クロノプロジェクト正式連載版

第41話「新しき剣」
 
 
 
イソーさーん!」
 
 
 
 
 剣術指南をしている真っ最中のソイソーがマルコの訪問に目をそらした隙に、相
手の生徒が剣を繰り出す。
 
 
「おぉ、来たか。待っていたぞ!」
 
 
 ソイソーはそう答えると、生徒の動きを見ずにその剣を全て受け止めて、逆に生
徒に反撃の一撃を加えて勝負を決した。その一撃は生徒の頭をコツンと柔らかに叩
いていた。
 
 
「いてぇ〜、先生ずりぃーよぉ!本気出すんだからぁ!」
「フン、お前ごときに本気を出すか。馬鹿者。お前の修行が足りんだけだ。」
「ちぇーーー。」
 
 
 2人がソイソーのもとにやってきた。
 
 
「で、答えはどうだ?」
 
 
 ソイソーがクロノに問う。
 
 
「あぁ、勿論良いぜ。」
「そうか。ならばコレを持て。」
 
 
 ソイソーが自分の持っていた木刀を渡す。そして、生徒が使っていた木刀をソイ
ソーが持った。
 
 
「クロノ、久々に手合わせ願おうか。」
「え?今から?」
「あぁ。」
 
 
 そう言うとソイソーはすぐに構える。クロノもそれを見て真剣になり構えた。
 生徒達が固唾を飲んで見守っている。
 
 
「ふぅー…」
 
 
 ソイソーの呼吸が聞こえる。
 一分の隙も無い完璧な身構えは、明らかに昔見た彼とは違った。
 過去の彼も確かに隙の無い身のこなしをしていたが、今の彼はその頃からレベル
アップしたとか言うレベルではなく、静けさの中にまるで山を見ている様な大きな
存在感を感じる。これを貫録というべきなのかすら躊躇われるほどに、それは圧倒
的な気迫を感じた。
 クロノは内心で焦りを感じる。まだ一合も剣を交えていないというのにこの焦り
は、自分の中で本能的に怖いと感じているのだろう。相手にこれほどのプレッシャー
を与える気迫で迫るソイソーに、焦りとは別に興奮も感じる。本心で試してみたい
と思った。
 

 双方一歩も動かず睨み合いが続く。
 2人の周囲にじわりじわりと魔力の高まりが生じ、周囲に緊迫した空気が張り巡
らされる。
 
 
 先に動いたのはクロノの方だった。
 クロノは剣を素早く一閃する。すると真空波がソイソーの足下目掛けて飛び出し
た。彼はそれを素早く予測して回避し、円を描くように風の様な身のこなしでクロ
ノの回り込みを計る。
 
「(ハハ、まるで子ども扱いだな…良いさ、ガキらしく風の子になってやろうじゃ
  ねーか。)」
 
 クロノはその動きを予測してソイソーの間合いを回避し、彼の死角に迫る。
 
 
 カコン!!!
 
 
 双方の剣が力強く衝突する。木と木がぶつかる甲高い音が木霊する。
 一発、二発、木刀の衝突する鈍い音が辺りに響き渡る。
 
 
「やるな!」
「あんたもな!」
「ならば…」

 
 
 ソイソーはそう言うと剣に魔力を込める。すると木刀が青白く光り輝き風が巻き
起こる。
 
「!?」
 
 木刀から出た風はクロノを強い風圧で瞬時に後退させる。そして、その隙にソイ
ソーが高く跳躍してクロノに襲いかかる。
 クロノはその風に耐える為に身構えてソイソーの姿を見失った。そんな彼の目前
に突如ソイソーが降り立った。体制の崩れたクロノ防戦一方に回る。
 驚く程一撃一撃の強い剣にただでさえ体勢が崩れたクロノは苦戦を強いられる。
予想通りの力の差。しかし、驚いてばかりはいられない。クロノもソイソーを真似
て剣に魔力を込めることを試した。クロノの魔力が木刀に注ぎ込まれて白く輝く。
 
 
「!?何!」
「やられっぱなしじゃ格好悪いからな!」

 
 
 クロノの魔力を込めた木刀がソイソーの魔力の篭った木刀の一撃を受け止める。
 その瞬間、白い閃光と共に辺りに衝撃波が伝わった。その衝撃波は生徒達にも襲
いかかり、立って見ていた生徒達がばったりと倒された。
 クロノがそれを見てハッとする。
 
 
「す、すげぇ…」
 
 
 生徒達が倒れながら驚きの声を上げる。
 クロノが見せた一瞬の隙を突いて、ソイソーの一撃がクロノの肩に入った。
 ソイソーは肩に当たる瞬間に魔力を解いてクロノとの勝負を決した。手を差し出
しクロノの立ち上がるのを助ける。
 
 
「はぁ、参ったぜ。もし、昔ソイソーがこんだけ強かったら…歴史は間違い無く変
 わってたな。」
「フ、歴史にもしもは要らん。それに、昔は…好かん。」
「そうか。」
「…久々にカエル以外で本気で打ち込めた。楽しかったぞ。」
「あぁ。俺もさ。勉強になった。すげぇな!あの剣。」
 
 
 そう話していると一斉に生徒達が集まってきた。
 
 
「すげーや!先生達!あんな戦い初めて見た!」
「クロノさん格好良い!ソイソー先生とあんなに戦えるなんて、何処で修業したん
 ですか!」
「前に戦ったことあるみたいだけど、どこでですか?
 よかったら教えてくださいよ〜!」

「クロノさん、僕に剣術教えて下さい!」
「あ、俺も!」
「僕も!…」

 
 
 生徒達はクロノとソイソーの戦いを見て一様に喜んでいた。それからは、クロノ
はソイソー達と一緒に剣術指南を日暮れまで手伝った。
 その間にクロノはソイソーから先程の剣術についての詳しい話も知った。
 
 
 時はあっという間に過ぎ行き、空が赤く焼けた頃。
 
 
「今日はこれまでだ。皆、次の修業日までに各自の課題を練習するように。
 良いな?」
「オス!」
「では、解散!」
「ありがとうございました!」
 
 
 一斉に礼をすると、生徒達は皆それぞれに家に帰り始めた。
 クロノがソイソーの方を振り向いて聴く。
 
 
「ふぅ、これで終わりか?」
「あぁ。」
「毎日やってるわけじゃないのか?」
「毎日ではない。俺にも仕事があるし生徒達にも仕事があるからな。週に二度やっ
 ている。」
「へぇー、まぁ、軍隊じゃないもんな。」
  
 クロノが納得していると、ソイソーが突然木刀を差し出した。
 その目は真剣に相手を見ている。
 クロノは無言で木刀を受け取ると構えた。
 それを見てソイソーも木刀を構える。
 
「昼間の試合では納得できなかろう?」
「ハハハ、あんたもそう思ってるんだろ?」
 
 
 ソイソーはクロノの言葉にニヤリと微笑して答えとした。
 両者の間に再度の緊張が降りる。互いの間合いを牽制し、強い魔力で周囲の空気
を一変させて行く。
 
「ヘヘ、なるほどな。勝てねーわけだ。こうやって魔力が周囲を固めていちゃ、俺
 の動きは操られている様なもんってわけだ。」
「フン、そういう貴様も、たったの数時間で見抜くとは大したものだ。」
「…あぁ、いつまでも負けているわけには、行かないからさ。」
 
 
 クロノが走る!…それと同時に強い風の力が風圧となってソイソーを威圧する。
ソイソーは静かに構えると剣に魔力を込める。それは静かに風を逸らす盾となって
彼の周りを包み込む。
 
 
 ガコン!!!
 
 
 クロノの真正面からの全力の剣が振り下ろされる。それは先程のものとは明らか
に違う威圧となってソイソーを襲う。しかし、ソイソーはそれにひるむ事は無い。
それどころか楽しんでいる様にクロノの剣を正面から受け止めた。
 衝撃波が飛び、周囲に強い風の壁が生じ2人を包む。
 
 
「すげーな!こんな戦い方があるのか!」
「フ、こんなものではない!!」

 
 
 そう言うとソイソーがさらに強く魔力を剣に込める。すると木刀は鈍く光り輝き、
青白い光を纏う。そして、突然剣から感じる重みが格段に増した。
 クロノはそれに負けじと自らの剣にも同様の魔力を投じる。するとクロノの木刀
も同様に輝いた。ただ、色はクロノの方は白かった。
 両者の力の押し合いが続くかと思われた瞬間、ソイソーは一気にクロノの剣を払
い避けると、素早く跳躍して全力で切り掛かって来た。クロノは突然の行動に焦り、
相手の剣圧に負けぬ様に全力の魔力を投じる。
 
 
「!?ならん!!!!」
「え!?」

 
 
 なんと、クロノの全力の魔力を投じた木刀は白い輝きと共に蒸発する様に砕け散
って消えてしまった。ソイソーは自らの魔力を解き、構えを解いて降り立つとクロ
ノに言った。
 
 
「貴様程の力を持つ男がこの様な木刀に力を注げばこうなる!覚えておけ。フ、試
 合はまたしてもお預けだな。」
「あ、あぁ。」
 
 
 クロノは心底驚いた。こんな結果になるとは思っても見なかったので、内心では
ドキドキと心臓の動きを感じられるほどだった。真剣じゃなかったから生きている
が、あれが真剣なら確実に生きてはいられない。
 クロノの中では彼との決着はもう決まっていた。
 
 
「…どうだ、今夜予定がないなら、俺の家で一杯?」
 
 
 不意のソイソーの言葉に内心まだドキドキが止まらないが、渡りに船とばかりに
その話題に飛びついた。
 
 
「お、良いのか?」
「何、予めハナには言ってある。用意してくれているさ。」
「ハナ?」
 
 
 クロノが初耳の名に問いかけると、ソイソーは若干微笑んで言った。
 
 
「お、言っていなかったか?俺の妻だ。」
「いぃ!?結婚してたのか?マジ!?」
「…悪いか?」
「い、いや…、なんか意外で。」
 
 
 クロノの感想の言葉に、微笑んで答える。
 
 
「ハハハハ、そうか。俺が女に縁の無いような男に見えたか。残念だったな。
 これでも女にはうるさい。」
「…ハハ、そうか。失敬失敬。」
「だがな、確かにお前の持つ感想を俺も持っていた。生き抜くだけでなく、今は
 家族すらいる。…誰が今の俺を想像出来ただろう。」
 
「…良い時代になったな。」
「…フ、そうだな。」

 
 
 夕焼けに染まる空が一面の白き花を桃色に染める。
 香しい香りが風に乗り、平和の訪れた事を辺り一面に静寂とともに告げる。
 
 
 2人はそんな空の下、語らいながら家路を歩いた。

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