クロノプロジェクト正式連載版
第53話「エレメント」
…ここはどこ?
寒い。
冷たい。
そこは、とても寒かった。
深い闇の中、空には大きな二つの月が見える。
銀の月と赤い月。
兄弟の月は仲良くいつもそばにいる。
でも、時々赤い月は銀の月を食べてしまう。
…まるで黒く蝕まれていくように。
ねぇ、クロノ!誰か!
私は虚空に呼んだ。
誰もいない場所だとわかってるのに。
でも、そうしないではいられなかった。
…きっといる。そんな淡い期待が確信に変わる。
ふっと、暖かい温もりが背中から感じられる。それは背後から伸び、私の頬に触れ
る。…暖かい。とても、…暖かい。
クロノ。
私は温もりを感じて、しばし浸るように感情をそこに集中させた。
ありがっ………。
私は言葉に詰まった。そこには、私達をこの時代に落とし込んだ男の顔があった。
その手の温もりは彼の温もり?…はっとして私は彼を突き放した。
彼はそれに反応するでも無く、私を見据えていた。
でも、そこに憎しみは不思議と感じなかった。私も彼もとても冷静で…穏やかで、
不思議な感覚がした。
彼は手を差し伸べる。白く奇麗な手。まるでそこだけ時が止っているかのように、
彼の年齢とは反比例した生き生きと強い生命を感じる。
なぜ、あなたはガルディアを、…世界を変えたの?
私の問いに彼は何も答えず、ただ静かに私から顔をそらし空を見上げた。彼の見る
先には兄弟の月が見える。その目からは深い哀しみと憂いを感じられる。
どうして、どうしてそんな哀しい目をするの?
彼は私の問いに遂に答えようとせず、透き通るように空間に溶け込み消えてしまっ
た。私はとても寒い空間に再び一人になってしまった。
マール。
遠くから声がする。遠く、空の彼方から私の最もよく知っている声。
マール、マール。
私の目前に光が走る。
暖かい。
空から白い鳥が翼を広げ…
「う、う〜ん。」
「よ、おはよう!」
「ん?あら?…おはよー。」
クロノは長椅子に身体を寝かせながらマールに話しかけている。マールは目をこす
りながら呆然としていた。
「ぐっすり眠れたか?」
「…うん。えと、…私何時間くらい眠ってたの?」
「3時間だな。もう夜の六時さ。良い飯時ってとこか?」
ふっと寝入ってから3時間が過ぎることの早さを思うと、自分でもよほど疲れてい
たんだなと実感する。しかし、先ほどの夢は何だったのだろう。そんな疑問を思いつ
つも、夢である事に変わりないので気にしない事にした。
「そうねぇ、言われてみればお腹空いちゃった。フフ、そういえば、いつから部屋に
戻ってたの?」
「アレ?俺が出てたの知ってたのか。」
「ううん。途中で少し目が覚めてね。その時いなかったから。どこへ行ってたの?」
「下のバーさ。」
「へぇ、珍しいね。バーに行くなんて。お酒は強いの知っているけど、滅多に飲みに
行かないじゃない?」
「ま、情報収集ってとこか?」
その時突然ドアが開きシズクが帰ってきた。シズクの手には幾つもの買い物袋が下
がっていた。
「ただいまー!あら、マール顔色良くなったね!良かった!」
「おかえり!随分楽になったわ。」
クロノがシズクに歩み寄り荷物を受けとる。重い荷から開放されたシズクは手をば
たつかせて自由を確かめた。
「お帰り、何買ったんだ?」
クロノの問い掛けにシズクはにんまりとして言った。
「あ、コレ?へへーん、二人分あるわよ!こっちがクロノで、こっちがマールね。
開けてみて!」
シズクは二人にそれぞれの品物の袋を示し渡す。
二人は袋から中身を取り出した。中には一式の服と装飾品が入っていた。マールが
目を輝かせて手に取り広げる。
「まぁ、かわいい!それに暖かそうね〜!」
「すげー、なんだコレ?セットになってるじゃないか?」
「二人の服は目立ち過ぎるからね。その…ベージュじゃ見窄らしいと言うか…。」
シズクに言われて2人ともお互いの服を見て苦笑する。
「この時代を歩くには、この時代に合わせた服装が必要だわ。」
「なるほどー、そうね。確かに大切なことよね。」
「おい、服は良いんだが、この服わけわからないもんが付いてるが、コレなんだ?特
にこのビー玉みたいの。」
「あ、これは説明しなきゃね。二人はまだ知らないと思うけど、もうこの時代の人々
は魔法を使えるのよ。」
「えぇえええええ!!?!」
二人は目を丸にして驚いた。
シズクは期待通りの反応にうれしかったが、オーバーなので失笑し話した。
「…期待通りに驚いてくれて嬉しいけど、ちょっと煩いわね。えーと、正確には2人
みたいには魔法は使えないけど、魔法の力を使う事はできるのよ。」
二人はシズクの言葉に混乱した。
「どういうことだ?魔力が無いのに魔法が使えるってことか?」
「そうね。簡単にはそういうこと。そこにあるビー玉みたいなものはエレメントって
呼ばれていて、様々な力がその玉の中に凝縮されていて、その服についているグリ
ッドに入れることで発動させる事ができるの。」
クロノは服に付いているプレートとカラフルなビー玉を見て、それを手に取りはめ
こんだ。
「これで良いのか?」
「えぇ、でも、ただ入れただけではダメなの。このグリッドにはパワーレベルがあっ
て、発動するのに必要なエネルギーをどの程度自然界から得る必要があるかでセッ
トする位置は違うのよ。」
「自然界から得る?」
「どうやって?」
当然の疑問にシズクは丁寧に説明を始めた。
「それは私達が激しく動くことで発生するの。例えば、私達が今こうして話している
だけでエネルギーは生じるのよ。自然界は沢山のエネルギーが反応しあって調和を
保っているの。
でも、大きな運動をする力…えーと、動物が走っている場合もそうね…があると、
その周囲の調和は乱れて反発しエネルギーが若干生じるの。その力は普通は集める
ことはおろか、目で見ることも感じる事もできないのだけど、このグリッドはそう
いった力を溜め込む事ができるの。」
シズクの説明にもまだ完璧に理解したわけではないが、とても自分たちの想像を超
えた世界にきていることは実感できた。
「はぁー、すげー。たった20年後にそんな凄いことになるのか?
人生何があるかわかんねーな−。」
「前にも言ったけど、ここはなるとは限らない未来よ。」
「あぁ。で、コイツは着れば良いんだよな?」
「えぇ、そうよ。」
クロノが服に袖を通した。すると腕に付いている金属のプレートが輝いて穴ができ
た。指で穴をなぞる。
「グリッドの数は着た人の能力によって変化するわ。傾向は様々だけど、魔力量が多
い人は低レベルエレメントバンクが少ない分、高レベルバンクが多くストックでき
るわ。」
マールがエレメントの玉を持って、電気の明かりに照らして見ながら言った。
「ねー、エレメントって何度も使える物なの?魔力無しなのに何度も使えるなんて凄
く便利じゃない?」
彼女の持った玉は深い青く透き通った輝きを持ったものだ。それは傍から見ている
と宝石の様にも見える。特に彼女が持つと尚更そう思えてしまう。
シズクは眺めている彼女の持つ玉を見ながら言った。
「ううん、そこは残念ながら一度使ったものは一度きりよ。」
「え、じゃぁ、使い捨て?」
マールの反応にシズクが再度しっかりと説明をしてくれた。
「あ、それは違うわ。でも、使い捨てのもあるわね。普通のエレメントは1フィール
ド1ウエイクという条件になっているわ。これはエレメントが自然界の力を吸収し
て発動することが一因ね。」
シズクの説明では、自然から得られるエネルギーは少量だから限りが有り、何度も
使おうとすれば、自然界から吸いだせるエネルギ−量は不足する。よって、普通は発
動できないということだった。
「う〜ん、じゃ、不足を補えば使えるって事?」
「そうね。幸い私達には魔力があるから、魔力を投じればエレメントを再発動させる
ことは不可能じゃ無いわね。でも、エネルギーの質が違うから制御は無理なの。だ
から、もし使えても一度きりで壊れちゃう可能性が大きいかな。この手を使うのは
余程切羽詰まらないと損よね。」
「ふ〜ん。」
マールは不思議そうにエレメントなおも眺めている。
その時、クロノがシズクに質問した。
「エレメントに魔力を投じたら壊れるって、どのくらい魔力を注ぐんだ?」
「…正直わからないわ。私もしたことないもの。多いかもしれないし、少ないかも知
れない。グリッドを通してどの程度自然界からも暢達できているかで違うと思うわ。」
「そうか、で、このビー玉は4つあるが、どんな力があるんだ?」
「エレメントよ!えーと、エレメントに限らず魔力には5つの属性…つまり…
シズクの説明はこう続いた。
エレメントは力の性質の違いが有り、例えば水と火では全く違う様に、反発し合う
が力が相互に反応してエネルギーは成り立っている。エレメントもこの規則の上にあ
るもので、力にはそれぞれの属性の傾向で違いが出るということだった。
「今ある四つはそれぞれの属性の基本エレメントよ。
火のファイヤ、水のケアル、地のアップリフト、天のシューティングね。」
「属性は5つあるんだろう?五番目のはねーのか?」
「五番目は全ての属性の調和によって生み出された均衡状態を言うの。これを冥属性
と呼んでいて、どの属性よりも強力なエネルギーである反面、属性が生み出す相乗
効果…つまり、水属性の敵は火や天の属性に弱いといったことが望めないのよ。
だから、最も強力であると同時に最も弱いこともあり得る属性ね。これは反属性
の魔法を一定の出力で衝突させることで作り出す事が可能よ。でもエレメントとし
ては自然界にも存在し得ない力ね。普通じゃないから。」
クロノはふむふむと頷くと、エレメントの玉を取り、再度尋ねた。
「で、こいつの使い方は?どうやって魔力がたまったかわかるんだ?」
「それは簡単よ。自然界の魔力を吸収すると、グリッドにはめられたエレメントがレ
ベルに応じて光るのよ。基本的に光っているエレメントは使えるわ。使い方は腕を
対象に向けて、手の平を開いてエレメントの名前を言うだけ。」
「ん?こうか?」
クロノは椅子から立ち上がってシズクの言った通りの姿勢をする。
彼女はそれを見て頷いて言った。
「そうそう、そんな感じ。それで名前を言えばOKよ。んじゃ、みんなお腹空いてな
い?ご飯食べようよ。」
「あぁ、俺丁度腹減ってた!」
「あら、クロノはいつもじゃないのぉ〜?」
クロノの言葉にマールが茶化す。そんな二人を見てシズクは微笑んでいった。
「オーケー!行きましょう!」
「え?スィートなんだから、運んで来てくれるんじゃないの?」
「あ、そうだよなぁ。」
二人の当然の疑問に、シズクは苦笑しつつ言った。
「えーと…ね。少しあの後値切ってレストランに出向く形にしたの。」
「そっか。なら行こうぜ!」
「お腹空いた〜。」
二人は意外な程に反応がなかったので、シズクはほっとした。
「じゅ、あたし外で待っているから、早くその服に着替えて来てね。」
そう言うとシズクは部屋の外へ出ていった。
2人は久々に現代的な服を着れるとあって、お互いに顔を見合わせて微笑んだ。
着替え終えると、シズクの待つ廊下に出た。
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お読み頂きありがとうございます。
拙い文章ですが、いかがでしたでしょうか?
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