クロノプロジェクト正式連載版

第75話「反転攻勢」
 
 
 ロノ達は3手に別れてリストガンを配り、勢力を立て直しつつ攻め込む事となった。
 それぞれ4つずつ持ったリストガンの内二つは装備し、残りの二つを他の集落の仲間
に渡すという手順が組まれる。
 
 北部の集落へ向かったフォルス達は橋の近くの集落へ向かった。そこではまだ囚人達
との戦闘が繰り広げられており、戦況は劣勢といえた。
 
 
「酷い…」
「あぁ、だが、それも今日が最後だ。」

 
 
 フォルスはブランカから教わった使い方を思い出していた。
 
 ブランカの話では、腕輪を装着してしばらくすると、体内の魔力を感知して次第に色
が変化するという。その色を便りにしてイメージを集中する事で魔法を放つ事が出来る
らしい。色には5種類有り、銀、赤、青、黄、黒の5色で、それぞれは先天属性を表し、
銀は天、赤は火、青は水、黄は地、黒は冥という属性を表す。
 フォルスの腕輪の色は黄色に変色していた。つまり属性は地。大地の力を利用する属
性だ。
 
 
「行っけぇーーーー!!!!」
 
 
 フォルスのリストガンが黄金に輝く。
 リストガンを装着した手に魔力が集まり、フォルスの号令のもとに拡散して射出され
た。沢山の光の粒が目前の多くの囚人達に向かって行った。
 囚人達は突然の思わぬ方向からの攻撃に驚き統率が乱れた。それを見て集落の者たち
も次々に攻撃の勢いを上げる。完全に戦況は一転した。
 
 
「に、逃げろーー!!!」
 
 
 囚人達は総崩れとなり、散り散りに逃亡を始める。しかし、ナリヤがそれを阻むよう
に囚人達をリストガンで攻撃。彼女のリストガンは赤く変色しており、炎がその腕から
吹き出した。
 
 
「逃がさねぇ!!」
 
 
 フォルスが最後のとどめとばかりに全体に魔法を放った。彼の魔法は微細なダイヤの
粒となって、音速で彼らを貫いていた。
 囚人達は全滅した。
 
 
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 
 
 フォルスは急激な脱力に襲われるのを感じていた。どうやら魔法というものは相当に
体力を使うものらしく、息切れは勿論、眩暈と頭痛も感じていた。だが、今は疲れを感
じている場合ではない。彼は力いっぱいガッツポーズを見せ、住人達を安心させた。
 
 戦闘終了後、ナリヤは集落の長を探した。
 長は片足を負傷しており、他の村人に支えられながら彼らの前にゆっくりと現れた。
二人は彼の無事を喜ぶと、長の男に二つの腕輪を渡した。
 
 
「ナリヤさん、これが?」
「そうよ。」
「では、先程の炎はこれが。」
「…えぇ。今度はこっちが仕掛ける番よ!」
「そうですね。死んで行った人の為にも、頑張らないと。」
 
 
 ナリヤが使い方を説明すると、彼は腕輪をはめて試し撃ちをした。
 彼の腕からは氷の刃が飛び出し、近くの木々に突き刺さった。長はその威力の凄さに
目を見張るが、すぐに落ち着いて近くの燃え盛る家に向けて腕を構えた。
 
 
「むん!」
 
 
 腕からは冷気が飛び出し、一瞬にして燃え盛る家を凍結冷却し消火した。そして、目
をつぶり、神に祈った。
 ナリヤ達も彼と共に祈りを捧げる。
 
 
 周囲は静まり、鎮魂の黙祷が静寂を作った。

 
 
 その頃、南部の集落に向かったピエール達は…、
 
 
「おぉ、元気にしておったか?」
 
 
 ピエールの問い掛けに、集落の長は驚いて礼をすると言った。
 
 
「なんとか持ちこたえました。さすがピエールさんの見識は素晴らしいです。この地下
 シェルターが無かったら全滅でした。しかし、あなたが戦うとは…」
 
 
 そう言うと長は地下への階段に視線を移した。ピエールもそこへ視線を落とし、一息
溜め息を吐くと言った。
 
 
「ふぅ、若者にばかり任せるのは忍びない。ワシらの時代が生み出したものだ。ワシら
 の世代が何とかするのが筋であろう。しかし、その口ぶり、ワシが口だけの人間だと
 思っておるな?」
「まさか。あなたがいなければ我々に今はない。そんなことは誰もが知ってますよ。」
 
 
 そこに後方からブランカの声がした。
 
 
「あ!ピエール!新手が来ました!」
「!?」

 
 
 ブランカがリストガンで攻撃する。しかし、上手く当たらない。
 そこにピエールがすかさず構えると魔法を放った。ピエールのリストガンからは風の
刃が飛び、周囲の砂を巻き込んで囚人達を狙う。
 攻撃は正確に当たり、次々に新手の囚人を打ち倒した。
 
 
「お前は昔から集中力が足りない悪い癖があるのぉ。」
「あ、いや、…ごめんなさい。」
「ふぉっふぉっふぉ、昔から気乗りしないことには集中力が足りない。だが、その逆は
 お前の素晴らしさでもある。しかし、戦に移り気は命取り。気をつけなさい。」
「はい。へへへ。」
 
 
 ブランカが舌を出して頭を掻いて笑った。
 ピエールはにこりと笑うと、再び現れた囚人達に厳しい顔で攻撃を始めた。彼の攻撃
に加えて新たにリストガンを装着した集落の二人も加わって、一気に形勢が逆転し攻勢
に回り出した。
 
 
 
 その頃、中央の激戦区に赴くクロノ達は…
 
 
 
「さすがに相手もわかってるわね。」
「あぁ。」

 
 
 
 シズクが走りながらどかどかと体術で囚人達を蹴散らす。
 クロノも鞘に納めたままの白銀刀で、遮るものを容赦なく打ち払った。
 二人は魔法を使わずにいた。それは、これからの為に魔力を極力温存するためだった。
 
 
 なんとか集落に辿りついた二人だが、集落では囚人達が地下への入り口を囲んでいた。
ルッカハウス側の住人達は必死に入口を守って戦っていた。
 
 
「させるかぁ!!!」
 
 
 クロノの手の平から稲妻が生じる。
 稲妻は入口にたむろする囚人達を一気に打ち倒した。
 
 
「何だ!?どうなってんだ!?」
 
 
 突然の出来事に驚く集落の人々。囚人達が倒れた向こうに現れた人影に武器を
構える。しかし、彼らの見知らぬ男からは、予想外の声をかけられた。
 
 
「助けに来た!大丈夫か!?」
 
 
 住人はクロノの顔に見覚えがなく、しかも魔法を使ったことに戸惑っていた。
魔法は囚人達の使う技術。少なくとも彼らの中にはそう記憶していた。
 
 
「あ、あぁ、大丈夫だ。しかし、今魔法を?」
 
 
 住人の問い掛けに、クロノは後方を見るとシズクを呼んだ。
 
 
「シズク!」
「えぇ。」
 
 
 シズクはクロノの呼び掛けに応えて急いでシェルターの入り口に来ると、リストガン
を見せた。不思議そうに見る住人達に対してシズクが説明する。
 
 
「これはブランカさんが作ったリストガン。これを使えば誰もが魔法を使えます。」
リストガン!?…おぉ、完成したのか!
「はい!」
 
 
 シズクの返事に住人達の顔が綻んだ。
 クロノが彼女に続けて言った。
 
 
「このリストガンは2つしか今は渡せない。だが、俺達は先を急ぐからこれで頑張って
 他の仲間をまとめて、まずルッカハウスに戻って体制を立て直すんだ!良いな?」
「お、おぉ、だが、あんたら二人で大丈夫なのか?」
「心配するな。大丈夫だ!俺達のことより早く行かないと、…新手か!?」
 
 
 クロノは素早く剣を構えると、目にも止まらない早さで一気に暗い森の一点に向かっ
て切り込んで行った。クロノの向かった奥から幾度かの金属音の後に、囚人達の叫びが
聞こえる。
 シズクはその間、クロノがこぼした相手を体術で次々に倒して行った。
 
 住人達はクロノ達のあまりの手際の良さに驚いていた。特にリストガンも使わずにこ
れだけ戦えるということは脅威であると同時に、味方としてとても頼もしく感じた。
 暫くの戦闘の末、新手の襲撃が収まりクロノが住人達のもとに戻ってきた。その体に
は傷一つ無く、息を切らしている様にも見えない。とてもあれほどの運動をした後とは
思えないクールさが彼の強さを際立たせるように感じられた。
 
 
「…凄い。強いですな。見たことがないですが、あなた方は?」
「クロノだ。彼女はシズク。」
「どうも。」
 
 
 二人の自己紹介に、住人は大層驚くとともに安堵している様な表情になった。
 どうやら彼らにも名前は勿論、存在が伝わっている様だった。
 
 
「おぉ、あなたが!…そうでしたか。囚人達の攻撃へ向かわれるそうで。何卒ご無事で。」
「あぁ!さ、早く!」
 
 
 住人達は地下の仲間に支度をさせると、シェルターを出た。
 その後はリストガンを持つ二人が先頭と後方に付いて、住人達を守りながら焼け落ち
た集落を後にし、ルッカハウスへと後退して行った。
 二人はそれを確認すると、みんなとの合流地点である崩れた谷を目指した。

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