クロノプロジェクト正式連載版

第39話「宴」
 
 
 の夜、
 フィオナの呼びかけにより森の住人達が集会場に集まった。
 
 
「皆さんにご紹介します。
 お二人はこの森を作るために尽力して下さいました私の古い友人です。今回、お
 二人は夫婦で新婚旅行にいらしたそうですので、皆さんと一緒に思い出になる宴
 を催させて頂きました。今宵は盛大に盛り上がりましょう!」
「おぉーーー!!!!!」
 
 
 宴の会場には盛大な焚き火が行われ、その周りを村の男達が笛や太鼓やマージと
呼ばれる魔族に伝わるギターの様な音色を持つ楽器を持って演奏し踊り歩いた。
 住人達は2人を歓迎する歌や踊りを披露し、皆客人との宴の夜を楽しんだ。
 
 
「…なんか、昔を思い出すね。」
「あぁ。…エイラ達はどうしてるかなぁ。」
「きっと元気に私たちと同じようにお祭りをしてるわよ。」
「ははは、そうかもな。」
 
 
 そこに背後からロボがやってきた。
 
 
「クロノ、世界ハ平和になったソウデ。」
「あぁ、どうして知ってるんだ?おまえ、あの時そんなこと一言もしゃべらなかっ
 たじゃないか。」
「そうよねぇ。誰に聞いたの?」
 
 
 ロボはクロノ達の言葉に安心したように話し始める。
 
 
「良かっタ。私ハ時間規則ヲ守れたようですネ。400年という長い稼働ハ想定さ
 れていナイので、とても気掛かりデシタ。」
「時間規則?」
 
 
 クロノが首を傾げて聞いた。ロボは静かに話し始める。
 
 
「時間規則トハ…過去の時間で未来の結果ヲ教えて歴史ヲ変えてハならないという
 ことデス。…ソウ、私ハ今知っていマス。そのことハカエルさんに聴きましたカ
 ラ。シカシ、私がもしもクロノにラヴォスとの戦いの前に伝えたりしたらどうな
 ることでしょうカ?
  歴史ハ微妙な変化が大きな変化につながりマス。クロノが自分達が勝利すると
 知って力を過信した隙に、何かが起こっては一大事デスからお伝えしないと心に
 決めていたのデス。」
「そうだったのかぁ。ん?でも、それっておまえはどうなるんだ?」
「ワタシハ大丈夫。過信する心ヲ持ちあわせてまセン。情報ハ客観的一つのデータ
 に過ぎズ、私の総合的判断に与える影響ハメモリーデータヲ長期記憶に退避スル
 ことで削除できマス。」
「う〜ん、なんか難しいけど凄いことができるのね。でも…そうだとすると、ロボ
 って一度破ってるのよね。」
「どういうことだ?」
 
 
 クロノがマールに問う、マールが答えようとするとロボが先に答えた。
 
 
「…マールの言う通りデス。私ハ知っていまシタ。世界が崩壊し、全てが消えるこ
 とも歴史。世界ヲ変えるトハ時間規則に抵触し、歴史の流れハ予期しない負荷が
 増大し、やがて反動が反れた流れヲ分断スル。」
「どういうこと?」
「私にもわかりまセン。理論的にそうなるだろうと想定サレル結果に過ぎまセン。
 しかし、今ヲ見る限り、その兆候ハ見つけられまセン。これハとても大切なこと
 デス。私ハ今の平和を維持するタメの時間規則ナラバ、守り通すと固く心に決め
 まシタ。決して意志は変わらナイ。」
 
 
 二人はちょっと珍紛漢紛だったが、納得して見せた。その時そこにソイソーが酒
を持ってやって来た。
 
 
「よぉ、楽しんでいるか?」
 
 
 後ろから子供達が割り込んで駆けてきた。
 
 
「わ〜〜〜〜い!!!」
「お姉さ〜ん!一緒にあそぼー!」
「まぁ、こんな夜遅くに大丈夫〜?」
「だいじょ〜ぶ〜!パパもママも今日は特別だって!」
「あら〜、そうなの?わかったわ。クロノ、私行ってくるね?」
「あぁ。行っておいで。」
 
 
 クロノは笑顔でマールに頷き答える。彼女もにっこり笑って子供達と一緒に歩い
て行った。
 ソイソーがそれを見てクロノに酒の瓶を見せた。
 
 
「この森で育った木の実から作った酒だ。飲むか?」
「あぁ、頂くよ。」 
 
 
 クロノがコップを差し出すと、ソイソーは酒をそれに注ぎ、自分のコップにも酒
を注ぐとクロノの隣に腰を下ろした。前方には駆けて行くマールと子ども達の姿が
見える。ソイソーは一口飲むと言った。
 
 
「行かせて良かったのか?」
「あぁ。」
「そうか。」
 
 
 ソイソーは酒を一息に飲み干す。そして一息吐き、呟く様に言った。
 
 
「…カエルはともかく、お前とまた会うとは思わなかった。」
「ハハハ、俺もさ。しかも、こんな平和な形で。」

 
 
 クロノは思わず苦笑した。本当に彼の言う通りであったし、自分自身いまだ不思
議で仕方ない。ソイソーはそれに構う事無く自分のペースで聞いてきた。
 
 
「お前達はカエルを探していたが、何故奴を探しているんだ?俺にはただの新婚旅
 行には思えんな。」
「…新婚旅行には変わりないんだが…俺達も正直予定外だらけさ。ま、とんだ新婚
 旅行ってとこさ。参ったぜ。」
 
 
 クロノはそう答えると一息に飲んだ。
 確かに新婚旅行とは言えた。いや、そう言い聞かせているだけかもしれない。そ
れは彼女も同じなのだろう。しかし、彼らの救いはお互いが好き同士の仲であった
ことだ。だからこうして冷静でいられるのだろう。そんな思いが頭にあった。
 ソイソーはコップに再度酒を注ぐと一口飲み問う。
 
 
「…そうか。しかし、それとカエルがどう関係するんだ?」
「俺達、旅に出たは良いが帰られなくなっちまったんだ。」
 
 ソイソーが瓶を持ちクロノに促した。クロノが了解しコップを差し出すと、そこ
に酒を注ぐ。クロノは頷き注がれた酒を一口飲んだ。
 
 
「何故だ。」
「…上手く説明するのは難しいが、簡単に言えば流されてきたのかな。気がつけば
 この大地にいた。頼れる相手といえばカエルくらい。だから歩き回って探してる
 んだけどなぁ。」
「ならば、この森に住めば良いではないか?皆歓迎するぞ?」
 
 
 ソイソーの言葉は親切から出た言葉だろう。それは間違いない事はわかる。だが、
今のクロノにはそれを受け入れる事はできない。

 
「…誘いはありがとう。だが、俺達は大勢の人々の命を背負っている。自分達の幸
 せだけを優先することは出来ない。」
 
 
 クロノの言葉にソイソーは疑問を感じた。この平和の訪れたガルディアに何を憂
えるものが存在するというのだろう。まして、魔族でもない人間が。
 
 
「何が問題だ。」
「…説明しようがない。でも、俺も国を持ち、多くの人々を背負う立場にある。
 俺達が帰らなかったら…多くの人々の人生を狂わせちまう。」
 
 
 2人の視線の向こうには子ども達と笑顔で遊ぶマールの姿があった。
 ソイソーは暫く沈黙し言った。
 
 
「…随分とお前達も大きなものを背負って生きているのだな。その気持ち、わから
 ないでもない。」
「なぁ、わかるなら…知ってるなら、教えてくれないか?」
 
 
 ソイソーはため息をついて答える。
 
 
「残念だが、俺は何も知らない。知っているのは奴が今ここにいないことだけだ。
 …すまんな。」
「…オーケー。ありがとう。」
 
 
 その後も二人は酒を酌み交わした。
 祭りは夜遅くまで続き、焚き火の炎が燃え尽きた時点で閉会した。
 
 
 
 
 フィオナの家
 
 
 
 
「お客人をお泊めすることは結構あるんですよ?」
 
 
 フィオナ夫婦はそういうとクロノ達の泊まる部屋へ案内してくれた。部屋の中に
は2組のベッドがあり、既にベッドメイキングも済んであった。マルコが先に中に
入ってロウソクに火を灯す。
 
 
「他にもだれか来るの?」
 
 
 マールの問いかけにフィオナが微笑んで言った。
 
 
「えぇ、ここへは世界中から迷える人が頼って来られます。平和が訪れたといって
 も、それはまだ一部での話。世界には今も多くの方々が迷い苦しんでいるんです。
 ここはそんな方々の最後の希望なんです。」
「…そうなんだぁ。」
 
 
 2人はフィオナの言葉に沈黙するしか無かった。
 
 
「やだ、私ったらシンミリしちゃうわよね。でも、新しい方が世界からやってきま
 すから、この森にいても色々なことがわかって楽しいのよ。ねぇ、あなた?」
「あぁ、先程食べた果物などは元々この森で物は少ないんだ。他のは皆各地から集
 まった人達が持ち寄った種を植えたことで収穫できるようになったのさ。
  この森は外の世界の人々がやって来ることで豊かになったってわけさ。」
 
 
 マルコの説明にマールが感心して言った。
 
 
「へぇ、でも、植物って場所を選ぶものでしょう?寒いところが好きな植物があれ
 ば、水が大好きなの。その逆に水が大嫌いなのとか。」
「ははは、それは自然の凄さってもんで、中には芽が出ないものもあったが、大抵
 の草花はしっかり芽を出してくれるから嬉しいもんだねぇ。おかげでこの森の生
 活も随分楽になった。」
 
 
 マルコの言葉にフィオナが微笑んで言った。
 
 
「フフフ、もう、昔はこの人文句ばっかだったのよぉ。」
「おいおい、それは言うなよぉ。さてと、では、我々はこれで。」
「あら、私ったら。ごめんなさい。じゃぁ、そこのベッドの上に私のパジャマを置
 いておきましたのでお使い下さい。クロノさんのもベッドの上に用意してありま
 すわ。では、もう夜も遅いですしごゆっくりお休みください。」
 
 
 夫妻の気遣いに二人は笑顔でお休みの挨拶を告げた。
 
 
「おやすみなさい。」
「えぇ、おやすみなさい。」

 
 
 夫妻は二人に返答すると自室へ戻っていった。
 
 マールがベッドの上に座る。クロノも自分のベッドに座った。ベッドは思ったよ
りふかふかとしている。 
 マールがフィオナのパジャマに着替え始めるとクロノも着替え始めた。着替えて
いる途中でクロノが言った。
 
 
「マール、なんかわかったか?」
「え?何が?」
「カエルのことだよ。」
「あぁ!…ううん。なにも。」
「そっか…俺もさ。」
「…そう。」
「とりあえず、今日は眠ろう。明日またよく聞き込みすれば何か手がかりが掴める
 かもしれないし。」
「そうね。明日がんばろう!」
「あぁ!」

 
 
 二人は着替え終わると、その夜は後には何も話さずに眠りについた。

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