クロノプロジェクト正式連載版

 さて、シーズン2先行公開版第2回の登場です!
 
 前回とは違い、今回は少しクロノと離れた所の視点からの物語です。
 クロノ達が起こした波紋は世界の様々な人々に影響を与え始めています。今回の物語ではそうした人達の動きの一端が登場します。彼らは何者でどんな目的を持っているのか?…お楽しみ頂ければ幸いです。
 
 今回も感想など頂けたら有難いですし、読み終わった方でまだ外伝とか前回を読んでない方は、そちらの方もお楽しみ頂ければ幸いです。
 
 では、始めましょう!シーズン2先行版第2回公開です。
 

第82話「旧知/母なる古」(先行公開版2)
 
 
長、本日はまたどういう風の吹き回しです。」
 
 
 青いショートヘアの女性は、黒い皮表紙のスケジュール帳をぺらぺらめくり、メモを書き込みつつも、彼女の対面の男性に尋ねた。
 その対面の男性は革張りのふかふかの座席に身を沈め、微笑みをたたえて答える。
 
 
「なに、古い友人の頼みを叶えるためさ。」
 
 
 世界第二位の自動車メーカー「クリフ」社製最高級リムジン「プリンセス」。
 
 
 その車体はプリンセスの名に恥じぬ美しく汚れ無き純白。富める者のステータスシンボルとして知られ、世界に僅か数台しか存在せず、車体には記念刻印とシリアルナンバーが刻み込まれている。
 
 まさに富める者であるその男は、秘書の若い女性に終始にこやかだった。
 彼にとって今日という日は、表現するならば歴史の新しい一ページの始まりと言えた。
 
 白いプリンセスは涼やかな風を切り駆ける。
 その前方には広大な敷地を持つ人工都市の中枢があった。
 
 北方の鉱山より産出される、世界でも珍しい青い大理石がふんだんに使われている宮殿は、日の光を浴びてその美しいターコイズの輝きを見せていた。
 午後の陽射しが降り注ぐ中、この壮麗なる大宮殿の中にこの国の最高意思決定者が住まう。
 
 人々はここをブルーパレスと呼び、今では「唯一の独立国」としてこの世界に存在する国家の指導者を、この宮殿は受け入れてきた。宮殿の中には様々な要職に就く者が仕事をしており、その頭脳は世界でも最先端の知恵と力を持つ者達。そして、その力がこの国を辛うじて世界の流れとは違う道へと導くことに成功していた。
 
 宮殿へ入る者…それはエリートの証であり、成功者の象徴でもあった。
 そんな宮殿の入り口に、走るプリンセスは静かに停車した。
 
 停車したプリンセスの運転席から運転手が急ぎ出て恭しく扉を開けると、中からこの車の持ち主である白いスーツを着た男性が静かに降り立った。
 彼は手に持つシルクハットをかぶると、杖を突いて悠然と青き絨毯の上を歩む。
 
 彼が歩くと周囲の人々は道を開け、行儀良く会釈をした。
 彼はそれに軽く笑顔で頷き返すと、通路を迷うことなく突き進んだ。
 
 誰も彼の道を阻む者はいない。
 宮殿は彼を無条件で受け入れていた。
 
 
「おぉ、来たか。」
 
 
 紳士が入ると、前方のデスクで執務を行う男が手を止めて立ち上がった。
 紳士は帽子を取り、彼に深々と礼をし挨拶した。
 
 
「お久しぶりです、閣下。」
 
 
 前方の男は年齢的にも彼と同世代で、どうやら旧知の仲らしい。しかし、白い紳士と違うのは、彼は魔族であるということ。
 閣下と呼ばれた男は、秘書官に指示を与えると部屋の外へ出るように命じた。
 秘書官は笑顔で応じると、紳士にも笑顔で退室することを告げて行儀良く出ていった。
 
 
 閣下は立ち上がると窓際の応接椅子に紳士を誘い、彼も紳士の対面に座った。
 中央の卓上には氷水の入ったガラスのポットとグラスが置かれており、閣下はグラスに水を注ぐと紳士のもとに置き、自分の分も入れるとゆっくり手に持って口にふくんだ。
 紳士もグラスに手を伸ばす。
 
 
「…さて、呼びかけても手紙を返すだけ。召喚しても国内不在。滅多に来ない君のことだ…きっと重大なのだろう?」
 
 
 閣下は微笑みつつも軽い皮肉を込めて言った。
 紳士もまた微笑みを浮かべながらそれに答える。
 
 
「初っぱなから手厳しいですな。…まぁ、そうです。」
「用件は分かっているつもりだ。あの話だろう?」
「えぇ。」
「だが、どうやら沈められたそうじゃないか。」
「…はい。」
 
 
 白い紳士は静かに答えると、一枚の紙をポケットから取り出し卓上に広げて見せた。
 閣下は背もたれからゆっくり体を起こすと、それを手に取って見た。
 
 
「これは、切符のコピー。なんだ?」
「もう一つあります。」
 
 
 そう言うと、紳士はもう片方のポケットから一枚の写真を取り出し見せた。
 閣下はその写真を見て、暫く言葉にならなかった。
 

…信じられん。20年も経過しているんだぞ。」
「ははは、いや、私もですよ。信じられない。ですが、どうやら向こうもターゲットとしている様です。何の意味も無ければ、彼らは動かない。」
「…だがしかし…いや、そんなことはどうでもいい。これはどういうことだ?君の報告では、確保しそこなったそうではないか。」
「はい。」
「ならば、これは一体。」
 
 
 閣下は写真に映る青年と少女の写真を不可解そうに見つめながら話していた。
 紳士は深く背もたれに体を静めると、指を交差するように組んで腹の上に乗せた。
 …彼にはこの反応はどうやら予想されたものであるようだ。
 
 
「我々が貴方を支持してきた理由はおわかりですね。」
 
 
 紳士の声は揺らぎ無く静かに放たれた。
 その声に閣下は写真を置きながら冷静に答える。
 
 
「…無論。だが、それは我々にとっても重大な利益になるからだ。君の言いたいことはわかっているつもりだが、出来ることと出来ないことがあることくらい、…君もわかっていよう。」
「…私が出来ないことを言った事がありますか。」
「…どういうことだね。」
「閣下のお力を借りたいのです。具体的には、助っ人…でしょうか。」
 
 
 閣下は不機嫌だった。
 彼の相手はいつも悠然と構えている掴み所の無い男だった。
 彼の目的は明らかだったが、その真意はいつもわからない。だが、別にそれが嫌なわけではない。ただ、もどかしいような腑に落ちないものがある。しかし、見習うべきものがあるとも言えた。なんだかんだと思いつつも、嫌いになれない自分がいる。
 
 
「…ふむ。わかった。私と君の仲だ。しかし、ルールも有る。私も大統領である前に国民だ。法に背くことはできん。」
「分かっています。しかし、そこをなんとか。」
…案ずるな。上手くやっておこう。」
「有り難うございます。」
 
 
 紳士は起き上がり姿勢を正すと、立ち上がって深々と礼をした。
 閣下はそんな彼の白々しい素振りに再度不機嫌に言った。
 
 
…フン、やめだやめだ。そんな他人行儀な。
 その代わり、今日は返さんぞ!一杯ひっかけるからな。この日の為にとっておきのを用意してある。絶対!帰るなよ?」
「ははは、わかった。あぁ、飲もう。一杯でも何杯でも。丁度こちらもチョラスの50年ものの良い物が手に入ってね。車内に持参しているよ。後で持ってこさせよう。」
「ほほぅ、相変わらず君の所は商売が上手いようだな。」
「お互い様だ。狸同士の化かし合いさ。しかし、ここに老師がいないのが残念だ。」
「…我らには我らの出来ることをする他にない。それが老師の教えだ。」
「…そうだな。」
 
 
 二人は先程までの雰囲気と違い互いに明るく笑い合うと、閣下も立ち上がり執務室を出た。
 その夜は酒を酌み交わし、昔話で盛り上がったという。 
 
 
 
 
 
 
 
 …ひんやりと冷たい空気の中に、ほのかに生あたたかな風がそよぐ。
 そこはとても暗く、そして湿っている。
 
 
 古い苔むした壁は長い年月を物語るかの様に生え渡り、それらの苔に光を与えるのは炎の光だった。
 
 
「あぁ、愛しの人…」
 
 
 炎の前には一人の老婆の姿があった。
 老婆はとてもよく磨かれた一体の石像を見ていた。
 その表情はとても恍惚としたもので、彼女にとって最高に至福の時間なのだろう。
 
 
「あたしの愛しの人。今はあなたのいない時なんて考えられない。」
 
 
 老婆はそういうと、石像に触れた。
 いや、抱きついたと言った方が正しい。
 彼女は石像の土台を抱擁し、その足に口づけをした。
 
 
「さぁ、我らが王、魔王よ、そのお力をお示しくださいまし。」
 
 
 そういうと彼女はフゥと一息、石像の足下に息を吹きかけた。
 すると、石像が握る黒い水晶玉が鈍く輝き、何かの映像が映し出された。
 そこに映し出されたのは、赤い髪の青年。
 
 
「!?…………おぉ、魔王様。
 遂にあなた様の憎き敵を見つけました。」

 
 
 老婆は目を輝かせている。
 その表情はとても晴れやかで、殆ど抜け落ちた髪を綺麗に撫でる様に整え、そして、素早く動いたかと思うと、また再び同じ場所に戻った。しかし、その時には彼女の頭には桃色のお下げ髪が生えていた。
 
 それだけではない。
 
 服装もぼろぼろの服から派手なエナメル質の光沢のある白に、桃色の縁取りのあるミニスカートを着ていた。ただ、彼女の顔や全体は老いたままだった。
 
 
「記念すべき今日は、やっぱこーよねー♪
 
ーほほほほほほほほほほほほほっ!」
 
 
 彼女はお下げ髪をもじもじいじりながらそういうと、突如大声で高らかに笑いだした。どうやら、これが彼女の素の姿らしい。
 
 
 ウゴォォォオオオォオオオ………
 
 
「おやおや、あたしのかわいい子。何を悲しんでいるのよね?」
 
 
 ウゴォォォオオオオォォォォォォォ………
 
 
「まぁ〜、そうよねー。そうよねー。でも、あたしはみんなのことを愛してるのよねー。」
 
 
 グウゥウゥウウウ………
 
 
「ウフフ、えぇ。わかっているのよねー。
 あたしのかわいこちゃん達♪
 時は来たのよねー。あたし達の願いは届いたのよね〜?
 ウフフ、
アハハハハハハハハハハハ。
 
 
 高らかに笑う彼女だが、後方に気配を感じた。
 即座に振り向き様に魔法を放つ彼女。しかし、その魔法は直撃の寸前にかわされたようだ。
 
 闇の向こうを凝視する。
 そこから静かにコツコツとヒールの靴音が近づくのが聴こえた。
 
 
「………気に入らないのよね。またあなたなのね。」
「…閣下の命令なくば、あなたのもとには来ませんよ。」
フン、グラネテュス・バイパー、今度はなんな訳?」
 
 
 声の主は静かに彼女の前に現れた。
 姿は女性。歳は25くらいだろうか。
 綺麗な緑のショートヘアーの女性は、パレポリの佐官クラスの制服を着ていた。
 
 
「覚えていただけましたか。キュピズム公爵夫人様…でしたかな。」
「…満点よ。フン。」
「それはよかった。」
 
 
 グラネテュスの完璧な記憶に、夫人は名前を変えてやろうかとも内心考えたが、そんなことに時間と労力を消費するのは得策じゃないと考えを改め、再度尋ねる。
 
 
「で、何の用なのよね。」
「用件は、閣下から是非ともあなた様のお力を頂きたいという伝言を賜っております故、その伝令として参らせていただきました。閣下は非常にあなた様を評価なさっております。」
 
 
 彼女の言葉はキュピズム公爵夫人のプライドを傷つけるには十分だった。
 夫人は憤る心をなだめすかしながら冷静に、それでいて怒りも込めて言った。
 
 
「…フン、あたしにだってプライドがあるのよね。なんであんたみたいな下僕に頼まれて『はい、分かりました!』なんて言えるのよね。ちょっと無礼にもほどがあるのよねー。おたくの方針はどうあれ、あたしへの礼節はわきまえて欲しいのよね。」
 
 
 夫人はそういうとプイと顔をそらした。
 そんな彼女にグラネテュスは無表情に静かに答える。
 
 
…失礼を承知で参らせていただいております。その非礼を詫びる上でも、私はあなた様のもとで共に戦わせて頂く所存です。これは私の主人の厚意でもあります。」
ムキィー!ちょっとぉ、あんたが私の部下!?冗談もよしてよね!それじゃ体のいい監視よね?
 …フン、面白いこと考えてくれるわよね。
 
いいわ!その話乗った!…その代わり覚悟するのよね!ディアのもとになんて返してあげないんだから!分かってるわよね?」
「御意。」
 
 
 グラネテュスが何の反発も示さずに冷静に答えを出すことにいらつく夫人。
 しかし、それをそうだと認めるのはもっと腹立たしかった。だが、感情の高ぶりはそれを超えた。
 
 
「ノイアが怖くて、魔族やってられますかってんのよね!
 覚えてらっしゃい。あたしは誰も許しゃしないのよね!ぷんぷん!
 ノイアだろうがルーキスだろうが、そんなの知ったこっちゃないのよね!
 
あたしは天下の三魔騎士、
 
空魔士マヨネー様なのよねーーーー!!!
「………。」
 

 夫人は高らかに宣言する様に闘争心を燃やした。
 その拳はとても力強く握られ、血が滴たる腕が一瞬往年の姿を取り戻したかの様に見えた。

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