クロノプロジェクト正式連載版

 シーズン2先行版も第三回となりました。
 今回は新しい人々の登場です。今までのクロノ達とは違う人々がこれからのシーズン2には沢山出てきます。今回はその中のほんの僅かな人達ですが、ご紹介とさせていただきました。

第83話「集える者たち」(先行公開版3)
 
 
 こは北の山奥、険しい山々に囲まれた小さな土地。
 小さな森と小さな泉があり、小動物が暮らし、清らかな風の流れる場所。
 
 開発が進む世界とは隔絶されたここは、今なら秘境と呼ばれるであろう場所だが、つい最近まで全世界がこの様な清らかな世界であったことも、また事実だ。
 
 現代に数少ない自然が残るのは、開発という考えの反省から生れた保護の思想による。しかし、この保護の思想自体は、この現代が知るにはもう暫く後になってからであった。だが、ここにはそれが有り、そして半信半疑ながらそれに従う指導者のもとで実践された。
 
 それから20年あまりの日月が流れ、ようやくその指導者の言葉が他の多くの者に共感されるに至るが、それでもまだ多数には至らない。だが、ここはそんな迷える人々の心の良心とも思える場所といえた。
 
 森に囲まれた泉のそばには木造の小さな家があった。
 家には呪術的文様が施されており只ならぬ雰囲気も有ったが、それ以外はごく普通の家と言えた。
 
 
「先生、僕は本当に…」
「大丈夫だ。お前はわしの伝えるべきことは全て覚えた。」
 
 
 少年は緊張を隠せなかった。
 初めて挑戦する試練を前に、自信は勿論、勝算さえ無かった。しかし、彼の師である老いた老婆はニッコリと微笑んで少年の頭を優しくなでた。
 
 
「ハイドや、お前は今では珍しくなった純血のティエンレンの末裔。お前の父はこのわしをも超える天術の使い手。そして、お前の母は脈々と受け継がれた封主。お前はゆくゆくはこの国を、いや、世界を導く者にならねばならん。」
「…はい。」
 
 
 少年は神妙な面持ちで頷いた。彼にはそれしか出来ようが無かった。
 だが、そのプレッシャーは彼を押し潰すには至らない。
 彼にはそれに耐えるに値する理由があった。
 
 
「先生、今度の試験では…その、本当に奴らは現れるのですか。」
「さぁのぉ。だが、お前にとっては奴らが目的ではない。彼らは通過点だ。忘れてはならん。」
「…はい。しかし…」
「お前の敵は奴らだけではない。ライバルとなる実力者も多数おる。そして、同時に仲間も求めなくてはならない。あの場は己の実力は勿論、人としての力も試されることを心しなさい。おぉ、そうだ、少し待っていなさい。」
「はい。」
 
 
 老婆は少年を待たせると、奥の部屋の祭壇のもとにゆっくり歩いていった。
 彼女はゆっくりと祭壇に近づくと、祭壇から約50cm程離れた場所で立ち止まり、両手を前に伸ばした。そして、目をつぶると何かの呪文を唱える。
 すると、彼女の足下を中心に魔法陣が浮かび上がり、赤い光が眩く天井へ向けて走ると、祭壇の周囲で突然ぱちんとまるでシャボン玉が弾けるように、幕の様な光が現れたと思うと一瞬で消えてしまった。
 彼女はそれを確認するとゆっくりと祭壇に進み、飾られている青い光を放った一本の杖を手に取った。彼女が杖を手に取ると青い光は静まり消えた。そして彼女はゆっくりと少年のもとに戻ってきた。
 
 
「お前にこれを与える。」
「…こんな高価なものは受け取れません。」
「何を言っておる。これは元々お前の一族の物だ。この宝玉サンオブサンは全ての光を吸い、全ての闇を消し去ると言われている。そして、この青いハイドロンの杖は大地に恵みを与え、生命に活力をもたらすと言われている。この力を再度人間の為に使うのか、お前の為につかうのかは自由だ。だが、忘れてはならない。敵は己の中にあるということを。」
「…はい、先生。」
 
 
 少年は頷くと、彼女から杖をしっかりと受け取った。
 彼女は彼にニッコリと微笑みかけると、静かに戸口まで彼を案内した。
 
 
「…先生、あなたからのご恩は一生忘れません。」
「何を言うておる、お前はわしの孫の様なものだ。いつでも帰ってきたくなったら帰ってくるがええ。お前は戦う術を得た。だが、戦だけが人生ではない。人は憎しみだけでは駄目なのだ。時に笑い、時に安らぎを感じておらんとな。」
「はい。…全てが終わったら、帰ってきます。」
「うむ。では、せいぜい長生きさせてもらおう。頑張れよ。」
「はい!先生もお元気で。」
 
 
 少年と老婆はひしとしばしの抱擁を交わすと、少年は自分の育った家を1人出た。
 
 
 空は蒼く、そして風は冷たい。
 だが、その抜けるような青空にひんやりとした身の引き締まる風が心地よかった。
 
 
 
 
 
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「ねぇ、何とかならへんの?」
「…ならへんていうてるやろ。」

 
 
 その燃えるような赤い瞳をした緋色の髪をした青年は、さも煩そうに言葉を返した。
 視界の前方には崖、手にはほこほこした肉まんじゅうが一つ。彼はそれを頬張ると数回噛んで飲み込んだ。その後方では彼の勢いを越えるスピードで沢山の肉まんを、そのブラックホールの様に開かれた口に放り込む巨体の姿もあった。
 銀色のショートボブにエメラルドの瞳の少女は呆れ返る視線を飛ばしつつ、その巨体に言った。
 
 
ヤッパ、いい加減にしいや!
 あんたのせいで、あたしらどんだけ迷惑してると思てんの!」
「…。」
 
 
 ヤッパと呼ばれた巨体の少年は黙々と肉まんじゅうを食べ続けていた。
 少女が構える。巨体の少年の向こうから放たれる殺気がそうさせることを促すのだ。
 彼の後方には一組の老夫婦の姿があった。彼らは魔族で、この3人をとても恨んでいる様子だった。
 
 
「よぉも、わしらの店を潰してくれたわなぁ。
 特にそこのデブ!お前の腹は化け物か!」
「あたしらの老後を奪ったこと、ただで済まさんで!
 覚悟しぃや!小童ども!」

 
 
 二人の様子はどう見ても和解の余地が無さそうだ。特に巨体の少年へ向けられた殺気は尋常ではなかった。だが、向けられた当の少年は全く気付いておらず、黙々と大きな袋に詰まった肉まんじゅうを食べていた。そして、フィニッシュとばかりに袋を高く掲げもつと口を大きく開け、袋を逆さまにすると全ての肉まんじゅうが一気に放り込まれた。彼はそれをむしゃむしゃととても幸せそうに頬張ると、ごっくんと丸のみしてしまった。
 
 
「…ウマイ。おかわり。」
 
 
 少年の言葉はその場の全員を脱力させるのに十分なパワーを発揮した。それは追うものも追われるものも関係なく、その時ばかりは一点に視線が集中した。
 青年が呆れたように笑い、背後の老夫婦を見据えると不敵な笑みを浮かべて言った。
 
 
ハハハ…食っちまいやがって。まぁ、食っちまったもんはしゃーないな。ほな、俺ら退散するで。」
「…うん。…帰ろう。」
 
 
 ヤッパはそういうと、大きく息を吸い込んだ。すると、ふわりふわりと彼の体が浮き始めた。
 呆気にとられた老夫婦をよそに、青年と少女は彼の体に掴まってそのまま空高く舞い上がった。
 老夫婦は彼らが登り切った頃にふと気付いたが、もはやどうすることも出来ず呆然と立ち尽くした。
 
 空高く舞い上がった3人。
 空の上でヤッパの巨体にしがみつく二人は、前方に広がる昼下がりの輝きで満たされた美しい大パノラマを眺めていた。彼らの周囲にはヤッパが作り出した保護フィールドが張り巡らされており、上空の冷たい風から守られたヤッパの理想の生活環境が保たれていた。
 
 
「なぁ?」
 
 
 少女が青年に声を掛けた。
 青年は優しい笑顔でそれに振り向き応じる。
 
 
「なんや?」
「あんた、これでええのん?」
 
 
 少女の言葉は青年の脳裏に様々な物事をかすめさせた。だが、青年はそれを表に出さず、少女を安心させるように優しく答えた。
 
 
「…ハハ、お前は気にすんな。こいつも仕事や。プロはプロらしくっちゅーことやな。」
 
 
 少女はそんな青年の反応が納得いかない様子だった。
 本来ならば、この青年はこんな空を無銭飲食した後に飛び回るような立場にいるべき男ではない。そう思うからこそ、余計に彼の置かれた状況が納得できない。しかし、当の本人はそれを受け入れているという。
 本人でもない自分がこれほどの憤りを感じているのに、彼はどうして納得できるのだろう。いや、納得しているはずなんてない。彼女はそう思うととても彼が不憫でならなかった。
 
 
そんなん…あんたの実力ちゃうやろ?」
 
 
 彼女の言葉は確かに青年も思う所ではあった。
 しかし、自分1人が我侭を通した所で、何かを変えられるほど甘くない世の中であることは重々承知していた。だが、少女の年頃には納得できないに違いないこともよくよくわかる。
 彼女の言葉は自分の気持ちを代弁していたとはいえ、それを素直に受け入れるわけにはいかない。だからと彼女の気持ちを踏みにじりたいわけでもなかった。
 彼は片手を伸ばし少女の手を握ると、前を向いたまま言った。
 
 
「…せやかて、逆らえるもんとちゃうやろ。
「………うん。ごめん。」
「フフン、ええよ。」
 
 
 青年は少女の手を優しく握りしめた。
 少女は青年の方を振り向く。
 
 
「バンダー。」
「なんや?」
「無理したらあかんで。」
「あぁ。」
 
 
 二人の間に暖かい時間が続く。
 …かと思われたが、バンダーと呼ばれた青年が異変に気付いた。
 
 
「メンバル。」
「何?」
「臭うで。」
 
 
 青年の突然の言葉に、しかも絶対聞きたくない言葉を聞いて動揺が走る。
 
 
え"!?!な、なんで!?
「…いや、お前やないから。ちゅーか、コレ、アレやないか?」
「………アレって、もしかして…」
 
 
 二人の頭には既に共通の答えが有った。
 だが、それを思い浮かべた時には既に遅かった。
 
 
「いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 
 
 3人はヤッパのガス大放出によって、まるで風船が急速に空気を吐き出してしぼむように乱舞し彼方へ消えていった。
 彼らの飛んでいった方角には、森の中に建つ蒼く透き通った輝きを放つ巨大な施設の姿があった。

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