クロノプロジェクト正式連載版

第31話「守りの剣 下」
 
 
 の頃カエルの家では…
 
 
 カエルは家に帰ると水桶から柄杓で水を酌み、一気に飲み干した。
 そして一息つくと椅子に腰掛け、テーブルに肘を乗せて考え込む様に座り込んだ。
 レンヌがそこに帰宅する。
 
 
「ただいま帰りました。」
 
 
 レンヌが明るく言った。
 カエルはそんな彼女に素っ気なく反応した。
 
 
「おかえり。」
 
 
 カエルのいつに無い頑な態度に困りつつも、レンヌは向かい側の椅子に座り、カ
エルを見つめる。カエルはそんな彼女を見て話し掛ける。
 
 
「どうした?」
「…さっきはあなたらしくありませんでした。」
「…そうか。」
「帰ってきては話し合いにはなりません。」

 
 
 彼女の言葉は確かにその通りだった。自分らしく無い。だが、それを認めるこ
とは出来なかった。いや、認めたくはなかった。
 
 
「…皆には悪いと思っている。しかし、俺には納得がいかないんだ。言いたい事は
 わかる。だが、剣が作りだす未来は決して平和では済まない。いつか何らかの禍
 根となる気がするんだ。」
「…でも、今のままでは、そのいつかの未来すら見る事は無いかもしれない。」
「…何故だ?ガルディア王ならば俺の願いを聞いてくれる。王に俺が願い出れば不
 可侵を約束してくれると思うんだ。これならば平和的解決法ではないか?」
 
 
 カエルはレンヌに提案してみせるが、彼女はただ見つめて静かに応えた。
 
 
「…あなたの方法は確かに可能かもしれません。でも、それはいつまで保証される
 ものなのでしょう?」
「…勿論、王が亡くなれば保証は無いだろうな…、…それは分かっている。」
「剣は確かに禍根を残すかもしれません。でも、今の私達があるのは剣のおかげな
 のよ?」
「…あぁ。」
 
 
 レンヌは目を見て真剣な眼差しで言った。
 
 
「あなたの剣は人を傷つけるための剣ではありません。常に人を助けるための剣で
 あったはずです。剣は命を断つと共に命を繋ぐものでもあることは、あなた自身
 が一番よく理解されていたはずです。もっと自信を持って自分の剣を後世に伝え
 ていって欲しいわ。」
 
 
 彼女のフォローの言葉にもカエルの表情は重かった。何か思い詰めた様なものを
感じる。カエルが口を開く。
 
 
「…オレは王宮で剣を指南していた。そこでひねくれた奴だったが、しっかりと俺
 の剣技を身に付けていた奴がいたんだ。
 …俺は奴ならばしっかりと正しい剣を振るってくれると思っていた。
 …だが、間違いだった。」
「何故?」
 
 
 彼女の問いに、カエルは頭を下げ目を伏せる。
 そして答えた。
 
 
「…それがさっきのアレクセイさんを斬った男なんだ。」
「…え。」
「…これが俺の伝えた剣の結果だ。」
「…、そんな。」

 
 
 
 レンヌが絶句する。
 カエルは目を伏せたまま話を続けた。
 
 
 
「オレは剣を教えると共に、その剣を振るうスタイルすらも伝えようと心掛けた。
 間違っても俺の剣で悪事を働かないようにと。でも、ダメだったんだ。オレの持
 つ力とは、所詮は人斬り程度の物だったんだ。」
 
 
 レンヌはカエルの心の中にある深い苦悩が見て取れた。しかし、ここでその苦悩
を認めるわけにはいかなかった。力無い態度の彼に対し強く言う。
 
 
「そんなことありません!そうやって否定すれば何もかもが否定できます。でも、
 失ったものと同時に生まれたものも確実にあります。あなたはその生まれたもの
 に未来を残す義務が有るはずです。」
 
「……どういうことだ?、
 ………………!、…………できたのか?」
 
「………えぇ。」

 
 
 
 二人の間に暫くの間が空く。
 
 
 
「…そうか。そうだったのか。いつ分かったんだ?」
「ここ最近ずっと来なかったの。昨日、どうにも具合が悪くてハリーに相談したら
 …おめでとうですって。最近お腹も出てきていたから、間違いないと思います。」
 
 
 カエルは先程までの伏せがちな表情を一変させ、真剣な眼差しでレンヌの顔を見て
言った。
 
 
「どうしてそんな大事な事を早く………そうか、オレ達は暇が無かったな。」
 
 
 レンヌは黙って微笑んで頷いた。
 そんな彼女の表情を見てカエルは少し照れて言った。
 
 
「今まで随分動き続けたが、たまには落ち着いて二人のんびり過ごすのも良いかもし
 れないな。…未来か。わかった。」
 
 
 カエルは目を見て強く言った。その目には強い決意が伺える。
 
 
「…末代まで、
 オレの剣が皆を守れるようにもう一度努力する。」
「宜しくお願いします。旦那様。」

 
 
 2人は暫く夜の静けさの中、今後について語り合った。
 
 翌日、カエルはフィオナの家に赴き自分の意志を伝えた。
 カエルの受諾によって、森の人々に剣を教えるという案は採用される。
 
 事が決まると話は早かった。カエルとソイソーは北と南の地域に別れて森の住民に
修行させることとし、定期的に両者が試合をして力を確かめることとなった。
 住民達はさすがは魔族も多く住むだけあり、2人の魔法力を扱った剣術を習得する
速度は早かった。森は次第に一部の戦える者達の手から自立し、同じ悲劇を繰り返す
ことは無く時が過ぎ行く…。

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