クロノプロジェクト正式連載版シーズン2
 

第93話「食堂車」(CPss2第9話)
 
 
げー…。」
 
 
 クロノは思わずつぶやいた。
 
 二人はドアの中の空間に驚いていた。
 そこは、天井は一面六角形に切り抜かれたガラス窓があり、暮れ行く空を雲が流れて行くのが見える。両サイドの壁も全てフレーム以外は窓になっていて、メディーナの雄大な景色を一望できた。そのパノラマは押し寄せては消えて行く風の様な、そんな爽快感の味わえる空間となっていた。
 
 
「すげーな…、列車だけでもすげーと思ったけど、この中も凄くないか?」
「そ、そうね。…随分力が入ってるわね。聴いてみよっか?」
 
 
 シズクは食堂のテーブルに座る一人の魔族の女性に問いかけた。
 その女性は青緑色の透き通るような美しい輝きをもった長い髪を白いリボンで束ね、尖った耳に白い肌をしていた。その表情は落ち着きがあり、服装もまた白を基調にエメラルドグリーンのラインを使用したスーツを着ており、少女とは違う大人の女性を感じられた。
 彼女のテーブルには赤ワインがあり、ワイングラスに注がれた赤ワインが車両の揺れで静かに揺れている。
 
 
「あの、すいません、私達初めてこの列車に乗ったのですが、凄いですね。この車両。」
 
 
 女性は彼女の問いかけににこやかに振り向くと答えた。
 
 
「そうね。もうすぐ日も完全に暮れたら、星を見ながらディナーが楽しめる…確かそれがこの列車の触れ書きだったかしら。」
 
 
 女性はそういうと外へ視線を移した。
 二人もそれにつられて外を見た。
 
 外はもうすぐ日が完全に沈む薄明かりで、食堂車内のランプの様な照明が美しい輝きを損なわずその景観を楽しませてくれる。
 シズクが更に彼女に質問する。
 
 
「あのぉ、もしかして、…あなたも試練の洞窟へ?」
 
 
 彼女はシズクの質問に、先ほどの少年達とは違って笑顔で答えてくれた。
 
 
「えぇ、これで5度目なんです。ふふふ、五回も落ちても諦めきれません。」
「え、五度目…あ、あのぉ、失礼ですが、何故落ちたのか理由を聞いても…?」
「あぁ、私の経験談を聞きたい?なら、立ち話もなんですし、良かったらご一緒にディナーでも楽しみません?」
 
 
 彼女の意外な提案に、二人はうんうんと頷いた。
 そんな二人を見て微笑むと、彼女は二人を向かい側の席に座るよう勧めた。
 二人はそれに応じて席に着いた。
 それを見て彼女は話し始めた。
 
 
「…理由は簡単よ。私の魔力が弱いから。」
「魔力の強さが一番問われるんですか?」
「えぇ、まず、一番必要なものはそれよ。でも、単なる強さは本当の強さではないわ。確かに力押しで何でも解決できれば楽な話だけど、実際はどんな力も使いようでしょ。この試験は私達魔族が持って生まれた力を、正確に、そして効果的に使うことが出来るかどうかを要求される。とはいえ、これは入り口。そういう意味では、試されることはシンプルとも言えるわね。」
「えーと、それは、魔力をどう扱うことが試されるんですか?」
「それは試験を実際に受けたらわかるわ。でも、そうね、大切なことはコントロールすることかしら。ふふふ、私もなかなか上手く行かなくて人のこと言えないけど、それなりに努力を重ねてきたつもりよ。今度こそは。」
「そうですかぁ。でも、その意気ですよ!お互い頑張りましょうね!」
 
 
 シズクの励ましの言葉に彼女は微笑むと、突然手をあげた。
 すると、すぐにクロノ達の背後からウエイターがやってきて、二人にメニューを渡した。だが、渡されたメニューを見て二人は困惑した。
 
 
「うわ、これメディーナ語か?。」
「ここはメディーナなんだから当然じゃない。でも、困ったわねぇ、私にもよくわからない言葉だわ。」
 
 
 二人の困惑状況に、女性が思わず笑った。
 
 
「フフフ、その文字は私にもわからないわ。」
「え"ぇ〜〜〜〜〜!?!」
「その文字はメディーナ語でもないし、読むものでもないの。ただ、こうして目をつぶって文字の輪郭をなぞれば…見えてくるのよ。」
 
 
 二人は女性に促されて同じ様にしてみる。
 だが、いまいち何をしているのかさっぱりわからず、何が見えてくるのかも分からなかった。しかし、女性が嘘を言っているようにも見えず、更に謎が深まる。
 
 
「何かコツはあるんですか?」
 
 
 シズクの質問に、女性はワインを一口飲み答える。
 
 
「そうねぇ、このメニューはただなぞれば良いわけじゃないの。お二人とも何か重要なことを忘れていません?…この試験は?」
 
 
 女性がいたずらっぽく微笑んで二人に問いかける。
 シズクは彼女の問いかけにピンときたようだが、クロノはまだ全くわからない様だ。
 
 
「わかったわ、こういうことね。」
「え?え?」
 
 
 シズクはわからないクロノに構わず、まず自分一人で実践した。
 彼女は目を閉じると、メニューをなぞり始める。
 
 魔力が体から吹き出し、そしてメニューブックへと吸い込まれて行った。すると、突然メニューブックが宙を浮き、小さな爆発と共に煙に包まれ、ゆっくりとシズクの目前のテーブルに降下してきた。
 煙が晴れると、そこには前菜とスープの入った器と、スプーンなど一式があった。
 
 
「こういうことなのね〜!面白い!あぁ、でも、これだけ?ちょっと寂しいわねぇ。」
 
 
 そこに、背後から静かにウエイターがやってきてシズクに告げる。
 
 
「メインディッシュとデザートはいつ頃お運び致しましょうか?」
「え?あ、まだあるのね。良かった!そうねぇ、メインは出来次第で、デザートはそれが終わったら手を上げるから、その時に頼むわ。」
「畏まりました。」
「あ、一つ聴いて良いかしら?」
「はい、なんなりと。」
「この料理高そうだけど…その、私持ち合わせ無いから、払えそうにない金額ならやめたいんだけど?」
 
 
 シズクの質問に、ウエイターはにっこり微笑み答えた。
 
 
「ご安心下さい。こちらの料理は全てチケットに含まれております。」
「そう?本当に?…後で色々言っても払えないからね。」
「ははは、大丈夫です。心置きなくお食事をお楽しみ下さい。」
 
 
 にっこり微笑みそう告げると、ウエイターは下がっていった。
 二人のやり取りを見て、クロノが感心してみていた。
 
 
「うへぇ〜、タダ?…マジかよ。なら俺も!」
 
 
 彼はそういうと、シズク同様に魔力をメニューブックに注ぎ込む。
 すると同様に浮き上がり爆発したかと思うと、ゆっくり落ちてきてテーブルの上に乗った。
 煙が晴れると、そこにはシズクと同じ前菜とスープが乗っていた。
 そして、すぐにウエイターが飛んできて料理を運ぶ時間を尋ねたので、彼もシズクと同じにしてもらった。
 
 
「やったね!」
 
 
 二人はハイタッチを決めて喜んだ。そして、早速クロノがスプーンを持ってスープを口元に運ぶ。そんな二人を見て、にこやかに微笑みながら女性が祝福した。
 
 
「おめでとう、お二人とも。凄いわね。私は初めての時は料理を出すことすら出来なかったわ。お二人はすぐにできるなんて、相当の能力をお持ちですのね。」
「いやぁ、それほどでも。」
 
 
 クロノは女性の言葉に、照れてだらだらスープをこぼす。
 
 
「あ!汚い!もう、何鼻の下伸ばしてるの!…このことマールさんに言っちゃおっかなぁ〜?」
「な!?お、おい、それは勘弁!」
 
 
 シズクの言葉に、一瞬顔面蒼白になるクロノ。二人はその表情を見逃さなかった。
 ミネルバはシズクの出した名前の人物について訪ねた。
 
 
「マールさん?」
「あ、彼の奥さんです。」
「まぁ、ご結婚されていたのね。そうねぇ、これだけの色男を放っておく女性なんていないわよね。」
「あはは、それほどでもぉ。」
 
 
 クロノは彼女に煽てられて満更でもなく嬉しいらしい。
 彼女はクロノの反応に内心苦笑しつつ、それまでしていなかった肝心なことについて切り出した。
 
 
「そういえば、私達自己紹介していなかったわね。私はミネルバ。ボッシュ大学院で政治学の勉強をしています。宜しく。」
 
 
 彼女の自己紹介に、クロノは頭をかきながら笑って答える。
 
 
「オレはクロノ。今は失業中で…その、旅をしているんだ。この子とは旅先でたまたま出会って、目的が同じだから一緒に旅をしている。」
「シズクと言います。ミネルバさん、宜しく。」
 
 
 シズクが笑顔で会釈をした。
 彼女もまたにっこり微笑んで応じた。
 
 
「えぇ、こちらこそ。しかし、クロノさんは失業されたのですか。以前はどんなお仕事を?」
 
 
 彼女の質問にクロノは内心困りつつ、無難な所を選んだ。
 
 
「う〜ん、まぁ、公務員をね。」
「フフフ、わかった。何か不始末をしたのね?で、クビになったんでしょ?それも、普通のヘマじゃないわね。それで家を出ているって所かしら?」
「あははは、はは、ミネルバさんにはかなわないなぁ…」
 
 
 クロノの困りながらの発言に、ミネルバは勝手に推測して納得してくれた様だ。
 内心では当たらずもと遠からずと感じていたクロノだが、ポリポリ頭を掻きながら彼女がそれで納得してくれたならば良いと安堵して笑っていた。
 
 
 それからはゆっくりと食事の時間となった。
 3人は他愛もない話をしながら、夕日が沈み星が瞬き始めた空と大地を望み、流れ行く星空と大地のシルエットを楽しんだ。
 食事も済ませ、二人も飲み物を頼んで飲んでいる頃、彼女が二人に尋ねる。
 
 
「ところで、見た所二人だけのようだけど、他に誰かいるの?」
「へ?いや。」
「え、だって、試験は三人一組よ?もう一人いないと出られないじゃない?」
「えーと、動物とかって出られるのかなぁ…なんて?」
 
 
 クロノの質問に彼女の目が点になり止まったかと思うと、突然笑いだした。
 
 
「フフフフ、何それ?それって、冗談よねぇ?試験は遺伝子的に人以外は駄目よ。」
「えー、うそ!?」
 
 
 ミネルバの発言に驚く二人。
 それまでぽちょでいけると思っていただけに、不意打ちの発言だった。
 
 
「ねぇ、宛が無いなら、私と組まない?」
「え?ミネルバさんも1人???」
 
 
 ミネルバの意外な申し出に驚く二人。
 
 
「えぇ、私、いつも一緒に受けていた友達がみんな受かっちゃって。私独り最後に残っちゃったの。で、1人で受けることになったのよ。でも、この試験は3人一組でしょ?私もメンバーを探していたの。あなた達が良ければ、私と組みましょう?」
「えぇ、ミネルバさんならこちらこそ宜しくお願いします!」
「フフ!有り難う。じゃ、そうと決まったら乾杯しましょう?」
 
 
 ミネルバはウエイターを呼ぶと、シズクにあわせてソフトドリンクを頼み、ウエイターの持って来たオレンジジュースの満たされたグラスで乾杯した。
 
 3人はその後も暫く談笑した。
 ミネルバの話によると、試験には4つの関門があり、一つ一つクリアする中で振るいにかけられる様に絞られて行くという。
 
 降り口を決めて落ち合うことにした3人は、それぞれゆっくりと列車の旅を楽しんだ。

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