クロノプロジェクト正式連載版シーズン2
 
 
  第91話「要件」
 
 
 々に速度が増す。
 次第に加速する早さに合わせて、レールとレールの接続部を渡る時の「ガタン」という音が早くなる。
 
 
「…走り出したわね。で、何を教えてくれるのかしら?」
 
 
 彼女の問い掛けに、青年は静かに答えた。
 
 
「あぁ、試練の洞窟のことだよ。」
「え、それがどうかしたの。」
 
 
 シズクの反応に、青年より先に下の少年がぶっきらぼうに言った。
 
 
「はぁ、何も知らないのか、マジ?…この列車に乗ったら皆敵だと思わなきゃな。この列車から試練は始まってるのさ。」
「…?、何それ。どういうこと?…ねぇ、私達は何も説明を受けてないのよぉ。あなた頭良さそうだから説明してくれない?」
 
 
 彼女はぶっきらぼうな少年を無視し、青年に向けて笑顔で問い掛けた。
 青年は彼女の笑顔の問い掛けに、先ほどまでの冷たい表情とは180度違ったはにかむ様な照れ笑いを浮かべて答えた。
 
 
「うーん、仕方ないなぁ。試練の洞窟はメディーナ人にとって出世できるかどうかの重要な試練なんだ。ここをクリア出来ない人は、メディーナの最先端産業に務めることはまず無理だ。だからみんな必死に勉強したり修行をしてここに来るんだ。」
「へぇ、勉強するの。でも、修行って何?」
「ははは、本当に何も知らないんだなぁ。修行は魔力を高める訓練さ。ここは知恵だけじゃ乗り切ることは出来ない。」
 
 
 そう言うと青年はベッドから降りた。そして、片腕を二人に見えるように差し出し目をつぶり集中を始めると、彼の片腕にボウッと青い輝きが集まり、光の玉が浮かび上がった。見事な水の魔力の集中が伺える。
 
 
 「…強い魔力と、それを駆使する能力が無くてはクリア出来ないんだ。だから皆必死さ。魔族だからって誰もが強い魔力を持って、思い通りの魔法を使えるわけじゃないからね。」
 
 
 彼は話しの区切りの良い所で魔力の集中を解き、光の玉を消した。
 そして二人に問いかけた。
 
 
「人間とのハーフなら尚更キツイだろう。だけど、見たところ君達は純粋な人間の様だね、大丈夫なのかい?」
 
 
 彼の問い掛けに、彼女は何ら不安な表情を浮かべず笑顔で答えた。
 
 
「私達は大丈夫よ。ね〜?」
 
 
 彼女がクロノに笑顔で同調を求める。
 クロノは笑いながらコクリと頷いてみせた。
 そんな二人のやり取りに、青年も少年も疑問の表情は隠さなかった。
 
 
「本当かい?…しかし、何故魔族じゃないのに。まぁ、最近はハーフも増えたから人間の外見をしてる人も見かけるが、君達はどう見てもオリジナルだよね?」
「そうね。でも、魔力なら大丈夫よ。ほら!」
 
 
 彼女は青年がしたように片手を差し出し、そこに火の玉を浮かべて見せた。
 クロノも彼女の真似をするように片手を出して、そこに稲妻を走らせて見せた。
 青年も少年も驚いた。彼らは純粋な人間である二人が魔法を使っただけではなく、青年がしたような魔力の集中の為の時間をおかずに即座に魔力を集中し、とても小さな力で押さえた上で放出して見せた事だった。
 
 
「…ホントだ。」
「ね?大丈夫でしょ。」
「…君達は一体。」
「そんなことどうでも良いじゃない。それより折角こうして出会ったんだから、短い間でも楽しく過ごしましょう?」
 
 
 シズクはそう言うと青年に握手を求めた。
 青年は彼女の提案に笑顔で手を差し出したが、少年は違った。
 
 
「フン、おまえらわかってねぇな。俺達は試練を受けると決めた時点で敵同士なんだぞ。馴れ合ってる場合か。それとも、余裕だからそんな感覚でいられるのか。フン!」
 
 
 少年の反発に、彼女の顔から笑みが消える。
 
 
「…なによ!別にその場限りの戦いじゃない、なんでそんなのにストレス溜めなくちゃならないのよ!馬鹿馬鹿しい!」
 
 
 彼女の突然の豹変振りに青年は勿論、クロノも驚く。しかし、少年は全く怯まず言った。
 
 
「へん、どうせ現実の試験を知ってびびるのがオチさ。そうそう、そこのにーちゃんが言い忘れてるようだが、試験は3人一組だぜ?あんたらもう1人の宛はあるのか?ま、精々頑張るんだな。」
 
 
 少年は話し終えると、また横になり本を読み始めた。
 
 
「なんなのよ!!もう!」
「…シズク、少し歩こう。」
 
 
 クロノの呼び掛けに、彼女は怒りを渋々収めて同意した。
 彼らが部屋から去ると、青年は少年へ振り向き様水の玉を投げはなった。
 少年は冷静に片手を出すと、水の玉を受け止めた。
 
 
「にーちゃん、何のつもりだ。」
「…君は彼らにああは言ったが、宛ては有るのかい。」
「…。」
「僕はベン。ゾガリ一族の三男坊ってところだ。君の手の平のタトゥー、見たところイジューイン家の紋章だね。」
「…イジューインなんて関係ねぇよ。俺は奴らの系図にはいないからな。」
「そうなんだ。…じゃ、もう一度聞こう。何かの縁だ。もし宛てが無いなら、僕と組まないか?」
「…考えておく。」
「…そうか。なら、それはOKだと解釈しておくよ。」
 
 
 少年は青年の言葉に反応せず、尚も本を読んでいた。
 青年はそんな彼に微笑みを浮かべると、窓の方を向き外を眺めた。
 外は街を離れ、一面草原の道を進もうとしているところだった。

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