クロノプロジェクト正式連載版
第40話「森の仕事」
翌朝…
「う、う〜ん…」
クロノは窓から差し込む陽の光に照らされて目覚めた。
「…マール?」
クロノはマールのベッドの方を見た。しかし、ベッドにはマールはいなかった。
「あれ?」
クロノは着替えて部屋を出る。リビングに入るとフィオナとマールが茶を飲みな
がら話していた。
「おはようございます。クロノさん。よく眠れましたか?」
「おはようフィオナ。あぁ。ぐっすり眠れたよ。」
「フフフ、クロノのぐっすりはいつものことでしょ?」
「そういうこと言うなよなぁ。で、マールはいつ起きたんだ?」
「ずいぶん前ねぇ。もうすぐ昼よ?」
「昼?マジかよ…。」
クロノは頭をポリポリ掻いて恥ながら椅子に座った。
フィオナが微笑んでコップにお茶を注いで差し出す。
「どうぞ。目が覚めますよ。」
「ありがとう。何を話してたんだ?」
「そうですねぇ、世間話をちょっと。あと、村の女性のお仕事を一緒にしませんか
と、色々とお話しさせて頂きました。」
「そうよ、あ、ご飯の用意も出来てるよ!もうすぐマルコさんも帰ってくるから料
理をさっき作ってたの。フィオナの料理の腕は凄いわよ〜!わたし目から鱗だも
ん!」
「…マールの見たら誰もが目から鱗だよ…。」
「(ピキ)なんか言ったかしら?」
マールにギロリと睨まれてたじろぐクロノ。それを見てクスクスと笑うフィオナ。
そこに玄関のドアが開く音がした。
「ただいま。」
「まぁ、おかえりなさい。さて、みんな揃ったことですし、昼食にしましょう。」
フィオナとマールが奥のキッチンから料理を運んでくる。大きな鉄の鍋と木で出
来たサラダボールが運ばれ、取り分け皿が並べられる。
その間にマルコは外にある桶の水で顔を洗いタオルで顔を拭きながら家に再び入
りテーブルの席に着いた。料理はフィオナ特製のマルマジロの乳から作ったシチュー
と森で取れる野菜のサラダだった。
「旨い。」
「そう?私も頑張ったんだから!」
「フフフ、本当ですよ。私はマールに教えただけ。実際に作られたのはマールなん
です。彼女の手さばきはしっかりされてます。教えられた方はしっかりした料理
をなさる方なんですね。」
「そうか?」
「なによー!疑う気?これでもお母様から一生懸命学んだんだから〜!」
「はいはい、美味しいです。マール様〜。」
プンスカ怒るマールにクロノは適当に従う姿勢を見せるが、どう見ても本心で言
ってる様には見えない。その態度が余計にマールの心を逆なでする。
「ブー!真面目に言ってない〜!」
そんな2人のやり取りを見て夫妻が笑っていた。
「フフフフ」
「ハッハッハッハ、クロノさんも奥さんには頭が上がらないと見える。
お互い大変ですな〜」
「あらー、あなたそんなこと思ってたの〜?」
「あちゃ、こりゃとんだ藪蛇だ。」
「ハハハハハハハ!!」
マルコの言葉にそれぞれが自分の立場を振り返り笑った。
「さて、昼からはどうされます?」
マルコがクロノ達に問う。
クロノは問われてマールの方を向くと、マールが言った。
「私はフィオナと一緒に行く予定よ。クロノはどうする?」
再度自分に振られてしまったクロノ。どうするか考えも無く。
「俺は…特に予定は無いなぁ。」
そんなクロノの答えにマルコは待ってましたと笑顔で提案した。
「おぉ、でしたらソイソーさんが先程是非剣術の指南を手伝って欲しいと仰ってい
ました。どうでしょう?」
「そうですか。わかりました。良いですよ。」
「では、私が後程案内します!」
「有難う。マルコさん。」
「いえいえ、色々村を見て行って下さい。」
食事も終わり、各自午後の仕事に入って行く。
マールはフィオナについて行き、クロノはマルコに付いて森の中に入って行った。
クロノ達は北部デナドロ山方面にある剣術演習場へ向かった。剣術演習場への道
のりには果樹園や畑があり、主に農業が盛んな印象を受けた。
「剣術演習はマルコさんも受けてるんですか?」
歩きながら周囲を見回して聞くクロノに、前を進むマルコが答える。
「えぇ。私もソイソーさんに教わってますよ。ソイソーさんには一向に近付けませ
んが、だいぶ良くなったと先日誉められたんですよぉ。」
「へぇ、マルコさんも受けてるのかぁ。でも、何故この森では剣術指南が?」
マルコは前方の森を見つめながら言った。森は豊かで様々な果実を実らせている。
乱雑に生えている様で整備されている森は魔族や亜人、そして人間の村人達によっ
て大切に手入れをされていた。そこには戦争でいがみ合ったかつての表情は無い。
「それは森を守るためですよ。昔はカエルさん達少数の武術を使える人達のみしか
戦えなかった。しかし、森の人々が増えるに従って彼等だけでは森を守れなくな
りました。だから、みんなで強くなろうってことになったんです。ま、自分のこ
とは自分で守らねばね。」
マルコはそう言うと振り返りにっこり微笑んだ。
「じゃぁ、誰もが剣術を習っている?」
「そうです。この森では今では子どもの頃から習うようにしています。そうすれば
習熟も早くてより完成度の高い剣術を備えられますからね。
…この剣術は何より未来の世代のためのものなんです。我々もいつか死ぬ。ソイ
ソーさん達がいなくなった時に守る力を未来に残すためなんですよ。」
「…へぇ。そっか。…未来か。」
クロノは複雑なものを感じた。ここには自分の知る未来が確かに有る。それはマ
ルコに限らず世界中の人々が望み、そして実現しようとすることであり実らぬ果実
ではない。だが、そのために身を鍛え、武器を持たなくてはならない現実がまだ存
在している。
中世という過渡期の時代故のことなのか?…そう思いたい。ここが自分の知る種
族を問わない平等な未来の社会の種であったと。
そうこう話しているうちに前方に花畑が見えてくる。そして、ほのかに花の香り
らしきものが漂ってくる。
「良い香りがする。あの花畑から?」
前方に見える花畑は一面に白い絨毯の様に華が咲き誇り、美しい大輪の花からは
香しい香りが風に流されて心地よく伝わってくる。
「そうです。この香りはエレシーという花の香りです。元々ここはソイソーさんの
花畑なんです。」
「え?ソイソーが育ててるのか!?マジ?」
マルコの言葉に驚くクロノ。それを見て笑ってマルコが言った。
「ハハハ、えぇ。彼じゃなければこの花はこれ程までに見事には育たなかった。彼
はとても優秀な農夫でもあるんです。」
「…意外だなぁ。」
あの顔がこの花を育てた…ソイソーの違った一面に驚かされたクロノ。
花畑の向こうから声が聞こえはじめる。どうやら目的の演習場に着いた様だ。
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