クロノプロジェクト正式連載版
第56話「旧市街 2」
「おら、出ろ!」
「うぅ…」
「もたもたするな!!
タダで食えるわけじゃないんだ!」
「…はい。」
3人が旧市街のストリートへ来てみると、そこには連邦兵士が多数の市民を一列に
並ばせていた。
だが、一人の男が歩く事もままならぬほど衰弱している様に見えるが、二人の兵士
が無理やり立ち上がらせて駆り出している。
「おとーちゃん!」
家から無理矢理連れて行かれる男の後ろから、小さな女の子が男を父と呼んで駆け
出してくる。
「…仕事の邪魔だから来るんじゃ無い。」
「ねぇ、おとーちゃんは病気なんだよ?
まだ治ってないの。おじさん、お願い!おとーちゃんをつれてかないで!」
女の子が兵士の足下に寄り、ズボンを掴み必死にすがる。
「父さんも邪魔だと言っているだろう!
親の言う事を聞け!」
「おねがい!今日だけは!」
「…家にいなさい。いつもは良い子にしているだろう?」
「お父ちゃん、そんな身体じゃ死んじゃうよ!
お母ちゃんと一緒になっちゃうよ!
…独りぼっちは嫌だよ!!!」
少女が必死に訴える。兵士達は困惑の表情だが、それも慣れているというように溜
め息と舌打ちで子供をつかみ上げた。
「…チッ、まいったなぁ。」
「おいおい、ストレイン、奴らはお涙頂戴が定番なんだから、無視してないと俺らま
で同じになるぞ。」
「へいへい。わかったシリコ。悪いなガキ。」
ストレインが子どもを家にぶち込もうと構える。少女は恐ろしさのあまり目をつぶ
りじっとその瞬間を待った。しかし、それはいつまで経っても起きなかった。
「いぢぢぢぢぢぢっ!な、なんだぁ!?てめぇ!!」
「何のつもりだ!」
クロノがストレインの背後に回り、腕をひねって動きを奪っていた。隣にいたシリ
コが掴まれているストレインを救おうと咄嗟に蹴りを繰り出すが、クロノはそれを軽
く足で受け、そのままシリコを思いっきり空高く蹴り上げた。
掴まれている兵士は股が避けそうになるほど足を広げられて、悲鳴を上げて少女を
離し股関節を抑えて蹲った。クロノは兵士が手放した少女を片手で受け止めると静か
に降ろし、その後すぐ空高く跳躍すると、股関節を押さえて踞る兵士の上に落ちる様
に、自由落下するシリコを平手で打ち落とした。
「ウギャァアアアアア!」
二人の兵士はそのまま気絶した。周囲が動揺し始める。他の兵士達がすぐに騒ぎを
聞き付けてやってくる。
「シリコ!ストレイン!大丈夫か!?」
その頃、建物の影で見ていたマール達は、始終を見て溜め息をついていた。
「あちゃー、………やっちゃった。」
マールが苦笑して言った。シズクも苦笑しつつ尋ねる。
「ちょっと見ない隙よ?いつもこうなのぉ?」
「う、う〜ん、ごめんね〜。面倒掛けちゃって。」
「…はぁ、行きましょう。1人じゃ危ないわ。」
二人がクロノのもとに集まる。
兵士達もそれを囲むように集まった。
「…俺1人でなんとかなるのに。」
二人の登場にクロノがつぶやくように言った。
そんなクロノの態度にキレ気味にシズクが言った。
「そういう問題じゃ無いわ!
あれほど念押ししたのに面倒を起こしてどうするのよ?
ただでさえ面倒な状況なのにぃ…。」
そこに意外にも、冷静にマールが状況を見回して言った。
「1、2、3人ね。思ったより少ないわ。」
3人が内々に話していると、加勢に来た兵士の一人が3人に警告する。
「何をブツブツ話している!お前達、わかっているな!」
「何をだ!!!」
兵士の警告の声にクロノが苛立って即座に怒鳴った。
怖じ気づかずに反発してくる男の態度が気に入らない兵士達だが、すぐに自分達が
有利になる事を確信して余裕の構えでいる。
金髪でヘーゼルの目をした、18歳くらいの新兵の様な若さの男が言った。
「フン、連邦に楯突くことがどういうことかわかっていない奴が、
まだこんなにいたとは驚きだな。ゲルマ。」
ゲルマと呼ばれた男は紫の髪をした男で、歳はクロノ達と同じくらいの世代だろう
か?目の色はダークブラウンで、とても落ち着いているのが伺える。
「そうだな。ハイド。」
「何処へ逃げたって無駄だぜ?お前らは世界に指名手配されるからな。安住の地なん
てないぜ。それよりは俺達にボコられた方がまだ幸せかもしんねーぜ?」
面白がるハイドの態度に苦言を呈する男が一人いた。その男は黒い髪に赤い目をし
たとても冷たい表情の男だった。
「…チ、お前って昔から性悪だな。ハイド。」
「へへ。お前程じゃないさ。クローム。さて、どうするかい?にーさん達よぉ?」
クロノはそんな彼らの態度を見て激しく怒りが込み上げた。魔力が急激に上昇する。
ふわりと小さな風が起こり、それを見た人々は驚いていた。しかし、兵士達は余裕の
構えを崩していない。
静かに怒りを込めて言った。
「…世界はお前らが考えている程、連邦の自由じゃないさ。」
クロノの言葉に、まだを口を開いていない緑のセミロングのヘアに黒い肌をした男
が不敵に言った。
「そうかい。なら、こっちは自由にさせてもらうさ。」
黒い肌の男の不敵で素っ気無い言葉に、ハイドが笑顔で彼の肩をぱしぱし叩いて言っ
た。
「お、珍しく意見が一致するねぇ、リツィム。」
「ふん、…仕事だよ。」
リツィムが不機嫌そうに言ったその言葉を最後に、双方が構えた。
連邦兵は次々に警防を抜いて突撃してきた。
クロノはハイドとクロームを、シズクがリツィムを、マールがゲルマの攻撃をそれ
ぞれ受け止める。
クロノはハイドの攻撃を手刀で受け止めクロームの攻撃を足で受け止めた。
シズクはリツィムの剣による攻撃を白羽取りする要領で受け流し、素早く拳を腹に
打ち込んだ。
マールは驚いて咄嗟に攻撃を避けると兵士の股間に蹴りを入れた。ゲルマは悶絶し
て蹲る。彼の悶絶にクローム、ハイド、リツィムが一斉に後退する。
「痛そうだなぁ。嬢ちゃん、可愛い顔して悪魔だな。」
ハイドのコメントに心の中で同意するクロノ。
クロノの心中は知らず…
「フン!あなた達に言われたくないわ!あんな小さな子
を悲しませて良心が痛まないの!」
「へへ、これが戦争の結果ってもんなんでね。」
ハイドはそう言うと姿勢を正し、腰辺りに片手を添えると手を突き出して呟いた。
「ウォーター!」
ハイドのエレメントが発動!手の平から水が巻き起こりマールに向かって放たれた。
マールは相手が突然魔法を使って来たので驚いて呆然と立ち尽くした。
「危ない!」
シズクがエレメントを発動しようと構えていると、クロノが間に入って、なんと、
まともにウォーターの直撃を受け止めた。
「え?」
「クロノ!?」
クロノはウォーターの水圧に少し押されたが、なんとか彼女には当てずに守った。
そして、自分の体にかかった水を手で振り払うと低い声で言った。
「…これがエレメントという奴か。
…よく、わかったぜ。」
クロノはそう言うとハイドを鋭く睨んだ。
「な!?」
「…有り得ん。」
ハイドとリツィムが驚く。
初めて見る魔法を受け止める人間に彼等は彼等で驚いている様子。しかし、クロー
ムだけは冷静に状況を判断している様だった。シズクが隙を見て兵士達に魔法を発動
する。
「そこ!隙だらけよ!!!」
シズクの指先から雷が発生し3人を襲う。直撃を受けたハイドとリツィムはその場
に倒れたが、クロームは当る前に土のエレメントでトラップを仕掛け、それを防いだ。
「できる!?」
「ふん、勝ちはくれてやるよ。ヴェイパー!」
クロームがエレメントを発動した。するとクロームの手の平から莫大な量の蒸気が
吹き出した。
熱気がクロノ達を襲うが、マールが咄嗟にアイスで周囲を保護したことで蒸気の直
撃は防いだ。
「来る!………あれ?」
何時まで経っても何も来そうに無かった。
蒸気もそう時間もかからずに消えてしまい、そこには倒れていたはずの兵士の姿も
無かった。
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