クロノプロジェクト正式連載版
第63話「黒装束の剣士」
「付いて来い!」
3人はミント達の後を付いて行く。
暗い森の中、何の明かりも無く彼らは前を走っていく。慣れているのだろう。確
かな足取りで素早く無駄なく仲間達がミントのもとに集まり、後方のヤクラの追っ
てを見事に巻いている。
だが、前方に気配がした。
その気配は複数有り、それは前方だけでなく至るところから感じる。
ミントは部隊を分散させると立ち止まり、トラップフィールドを展開。周囲一帯
に張り巡らせると小太刀を構えて様子を窺った。
クロノ達もそれぞれに武器を持ち構える。
すると、全方位から突然気配が濃くなり、風が巻き起こる。風は牙を持ち、冷た
い息吹とともに噛み切るように襲いかかる。
その時トラップフィールドが起動し風を阻む。
大きな閃光と火花を灯し、フィールドを境に魔力が衝突する。だが、その力は圧
倒的でフィールドは崩壊し、猛烈な勢いで黒き風が飲み込もうとした。しかし、シ
ズクが自前のトラップフィールドを展開し再度その攻撃を受け止める。そして、ク
ロノがカマイタチを飛ばし、風を打ち払い言った。
「姿を見せろ!」
気配達は姿を現すでも無く静かにたたずんでいるように思える。だが、相変わら
ず厳しい殺意と冷たさが、ひしひしと肌で感じられるようだ。しかし、その時一際
強い冷気を感じた。いや、それは恐怖から来る悪寒の様にも思えた。
それは上方からだった。姿こそ見えないがとてつもなく巨大な力が近づいてくる
のがわかる。それは魔力を感じられぬ者にも強く分かるほどに驚くべき威圧だった。
周囲の空気が張りつめ、動くのさえ痛みを伴うように感じられるほどに空気が痛か
った。
雲間から月光が差し、月明かりのもとその姿がおぼろげに見えた。
それは長い髪をした男のようだった。表情どころか顔さえはっきりとわからない
が、その男は空に浮いており、静かに寝そべるようにクロノ達を見据えている 様だ。
その時、彼の持つ杖が一瞬光った。
そう思った瞬間、ミントの頬を緑の光線がかすめて消えていた。血が滴る。
本人も分からぬ一瞬だが、それは確実に彼に傷を作り、警告した。
「…雑魚に用はない。何処でも勝手に行くがいい。」
「何だと!?」
ミントに向かって男が言った。その声からは感情を感じられないとても冷徹で事
務的な判断をしている様に感じられる。
ミントは怒り小太刀を構え軽々と跳躍し迫るが、男は身を軽やかに浮かせてかわ
してしまった。しかし、その時に一瞬彼の表情が見えた。
その顔は微笑んでいたように見える。だが、その瞬間に彼の心を打ち抜くように
何かがミントの体を貫いた。それは重く、とても心の底から恐怖を感じるに十分な
ものだった。
「く!てめぇが!………分が悪すぎる。」
ミントはそういうと、部下に合図を送るとクロノ達を置いて森の中に散って行っ
た。
シズクが驚いて逃げるミントに叫ぶ。
「な!?自分だけ逃げるの!!!」
「悪く思うなよ!!!」
彼女の言葉にミントは捨て台詞を残して去っていった。
GEが去ると黒い影がより多く周囲を囲み、襲ってくるわけでも無いが、その場
を逃がしてくれそうな感じもしなかった。
男が音もなく地上に下り立つ。
赤く輝くステッキを持った彼は周囲に目配せすると、ステッキに魔力を込めた。
「…さぁ、君たちの相手は僕が用意した。」
そういうと、ステッキが赤い輝きを明滅させる。
そこにクロノが問う。
「お前は何者だ。」
「フフフ、君は名乗るに値するか?焦る事は無い。」
「…。」
男がステッキを振り上げる。
すると地面に魔法陣が現れて青い光が上空へ向かって走り、そこに人が出現する。
「!?」
現れた人間は黒い仮面に黒いプロテクターを装着し、剣を持った男だった。背は
クロノより少し大きいだろうか?体格は細身ながらしっかりとした筋肉を持ち、そ
の体がただものではない実力を感じさせる。
男は無言で剣を構えると、突然クロノに切り掛かった。
金属の衝突する音が辺りに木霊する。
キン!!!
「クロノ!?」
マールがクロノをサポートしアイスで攻撃する。
黒仮面はマールのアイスに対して魔法で対抗し、アイスを咄嗟に作り出した土の
壁で遮りダメージを軽減。粉々に粉砕された土の壁はそのままマールの方へ向かっ
て反撃に使われた。
クロノが即座にマールをかばって地面に伏せる。彼はもろにダメージを食らい、
よろつきつつ立ち上がった。
黒仮面はそんなクロノに容赦なく攻撃を展開。
次々に繰り出す剣は、鋭く相当の腕である事は勿論、クロノ自身が内心で勝てる
のかと過るほどの焦りを感じる。
シズクが横から銃撃する。しかし、黒仮面は魔法で全て防いでしまい、効果がな
く弾丸が地に落ちた。3対1で人数的には圧倒的にクロノ達に有利な戦闘のはずが、
黒仮面に傷一つつける事が出来ない。
そして、ついにクロノは剣を弾かれる。
「(これまでか!?)」
だが、思わぬ光景が展開された。
突如、男が黒仮面の剣をステッキで受け止めていた。
「…それ以上はお預けだ。」
「…やらせろ。」
「駄目だ。あくまでテストに過ぎない。まして、僕の獲物を失うわけにはいかない。」
「…。」
黒仮面は男の言葉に従い、剣を鞘に納めた。
「さて、一つ質問させて貰おう。」
男はクロノの喉元にステッキを突き付けて話しかける。
「ならば俺も質問がある。お前は一体何者だ?」
男は驚いた。そして、自分に臆せず逆に質問をしてきたクロノを見て、彼はとて
も満足げな笑みを見せて応える。
「ふ、失礼。君には名乗るに値する様だ。僕はディア。パレポリでは陸軍を指揮さ
せて貰っている。…さぁ、私の質問に応えて貰おう。」
ディアはそう言うとクロノの目を見据えて話す。
「…。」
「…君の名は、クロノで良いんだね?」
クロノも目を放さず、敵意の目でディアを見据えて答えた。
「…あぁ。」
「…良かった。よし、任務終了。またな。」
ディアがそう言うと、まわりを囲っていた気配達が消えた。そして、ディアも後
ろに振り返ると、スーッと消えてしまった。突然の消滅に呆気にられたが、痛いほ
どに張りつめていた空気が一気に和らいで3人はホッとした。
だが、後方からごとごとと音がする。どうやら後方からヤクラの軍勢が大勢やっ
てきている様だ。
「また〜!?」
マールがぼやく。
そんな彼女にシズクが苦笑して促す。
「さぁ、逃げるわよ!」
「逃げるって何処へ?」
マールの問いはもっともだった。しかし逃げなくては元も子もない。
そこにクロノが言った。
「…ルッカの家に向かおう。」
「あ!?良いわね、あっちの方向は丁度そうだし!」
「場所は任せるわ!とにかく急ぎましょう!」
三人は海の方向に向かって、走って走って走り続けた。
「私もうだめぇ〜!」
「がんばれマール!後もう少しだ!」
二人をかばいつつクロノは必死に道を切り開く。阻む物があれば剣で切り倒し、
時々後方のヤクラに攻撃を仕掛けつつ駆ける。
「待てーーーー!!!ワシの出世ーーーーー!!!!」
ヤクラは出世話しが不意に終わって怒り心頭していた。燃え盛る復讐心はクロ
ノ達をなんとしても捕まえようとする意志で満ちていた。しかし、クロノ達が海
岸沿いに到達し、橋に入った所を見ると何故かとまってしまった。
「…ッチ、引け!戻るぞ。」
パレポリ軍はヤクラの号令のもとに撤退して行く。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…帰って行くよ?」
「ハァ、ハァ、そうね。」
「…。」
三人は緊張の糸が途切れ、走り疲れたのと気疲れしたのが重なり、急に体が重
く感じた。そして、まるで地面に吸い寄せられるかの様に、バタリとその場に倒
れこんでしまった。
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