クロノプロジェクト正式連載版

第46話「勇者帰還 下」
 
 
 人は橋を抜け、遂に城に到着した。
 グレンはガルディアの森にパトラッシュを待たせると、カルの馬の後を歩いてつ
いてきた。
 
 
「第3師団隊長カル・ボナラー、
 陛下へ火急の用につき帰還!開門を求む!」
「お役目ご苦労様です!開門!!!」

 
 
 カルが先行し門番に開門を命じると、門番は速やかに開門した。
 カルは馬を降りると出迎えの衛兵に馬を任せ、2人で入った。
 城内はしんと静かで、冷たい風が吹いていた。遠くでガルディア伝承の民俗楽器
の演奏が聞こえる。
 
 
「懐かしい。何も変わらないな。」
「あぁ、ガルディアはガルディアさ。」
 
 
 グレンはカルに先導される形で城内を進んだ。行き交う兵士達はカルの姿に敬礼
し道をあける。カルはそれに軽く頷いて進む。
 2人の目前に大広間のドアが現れた。カルが門番に開門の合図を送ると、ドアが
ゆっくりと開かれた。
 
 
 ギィイイイイイ………
 
 
 ドアの向こうには国王夫妻が玉座に座りこちらを見ていた。
 カルが会釈をし入場する。
 
 
 一歩一歩、10年振りで通るこの赤い絨毯の上の向こうに、グレンの旅の目的の
人物達は座っている。何より、自分が人の姿でこの道を踏むのは感慨深いものだっ
た。
 2人は国王夫妻より3mほど手前で止まると膝をつき、深く拝礼をした。
 
 
「第三師団隊長、カル・ボナラー、陛下に重要な人物をお連れする為に帰還致しま
 した。」
 
 
 国王はカルの言葉を聞くと頷き言った。
 
 
「うむ、ご苦労。して、その人物とはその背後の者か?」
「はい。」
 
 
 国王は背後の男を見た。その男は背後で頭を下げて膝を付いている。
 
 
「…陛下、お久しぶりでございます。」
「!?………その姿、ようやく人間に戻れたのだな。」
「は。」

 
 
 男はそう言うと顔を上げ、国王の顔を見た。国王はまさしく幼き日の面影を残す
彼の姿に目を細めた。その隣に座るリーネも注目している。
 
 
「妃殿下もお元気そうで。」
 
 
 グレンの言葉にリーネは静かに言った。
 
 
「…グレン、本当にグレンなのですね。…嬉しいわ。また、あなたの顔を見ること
 ができる日が来たことを幸せに思います。」
「この姿、私自身夢にも戻れるとは思っておりませんでした。」
 
 
 グレンの言葉にリーネは王の方を振り向くと顔を伏せた。
 王はそれを見て静かに言った。
 
 
「グレン、そなたの帰還を心から歓迎する。今宵は我が城でゆっくり寛ぐが良い。
 して、そなたのことだ。用件があるのであろう。」
「有り難く陛下のご厚意をお受け致したく思いますが、私は急いでおります故、ご
 無礼をお許し下さい。陛下の推察取り、私はこの度故有って参りました。」
 
 
 そう言うとグレンは勇者バッジに手を掛けはずした。
 
 
「…陛下、この勲章は成り行きで引き継ぎましたが、一度陛下に返すべきものだと
 思っておりました。」
「ふむ。そうか。確かにそれはサイラスに授けたものだ。だが、それは今はそなた
 が持つに相応しい。そなたは亡きサイラスの志半ばの夢を実現したのだからな。」
「…陛下、私が本当にこれを所有するに値するとお考えでしたら、では、私の頼み
 を聴いて頂けますか?」
「頼み?他でもないそなたの頼みならば、わしにできる限りのことならば何でも聴
 こう。」
 
 
 グレンは王の言葉に謝意の例をすると言った。
 
 
「では、この聖剣グランドリオンを返上させて下さい。」
「?何故だ?…うむ、わしの部屋でゆっくり話そう。」
「わかりました。」

 
 
 グレンと国王夫妻は国王の自室に場所を移した。部屋では応接椅子に座り、3人
だけで話す事になった。
 国王の部屋の応接椅子で、国王夫妻とグレンは対面に座り話した。
 
 
「ここでなら気兼ねなく話せよう。そなたの思う所を私達に教えてくれぬか?」
「あなたはここを発つ時も人との関わりで悩んでおいででした。あなたが勲章も剣
 も返上したいと考えたのは、そのためなのではないですか?」
 
  
 グレンは夫妻の言葉に頷くと、ゆっくりと話し始めた。
 
 
「…その通りです。私は長く蛙でおりました。その間、私はとても多くのことを知
 る事となりました。そして、今人間の姿となりました。…私はもうこれ以上、
 人間を知りたくはないのです。」
 
 
 2人はグレンの言葉に衝撃を受けた。王は思い詰めた表情ではなく落ち着いた顔
でいったグレンに、深い彼の悩みを感じつつ言った。
 
 
「!?…うむ、どうしてそこまで追い詰める。いや、何がそれを求めるのだ?
 わしにはどうしても、そなたが単に自分の都合の為に返上を求めるとは思えん。」
「…私にも守るべき者ができました。もう、昔のように自分の身を危険にさらす事
 はできません。私が欲しいのは力でも権威でもお金でもない…静寂なのです。
  私がこの剣を振るい世に出る必要は無くなりました。しかし、私がこの剣を持
 つ限り、私に挑戦を求めるものは消えないでしょう。
  勿論、剣を求める者だけが挑戦するものではないですが、少なくとも私の世代
 以降に降り掛かる事はない。…こう考えることは贅沢でしょうか?」
 
 
 国王もリーネもカエルの話の内容を慎重に考えていた。やがて国王が口を開く。
 
 
「そなたはわしの一万Gも結局使わず終いだった。それだけではない、将軍の地位
 も拒絶し、今度は剣をも拒絶するのか。」
「そ、…それは…」
  
 
 国王はとても静かに、そして低い声で言った。グレンは国王の言葉に恐縮し、何
を言って良いか分からないでいた。
 そんな彼を見て深く頭を下げると王が言った。
 
 
「すまなかった。私はそなたを厚遇することが最良の褒美と思っていた。しかし、
 そなたにはそれが大きな重荷となっておったのだな。まして、守るべき者ができ
 たとあらば、尚の事そうそなたなら考えるだろう。わかった。
  では剣は私が預かろう。しかし、それだけではそなたの求める静寂は得られぬ
 だろうな。」
 
「陛下?」
 
「フフフ、地位とはそなたが考える程に悪いものではない。どんな力でもそうだが、
 力は頭の使い様だ。大事な事は正しく扱われれば良いのだ。」
 
「?」
 
 
 国王はそう言いながら自分の頭を人差し指でとんとん叩くと続けた。
 
 
 
「そなたのことは密かに調べさせて貰っている。」
「え?」

 
 
 国王は悪戯っぽくニヤリと笑うと、笑顔で言った。
 
 
「…わしを誰だと思っておる?世界の王ガルディアであるぞ?…ハハハ、案ずるな。
 そなたを悪いようにはせん。そなたらはあのゼナンの砂漠を緑に変えたそうでは
 ないか。ならばそなたに彼の地の領主としての権利を認めようではないか。さす
 れば迂闊にそなたの領地に入り、そなたの生活の平安を見出す者がでようと、合
 法的にそなたのしたいように対処できる。どうだ?」
 
 
 グレンは王の言葉に暫く考えてから答えた。
 
 
「…陛下。それならば、その地位をフィオナに与えて欲しい。私はその任命書を伝え
 る大使としての任を与えるという形では如何でしょうか?」
「ほう、それはよく考えたな。なるほど、それならばそなたの地位は目立たぬ上、
 森での生活を守るには十分な権威が保てるだろう。わかった。そうしよう。では、
 そなたの望む剣の返納の式を執り行うこととしよう。」
「私のために式など不要です。私は陛下にお返しできればそれで良いのですから。」
「そなたも堅物だのう。わからぬか?そなたが望もうが望まないかに関わらず、他
 の者は事実を重視するのだ。そなたが剣を確かに返納したことを、誰もが知らず
 してそなたの望む結果はもたらされん。現実を伝えるのだ。わかったか?」
 
 
 王の先の読みの深さに感服したグレンは、大人しく国王の厚意を受け取る事にした。
 
 
「そこまで陛下は私の為に…有り難き幸せ。」
 
 
 リーネもグレンに優しく微笑みかけて言った。
 
 
「グレン、私達はいつまでも大切な友人です。友人としてできうる限りのことはさ
 せて下さい。まして、それを恩義に思われる事は無いわ。これは友人として当然
 のことをしているだけなのですから。」
「王妃殿下…」
 
 
 
 この後、グレンの聖剣返納式が執り行われた。
 式典ではグレンが国王にグランドリオンを返上した後、国王がその剣でグレンに
新たなる任務としてガルディア王国大使を任じて、フィオナにガルディアゼナン北
方領主となることを任命する任命状を届け、その領地に駐在し領主の統治を助ける
事が命令された。
 そして最後に…
 
 
 
「尚、この地位は子々孫々の代まで世襲を許す。これは我が国を救った勇者への、
 予からの最大の褒美である。また、ゼナン北方大森林地帯への無断の侵入は禁じ
 る。これを許可するは大使グレン、または領主フィオナの特別の許可無き者以外
 は一切の立ち入りを許さない。
 
          …もし、許可無く侵入せし者の命は、一切の保証はない。」
 
 
 
 …こう付け加えられた事で、この領地に事実上国家としての治外法権を認めた事
となり、この後400年間の平和を維持するのに大きく貢献する事となる。

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