クロノプロジェクト正式連載版

第33話「ハイパー干し肉を求めて2」
 
 
 
 見して髪を逆立てた大柄な男。しかし、頭の上にあるのは髪の毛の他に背びれ
のような物。それが緩やかに背中に伸びて、肩の下あたりで消える。古びた甲冑の
ような物を着込んでいて、手には銛を持っている。
 
 
「………何だこれ?」
「コレとはなんじゃ!コレとは!
 人を物の様に!親の顔が見てみたいわ!!!」
「うぉ、喋る!?」

 
 
 ピキッと額に青スジが浮かぶ。半魚人(?)はクロノの反応に怒っている様だ。
 クロノは後方に控えるマールに聞いた。
 
 
「マール、幽霊船って、こういうものなのか?」
「え!?、えーと、私は〜…違うと思うなぁ…。」

 
 
 マールもあまりの緊張の途切れた現状に苦笑しつつクロノの質問に答えている。
 その状況に半魚人は怒りをあらわにして言った。
 
 
「きさまら、わしをナメとるな?」
「嘗めてるのはてめぇだ!さっさと気象を元に戻せ!」
「シャーラップ!命が惜しくば、今すぐ船の荷物を全部置いていけ!」

 
 
 クロノは半魚人の言葉に違和感を覚える。
 
 
「荷物?…お前、海賊か?荷物なんてないよなぁ?」
 
 
 クロノの問いかけにマールは首を縦に振ってウンウンうなずいた。
 
 
「ふざけるな!黙って言うことを聞け!」
「お前、怪物の割にセコくねぇか?」
「怪物ぅ?失礼な。わしは偉大なる海の主じゃ!!」

 
 
 半魚人はエッヘンとでも言うかのごとく胸を張って言い切った。
 その言葉にマールはクロノにひそひそ聞いた。
 
 
「ごにょごにょ(…海の主が強盗するの?)」
「ごにょごにょ(…どうみても、ただのセコい半魚人だよな?)」
「だぁぁ〜っ!とにかくいいからさっさとモノ持ってこーい!」
 
 
 キレる半魚人にクロノはしたり顔で構え言った。
 
 
「生憎だったな!俺達はお前を退治しに来たのさ。」
「退治〜?フン、たかが人間の分際で、わしに刃向かうつもりか?」
「ああ、刃向かうさ。命が惜しければ、今すぐ土下座して謝るんだな。」
 
 
 挑発に乗るクロノ。化け物はますますいきり立つ。
 
 
「ほざけ!人間!」
 
 
 そう叫ぶと半魚人は銛を構えて幽霊船から一気にクロノ目掛けて降下した。思い
の外速いスピードにクロノは驚いたが、冷静に抜いた剣で受け止める。
 
 
「ほほぉう。よく止めたね〜♪」
 
 
 半魚人が小馬鹿にしたようにニヤリと笑い、銛を力一杯振り回した。
 クロノは咄嗟に刀で受け流しつつ相手の力を利用して後退し、体制を立て直して
構えると目をつぶった。それを見て、半魚人が銛を突き出して突進する。
 
 
「間〜に合〜わなぁ〜い♪」
 
 
 半魚人の銛がクロノの目前に迫る。
 クロノは目をつぶり微動だにしない。半魚人は決まったと思った。
 だが…
 
 
「なぁ!?」
 
 
 クロノは寸での所で突撃してくる半魚人の銛を抜刀し断ち切った。半魚人は銛の
刃先が消えてしまい、単なる棒で突進している格好になったが、それでも構わずに
一気に突き刺す勢いで突き出した。しかし、クロノは軽々と跳躍すると半魚人の棒
の上をステップにして半魚人の後方へ降り立った。半魚人は勢い余ってそのまます
っ転び、床にビタリと慣性に従い口づけした。
 慌てて起き上がると痛みをこらえつつ、棒を海に投げ捨て言った。
 
 
「チィ、お前は化け物か!」
「お前に言われたかないな。」
「このリーブ様の顔を床に叩き付けるたぁ、良い度胸をしてるわい!」
「…お前が勝手にすっ転んだんだろ。」
「だ、だまれぃ!!!
 と、兎に角だ!貴様らを決して生かして帰しはせんぞ!」

 
 
 怪物はそういうと突進した。今度は体当たりでもかますつもりだろうか。
 クロノは待ち構えていると、リーブと名乗った半魚人(以下略:リーブ)は何の
ためらいも無く突進してくる。クロノは体当たりされる手前で軽く跳躍した。する
とリーブはそのままの勢いで走り過ぎ、そのまま海に落ちて行った。
 
 
「………な、なんだぁ?」
「…真面目に落ちたわよね。」

 
 
 海面には泡がぶくぶくと浮かんでくる。しかし、しばらくしても上がって来ない。
遂に泡さえも出て来なくなった。…辺りは異様な静けさに包まれた。
 
 
「…あいつ溺れちまったのか?」
「…さ、さぁ。」
 
 
 ザバァアアア!!!!!
 
 
 突然後方から波音の様な音がした。振り返り見ると何もいない。しかし、敵は空
にいた。高く跳躍したリーブは降下速度を利用して次々に水の球を飛ばしてくる。
 
 
「ちっ!?」
 
 
 襲いかかるバレーボール大の水の球を切り裂くクロノ。マールもアイスで迎撃す
るが、全てを防ぎきれない。
 
 
「キャァ!?」
 
 
 直撃を受けて倒れるマール。クロノはそれを見てすかさず前に立ち守る。
 リーブは2人に降下しながら打てるだけ打ち込むと、再度海中に潜ってしまった。
 
 
「大丈夫か?」
 
 
 マールはクロノの問いかけには答えず、突然立ち上がるとつかつか歩いて柵に立
った。そして、両手を出し構える。
 
 
「えぃ!!!」
 
 
 マールが海中に向けてアイスを放った。一瞬にして海面が氷に覆われる。そして、
そこにリーブが飛び上がって来た。
 
 
 ドゴォォン
 
 
ごおおおぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!」
 
 
 氷を割って出たは良いものの、まともに頭を打ち激痛が走るリーブ。痛みに耐え
ている内にそのまま落下して再度派手な音と共に海中に沈んだ。氷はその衝撃で魔
法が解けて消えた。
 マールが再度アイスで海面を凍結する。今度はより強く魔力を注ぎ込み、分厚い
氷となった。氷は透明度が高く、飛び込んだリーブが海中で口をぱくぱく開けてい
るのが分かる。見ていると、気泡が氷の下にいくつもとどまっている。
 海中のリーブは何かを言っている様だがさっぱり分からない。マールは勝ち誇っ
た様に腕を組み眺めていた。すると、リーブが突然海中深くに潜って消えてしまっ
た。しばらく、シーンとした静寂が漂う。
 クロノがマールの背後に歩いてくる。肩に手を置き一緒に眼下の凍結した海を見
るが変化は無い。1分、2分、3分…5分は経過しただろうか、クロノが口を開く。
 
 
「…死んじまったか?」
「フフ、案外ちょろいもんね。」
 
 
 しかし、その言葉は少々早過ぎた勝利のコメントだった。突如氷にヒビが入りだ
した。マールはそれを見て驚いて魔力を注ぎ込むが、ひび割れは押さえられず次々
と割れ始めた。鈍い氷の擦れる音が聞こえ、割れた氷の間から水柱が立った。そし
て、その柱は一つではなく幾つも立ち上り、ついにアイスの効果を消滅させた。
 
 
「まだしぶとく生きていた様ね。」
 
 
 マールが海中の敵を睨む。
 海中の敵は不敵な笑みと共にユラユラと海面に頭を出した。
 
 
「可愛い顔して随分と嘗めた真似してくれるじゃねぇか?今度は俺がお返しの番だ
 ぜ?おい。」
 
 
 そう言うと、再び海中へ。…どうやらそれをわざわざ言いたかったらしい。
 海中深く潜ったリーブは海の中で魔力を集中した。リーブの体が青白い輝きに覆
われる。それは海面のクロノ達にも見える輝きだった。
 
 
「…エディウォーター。」
 
 
 リーブがそう念じると、周囲の水の流れが一筋の小さな渦となり上昇を始める。
渦巻いた流れはそのまま一気に海面に上昇し、いくつもの先程氷を割って現れた水
柱の様な鋭い水の刃が2人を襲う。
 クロノは咄嗟にカマイタチで柱を次々に切り裂くが、すぐに水流の勢いが勝り2
人に迫る。クロノはマールを片手に抱きかかえ背後に跳躍し避ける。しかし、水の
流れはまるで生きているかの様に2人の後を追い襲いかかった。
 クロノは刀で体への直撃は防ぐが、水圧で後ろへはじき飛ばされる。
 
 
「グッ!?」
 
 
 このままではいけないと咄嗟にカマイタチで再度水の流れを切り離すと、すぐに
サンダーをその流れに向けて放った。その瞬間、水の流れの勢いが止まり、2人は
何とか船の上に上手く着地した。
 
 
 ザバァアアア!!!
 
 
 大きな波音の様な音が聞こえた。すると、海中からリーブが飛び出て船に着地し
た。
 
 
「…海に雷落とすたぁ、良い度胸してるわな。だが、次はそうはいかんぞ!」
 
 
 そういうとリーブは再度海に飛び込んだ。しかし、そこにマールが魔法を唱えた。
 
 
「えぇ〜〜い!!!」
 
 
 リーブが海中に入った瞬間、マールのアイスガが海を一瞬で凍結させる。リーブ
はまるでボールの様な氷の中に閉じ込められた格好になった。ご丁寧に内部には水
があり、自由に動けそうだ。
 リーブは自分の先程の技で何度も脱出を試みるが上手くいかない。今度の氷はそ
う易々とはリーブの力を通さない様だ。
 
 
「出しやがれ!このガキどもーーー!」
 
 
 内部で怒り狂うリーブの姿を見てマールが船の上でクロノに言った。
 
 
「クロノ、アイツどうにかしちゃって!!」
「いいのか?」
「クロノの方がアイツにぎゃふんと言わせられるでしょ?」
「お−し、良いだろ!いっちょやったろか。」
 
 
 クロノはニヤニヤと笑いながら構えた。
 リーブが水中でモガモガと抗議している姿が見える。
 
 
「先程はありがとよ。これは礼だ。遠慮はいらないぜ!」
 
 
 クロノは構えると魔力を集中した。構えた体から稲妻が走り出す。

 
「いっくぜぇ!サンダーーー!!!
 
 
 ズビシャーーーーン!!!!
 
 
「はんぎゃぁぁあああああああ〜〜〜〜!!!」
 
 
 サンダーの稲妻がリーブを襲う。リーブは何処にも逃げられずにそのまま感電し、
時折骨格が見えるかの様にバチバチと内部でいっている。

 
「はっはっは。そぉれもう一発♪
 
 
 ズドドドォーーーーン!!!!
 
 
「ほんげぇぇぇ〜〜〜〜!!!!」
「まだまだこんなもんじゃないぜ〜♪」
 
 
 ズビシャーーーーン!!!!
 
 
「ウゴォォオオオォォォォ〜〜〜〜!!!!」
 
 
 ズドドドォーーーーン!!!!
 
 
「もう一発〜♪……もう一発〜♪……もう一発〜♪…」
 
 
 
 ォォォォォオオオオオオーーーーーン!!!!
 
 
「!?」
 
 
 クロノの連発のサンダーだが、突然巨大な爆発音がした。何事かと眼下のリーブ
の氷の檻を見ると、跡形も無く砕け散って消えた上に佇むリーブの姿が有った。し
かし、その姿はどことなく笑いがこみ上げる。
 リーブの姿はなんと頭のモヒカン型の金髪がチリチリのパンチパーマになってお
り、とても無様だった。それにも増して滑稽なのは服装がヒョウ柄になっていたか
らだった。とてもピカピカの新品のヒョウ柄の腰巻きのようなものを身につけて、
何故か銛まで新調されて、可愛そうに一匹提灯アンチョビーが刺さっていた。
 …いつのまに漁をしたのだろうかという疑問の前に、その服は何処から出てきた
んだという言葉が浮かぶ。しかし、何よりもおかしさが先にあり、2人は笑いを堪
えるのがやっとだった。
 リーブは銛を振り上げると、突如跳躍してクロノ達の船に飛び乗った。
 
 
「お前ら人を殺す気か!ったく、近頃の若い奴らはどういう教育をされてるんだ!
 こんなすばらしいワシを雷攻めするなんて、神をも冒涜する行為だぞ!恥を知れ!」
 
 
 リーブが抗議するが、そのあまりにも滑稽な姿での抗議に、2人は遂に笑いを堪
えられなくなった。
 
 
「アハハハハ!もう、やめて!それ!おなかがよじれそう!クスクス。」
「ハハハハハ!!!お前、戦う気あっか?」

 
 
 2人の爆笑振りにリーブは眉間に皺を寄せて怒ると、無言で幽霊船の方を振り向
き跳躍した。2人が驚いてリーブの動きを見ると、リーブは幽霊船に乗り移り中に
入っていった様だ。そして、すぐにゆっくりと幽霊船が動き出した。
 
 
「な、なんだ!?」
「逃げる気かしら!?」
 
 
 マールが幽霊船に向かって叫んだ。
 
 
「この弱虫〜〜〜!!!
 負けそうになったら逃げるなんて最低よぉ〜〜〜!」

 
 
 幽霊船はそのまま離れて霧に消えた。
 
 
「もう、卑怯な奴ね。」
「…いや、待て。」
 
 
 波音が聞こえる。消えた方角から何かが近づいてくる。うっすらと前方に幽霊船
の先が見える。
 
 
「!?やば!タータ!回避だ!」
 
 
 クロノの突然の叫びだが、風もなく舵も効かない今の状況ではタータにはどうす
る事も出来ない。
 その時マールが海中に向けて魔法を放った。
 
 
「えーい!!」
 
 
 マールのアイスが海中に命中する。すると幽霊船の前方が凍結した。しかし、船
の勢いは凍結した氷を砕氷して進み続けた。
 
 
「ぶつかる!?」
 
 
 クロノがマールを庇い、とっさに床に伏せる。
 
 
 
 ズガガガガガガガガガガガガガ!!!!
 
 
 
 強い衝撃とともに互いの船が擦り合う音が響き渡る。
 幽霊船は寸での所で正面衝突を避け、クロノ達の船を再度擦る形となった。だが、
最初よりも衝撃もぶつかった範囲も大きく、船の航行に問題は無さそうだが、少な
からぬ損傷を負った。
 
 
「つぅ、…クロノさん、このままだとあっちの船と一緒にこっちも幽霊船になりか
 ねないぜ?」
「くっそぉ〜…」
 
 
 衝撃で倒れたタータが起き上がり、窓からクロノに船の状況を伝える。
 クロノはマールをかばうように倒れていたが、二人とも何とか無事で立ち上がる。
そして、クロノは苦々しい顔をしつつ体を整えると、幽霊船に飛び移った。
 
 
「あ、待ってよ!」
 
 
 マールが後を追い飛び乗った。
 
 
 船に飛び移った2人は船の甲板の上でリーブの姿を探す。しかし、そこには何も
気配を感じず、船内に入るしかない。
 船内に入る入り口を見つけて入ると、中は意外にもそう痛んでいるわけではなく、
所々壁や床に穴は空いているが、思ったよりしっかりとした足場の印象を受けた。
よく見ると床に新しい濡れた足跡が続いている。おそらくリーブ本人のものと見て
間違いないだろう。2人は互いに頷くと足跡を辿る事にした。足跡は走っていたこ
とを物語る歩幅の長さからみて、随分と急いでいるリーブの様子が思い浮かぶ。そ
のリーブの足跡は凄い速度で下まで降りて行った様だ。
 最後の層である船倉の階段にたどり着くと、下に気配を感じた。どうやら下にい
るらしい。2人は構え、クロノからゆっくり入り込む。中は真っ暗で何も見えない
が、確かに気配を感じる。
 前方の気配が動いた。
 
 
「…執念深い奴らだな。無茶苦茶しやがって…。」
「それはお互い様だ。」

 
 
 銛を構える音が聞こえる。
 クロノは一気に気配へ向けて突撃した。相手の動く音が聞こえる。
 
 
 ガシン!!!
 
 
 銛と刀が激突する。リーブは力任せに一気に押し返すと、即座に銛をクロノを振
り払うように牽制。
 
 
 ギン!!!
 
 
 その牽制の振りをクロノの刀が受け止める。今度はクロノが力一杯に押し返した。
リーブの足音が後退する。攻撃を避けているのか…いや、違う!強い魔力の上昇を
感じたクロノは咄嗟に後退しようと背後に跳躍した。
 
 
「流捷槍」
 
 
 槍投げの様に銛を構えると、獲物を捕らえる様に鋭く投げはなった。銛はクロノ
の左肩を貫くと一気に抜けてリーブの手元に戻った。
 
 
「ぐあぁあ!?」
 
 
 クロノは左肩を庇いつつ着地し刀を右手に持ち替えた。そこに再度リーブの銛が
迫る。
 
 
 ズブ!!!
 
 
 鈍く突き刺さる音が木霊する。リーブがニヤリと笑みをこぼすが、それは瞬間に
にして消えた。
 
 
「氷!?」
 
 
 マールは咄嗟に魔法で氷を前面に張り保護すると、クロノの元に駆け寄り傷口に
手を当てた。傷口からは相当な出血をしている。銛が貫通した後に抜かれた事で傷
口の損傷が激しいためだろう。目を閉じると一気に魔力を手に集中させる。白い輝
きと共に傷口は瞬時に塞がれた。
 
 
 パキィィィィン!!!!
 
 
 リーブの銛が氷を割り襲いかかる。寸での所で右腕に持った刀がそれを受け止め
る。しかし、治療を中断せざるを得ず、動いた瞬間に激痛が走る。銛はすぐに引く
と執拗にクロノを狙った。クロノは刀を左に持ち変え即座に構えるとマールに言っ
た。
 
 
「頼むぜ!マール!」
「!?…分かったわ!!」

 
 
 リーブの銛が迫る。クロノはそれを避ける様に跳躍した。銛は即座にリーブの手
元に戻る力が働くが、そこをクロノがステップにして反撃に転じる。自由落下して
リーブに切り掛かる瞬間、マールのアイスが刀にこもり青白い輝きで辺りを照らす。
刀は渾身の力を込め振り抜かれた。
 
 
「!?」
 
 
 リーブは引き戻した銛に魔力を込めて受け止める。しかし、銛はクロノの刀の魔
力に抗しきれず切断された。慌てて後退する。
 
 
「くそぉ、覚えてやがれ!!!」
 
 
 リーブはダッシュして壁を突き破り逃亡した。壁からは莫大な量の海水が一気に
入り込もうとした。
 
 
「やばいっ!」
 
 
 二人は急いで上の階へ脱出を始める。水の勢いは恐ろしく速く、上に上がろうと
進む間も次々に浸水してくる。クロノはこのままでは船に閉じ込められると判断し、
マールを抱くと力一杯跳躍した。天井を自分の頭で突き破り甲板に一気に躍り出た
が、船は既に乗って来た船と同じくらいの高さしか出ていない。慌ててそのまま抱
きかかえて走るクロノにタータが叫ぶ。
 
 
「クロノさん早く!」
 
 
 船がせり上がり傾く。
 もう時間が無い。
 
 クロノはマールを抱きかかえたまま助走を付けて一気に跳躍した。だが、距離が
足りない。クロノは空中でマールをタータに向けて投げ放った。
 
 
「マールを頼む!」
 
 
 タータが慌ててマールを受け止めた。クロノはそのまま落下し海中に落ち込んだ。
タータが慌ててマールを降ろすと浮き輪を探しに駆けようとした。その時、目前に
思わぬ人物が立っていた。その人物は浮き輪を颯爽と海に投げ込むと叫んだ。
 
 
「これに掴まれ!今引き上げる!!」
 
 
 クロノは驚いた。その言葉を発したのはいるはずも無い監督だった。
 監督は浮き輪に掴まったのを確認するとクロノを力一杯引きあげた。その力はさ
すが海の男と呼びたくなる程の見事な引き上げっぷりで、タータは勿論、マールも
その後ろ姿の頼もしさに安心を感じた。程なくしてクロノが引き上げられる。
 
 
「ふぅ、助かったぜ。しかし、おやじさん、どうやって?」
 
 
 クロノの問いは誰もが感じる事だった。監督が口を開く。
 
 
「ガハハ、タータ1人じゃ頼りねぇからなぁ。大事な船だ。俺も付いて来たのさ。」
「そんなぁ。おやじぃ。」
 
 
 タータが不満の声を上げる。しかし監督はニッコリ微笑んで肩に手を置き言った。
 
 
「立派だったぜ。さぁ、お前は舵を握れ!」
「はい!」

 
 
 監督の言葉にタータは照れつつも笑顔で返事をして操舵輪を握った。
 監督がクロノにも声をかける。
 
 
「クロノさん、ここは一つ景気の良い掛け声を頼むぜ!」
 
 
 監督の言葉に3人の目がクロノに集まる。クロノは頷いて言った。
 
 
「よぉし!パレポリへ向けて出航だ!!!」
「オーーーーッ!!!」

 
 
 船が風を受けてゆっくりと動き出す。
 空は東から朝日が昇り、大海原一帯にダイヤを散りばめた様に光り輝いている。
 
 
 一行はパレポリ港への帰路を辿った。

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 お読み頂きありがとうございます。
 拙い文章ですが、いかがでしたでしょうか?
 
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が、ご意見などでも結構です。今後の制作に役立てて行ければと考えております。
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