クロノプロジェクト正式連載版

第45話「勇者帰還 上」
 
 
 ンドリノ側の森の入り口にやってきたカエルことグレン。(以下略:グレン)
妻とパトラッシュに見守られ森を出ようとしていた。
 湿った夜風が生温く蒸し暑いが、夜空には満点の星空が瞬きをたたえグレンの出
発を祝う様に輝いていた。
 
 
「あなた、ご無事で。」
 
 
 彼の妻は夫の旅の無事を祈り別れを告げる。彼はそんな彼女に心配させない様に
微笑んで言った。
 
 
「あぁ、遅くとも君の子が産まれる前には帰るさ。」
「フフフ、嘘じゃないですね?」
「オレがいつ嘘をついた?必ず戻るよ。」
 
 
 グレンはそう言うと歩き始める。すると、背後から跡を付ける足音がする。カエ
ルが振り向くと、後ろからパトラッシュが付いてきていた。
 
 
「おい、お前は森にいろ!」
「クーン…」
「お前は俺の代わりにレンヌを守っていてくれ。な?」
「クーン…」
 
 
 グレンはそう言い聞かせて歩き出したが、また背後から足音が。
 
 
「おいおい!どうしたと言うんだ?お前らしく無い。いつもはピッとわかってくれ
 るじゃないか?」
「クーン…」
 
 
 パトラッシュは申し訳無さそうな表情をしつつも、頑に付いて行く姿勢を見せて
いる。そんなパトラッシュに背後からゆっくりレンヌが歩いてきて言った。
 
 
「きっと一緒に行きたいのですよ。私の事は森の人達がいるから大丈夫です。私よ
 りあなたのためにパトラッシュがついていてくれるなら、私も安心してあなたの
 帰りを待てます。だから私からもお願いします。一緒に行かせてあげて。」
 
 
 グレンは妻の言葉に暫く考えた後、一息のため息を吐いたあと微笑し答えた。
 
 
「…ふー、わかったわかった。パトラッシュ、森の外は人間がいっぱいいる。
 だからといつものように襲っちゃ駄目だからな?オレが許さない限り牙を向くな
 よ!だが、お前自身の身を守る目的なら許す。いいな?」
「ワン!」
「よし、じゃぁ、行こう。」
 
 
 グレンが行こうと言うや否や、パトラッシュはとても嬉しそうに一声無くと、グ
レンを頭で軽くひょいと背中に乗せ小走りに走りはじめた。
 背後から妻の見送りの言葉が聞こえる。
 
 
「いってらっしゃい!」
「お、おー!」
 
 
 パトラッシュは初めての外界に喜び、弾みながらいつもの倍速で走り始めた。し
かし、暫く行くと道がわからないためグレンの指示を待つかの様に止まった。
 グレンはそんなパトラッシュに微笑むと道を示す。すると、また喜んで主を乗せ
てパトラッシュは草原を駆け抜けた。
 パトラッシュの足はサンドリノを越え、北ゼナンとガルディア大陸を結ぶ海峡で
あるゼナン海峡にさしかかる。
 
 
「…なんだ?」
 
 
 前方に見えるのは橋は橋だが、出入り口に要塞の様な建物が建設されつつ有るの
がみえる。
 
 
「(…陛下。)」
 
 
 要塞は橋の両端に設けられ、強固な守りを感じるとてもがっしりとした作りで、
そう簡単に壊せそうには見えない立派な物だった。入り口に近づくと衛兵が立って
いる。検問官だろうか。
 グレンはパトラッシュから降りると、堂々とパトラッシュを従えて衛兵の前に立
った。
 
 
「通行許可証はあるか?」
 
 
 衛兵の一人が言った。
 グレンは一言で答えた。
 
 
「ない。」
 
 
 衛兵とグレン達の間に沈黙が降りる。
 衛兵はグレンの返答に答えた。
 
 
「ならば通す事はできない。この橋は然るべき許可を受けし者以外は通す事はまま
 ならん。立ち去られい。」
 
 
 衛兵達はそう言うと槍を構えて通さないという意思表示をしてきた。グレンはそ
れを見ると剣に手をかける。
 
 
「な、何をする気だ!
 騒ぎを起こせば橋を渡るどころではなくなるぞ!!!」

 
 
 グレンはその警告を無視して剣を抜き、目前に掲げ言った。
 
 
…許可は確かにない。だが、権利はある。」
 
 
 抜き出された刀身は水の様に透き通り輝き、見る者を吸い込む様な透明度を誇り
輝いていた。衛兵はその威容に圧倒され何も言えなかった。グレンは続けた。
 
 
「…我が名はグレン。王より勇者バッジを預かる者ぞ。」
 
 
 そう言うとギロリと2人の衛兵を見据えた。衛兵達はグレンの言葉に動揺し、目
前の剣士の持つ剣に視線が集まった。
 
 
「もしや…、その剣は伝説の聖剣、グランドリオン!?」
 
 
 衛兵の言葉に静かにグレンは答えた。
 
 
「如何にも。さぁ、通してもらおう。」
 
 
 衛兵達は剣を見た。そこには間違い無くガルディアの神の鳥、ガルディアンバー
ドの刻印があった。この刻印を押せる剣は世の中に只一つ…グランドリオンに他な
らない。そして、この男の背格好や加齢からも、伝え聞く10年前に姿を消した英
雄グレン・フォレストの姿に合致していた。
 要塞の城壁から一人の男が下の騒ぎを見つけた。彼はこの要塞に駐留する師団長
であるカル・ボナラーといい、後に初代の要塞管理官となる男だ。
 彼は眼下の騒ぎの中心人物の顔を見て驚いた。それは老けてはいるが、彼が若き
日に見た騎士団長サイラスの側にいた民間の戦士であるグレンであったからだ。
 ボナラーは急ぎ下に降り、部下達の前に出た。
 
 
「私はここの師団長を務めるボナラーと申します。
 部下の数々のご無礼をお許し下さい。グレン殿。」
 
 
 そう言うとボナラーは深く謝罪の礼をした。グレンはボナラーの礼儀正しい態度
を見て、剣を収め礼で応じた。
 
 
「…騒ぎ立てるつもりはなかった。非はこちらにある。すまないボナラー殿。」
「いえ、救国の英雄の顔も見分けられぬ部下を持ち、お恥ずかしい限りです。」
「…ガルディアでは世話になった。元気そうで何よりだ。カル。それに、俺の事は
 グレンで良い。…ようやく元に戻れたぜ。」
「…グレン、よく帰って来てくれた。」
 
 
 カルはそう言うと再会の抱擁をした。
 グレンはそれを静かに受け、そしてカルの肩に手を当て言った。
 
 
「…俺の事は王国では良い評判では無いだろう。」
「…フ、そう言うな。君は英雄に変わりないよ。」
「そう言ってくれるのは、今では陛下と君くらいのものだ。しかし、立派になった
 な。陛下も良い男をここに就かせた。君なら安心だ。」
「有り難う。だが、ここは君が設計し提案した砦だ。本来であれば君の指揮下に有
 るべきものじゃないか。君が帰ってきても恥ずかしく無い様に鍛えたつもりだ。」
 
 
 カルの言葉に、グレンは要塞の偉容をしばし見回すと言った。
 
 
「凄いな。陛下は俺の願いを聞き入れてくれていたんだな。」
「当たり前だよ。君は願うに値する仕事をしたんだから。」
「…そうか。」
 
 
 グレンは深く悔いた。自分の思いがこの様なものを作り出すまでに膨れていたこ
とを。もう一つの側面を知ろうとしないばかりに、自分は人間と魔族を完全に隔て
る要塞を築いてしまったのかもしれない。そんな現実が重かった。
 カルの言葉は悪気は無いのだろう。だが、今、知りすぎた自分が辛かった。人と
の壁を作るのは楽だが…壊す事は容易ではない。
 
 
「カル、俺はこれから城に向かう。」
「…言いたい事は分かっているよ。」
「良いのか?ここを離れて。」
「言ったじゃないか。ここはしっかり鍛えたと。」
 
 
 そう言うとカルは笛を吹いた。すると城壁の上に一人の男が現れた。
 
 
「私はこれから城へ向かう。後の事は任せたぞ!」
「は!」

 
 
 要塞の指揮を部下に任せると、カルは橋への道を開ける様指示を出し、部下が連
れてきた馬にまたがった。
 
 
「さぁ、このカルがグレン殿を城までご案内致します。」
「かたじけない。」

 
 
 グレンもパトラッシュに股がると、ゆっくりと要塞の門をくぐり橋へ入って行っ
た。
 橋は従来の木造のものではなく、石造りのとても堅固なものとなっていた。石は
すべてデナドロ石で作られ、鏡の様に磨かれた表面の独特の赤い色が陽光を浴びて
キラキラと輝いている。赤はガルディアで最も良い色とされ、何者にも負けない強
さと幸福の象徴となっている。これはグレンが提案したもので、従来の鉄やミスリ
ルではなく、より強固な素材であるデナドロ石を使う事で橋の強度を確固たるもの
とし、簡単には壊れない橋とする事を考えて作られた。
 
 
 橋の上をゆっくり進む2人は過去の話をしていた。
 
 
「グレン、君が何を見てきたのかは分からない。だが、君が苦しんで来た事はわか
 るつもりだ。君があの森で魔族とともに暮らしているのにも何か理由あるんだろ
 う。」
「…カル、君は所帯を持ったのか?」
 
 
 グレンからの思わぬ質問に驚き、カルは笑いながら言った。
 
 
「あぁ、さすがにこの年だしな。」
「そうか。俺も妻がいる。」

「本当か!それはおめでたい!」
「魔族のな。」
「…!?」
 
 
 2人の間に暫くの沈黙が降りる。橋の上は海風と橋の構造的に起こる上昇気流
で強い向かい風が吹いていた。だが、この程度はそよ風にも思える心地よいもの
だ。
 
 
「人と魔族は相容れない仲だ。だが、愛はその垣根すら越えられる。でも、愛を
 知らぬ者にその越え方をどう伝えたら良い?」
「…難しい問題だな。僕にはその答えを導くのは難しいが…君ならば…いや、何
 でも君に頼るのは良く無いな。これは永遠に等しい宿題かもしれないが、誰も
 が考えなくてはならないことだろう。」
「…冷静な思考が時に心地良いよ。」
 
 
 
 グレンは本心でそう思いつつ、2人は城への道を走って行った。

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