から先に、左横の男性が最後に乗り込んだ。
彼らが乗り込むと、ホームに発車の音楽が鳴り響く。
「待て待て待て待てぇぇーーーーーーーー!!そこのれっしゃぁああ!!!」
ドタバタと階段を駆け上る音がする。
赤い髪を逆立てた青年が慌てて駆け上り、ドアが閉まらない様に手で押さえる。
そこに少年の背後から少々遅れて少女が辿り着き中に入る。
「は、早く!ヤッパ!!!」
彼女の呼びかける相手は、見事な巨体を揺らしてゆっくりと階段を上ってきていた。…いや、彼なりに急いでいるらしく息もハァハァといった必死の形相だ。
あまりの遅さに二人は見ていられず、青年が駆け寄って背後からヤッパと呼ばれた少年を押した。少女は先ほど青年がしていたように、ドアが閉まらぬよう押さえた。
「はよしぃ!もう列車出発するで!はよ!」
「…もぅ、だめ。」
少年はそう言うとゆっくりとスローモーションが掛かったようにゴロリと転がった。それは誰の目にも「終わった」と感じさせる瞬間だった。だが、奇跡は起こった。
「え゛!?ちょ、あ、きゃぁあああ!!!!」
なんと、少年はそのままゴロリと転がりながら列車に乗り込んだ。…入り口でドアを押さえていた彼女を巻き込んで。それはあまりに突然の出来事で判断つけかねていた。だが、その時出発の合図がなり終わる。青年は我に返ると急いで列車に飛び乗った。
プシューーーーーーッドン。
間一髪飛び乗った彼の体は、少年の腹の上でぷにょぷにょとした感触を感じながら、ほっと一息吐いた。
しかし、彼は忘れていた。
「(…どうして、あたしがこうなんのよ。)」
彼らが彼女の犠牲を知るのは、列車がもう少し進んだ頃だった。
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