クロノプロジェクト正式連載版
第23話「マルコの不安」
フィオナの夫マルコはフィオナの態度に次第に疑問を抱くようになっていた。
初めはカエオの一件と同じく快くフィオナの判断を受け入れたが、次第に魔族や亜
人が増えるにしたがって、マルコは現状に強い危機を感じる様になった。
いくら関係が良好とは言え、魔族と人間は歴史的に敵対を繰り返してきた。それを
考えればいつかフィオナの存在を疎ましく思い、命を狙う者がでないとも限らない。
「フィオナ…本当にこのままで良いのか?オレ達は魔族に囲まれている。
…篭の鳥の様な状況にならないか?」
「どうして?みんな仲良くやっているじゃない?」
マルコはキッチンで湯を沸かすフィオナに言った。
フィオナは突然のマルコの言葉にも普通に返答し、茶の用意をしていた。
「しかし…魔族が増えれば魔族の望む規則が必要になる。人間のフィオナが統合の象
徴でいられるのはそう長くはないと思うんだ。だったら、俺達の仲間である人間を
もう少し増やしていかないと…」
「…でも、そのあなたの頼る先の街の人は私達に協力してくれなかったんでしょ?」
「それは…そうだが、きっと、もっと努力すれば!」
マルコは随分と悩んでいるのだと感じたフィオナは、さっと茶器をトレーに乗せる
とダイニングテーブルの上に乗せた。テーブルには窓から光が差し込み、とても明る
く清々しい。フィオナは茶器をテーブルの上に降ろすと、窓に向かい窓を開け言った。
「いいわ、あなたの言う状況を仮に作ったとしましょう。」
「あ、あぁ。」
「あなたはそれでどういう状況になれると考えているの?」
いつもなら先程の様に「仲良くやっているじゃない?」と終わってしまう所を、今
回は真面目に返答してきたので、驚きつつマルコが言った。
「そりゃ、そうすれば勢力均衡を保ち、お互いがフェアに話し合えるじゃないか。お
互いに主張しあえる立場がなきゃ、いくら自分達の利便を考えても通らないように
なることも考えられなく無いか?
今はいい、でも、俺達の未来の世代というものもある。だとすれば、未来の為に俺
達が何とかするのは義務だろう?」
マルコの言葉に、フィオナは椅子に座るよう促し座ると、ポットに茶葉を入れなが
ら返答する。
「……それは違うわ。あなたの言っていることは数の論理に過ぎないわよ。本当に勢
力は必要なの?」
「…。」
「私達が彼等と戦争をしたのも結局はそれよ。彼等は当然の主張をしているの。私達
が普通に街で生きて話して仕事ができるように、彼等もそういう権利が欲しいと言
って闘ってきたのよ。そして、私達はそれを勝利の名のもとに握りつぶしたわ。」
「そんな言い方は無いだろう!俺はあの戦争に行ってきて死ぬ思いで闘ってきたんだ
ぞ!」
「…えぇ。その通りよ。そして、それは魔族の皆さんも同じなのよ。」
「うぅ。」
マルコは言葉に窮した。確かにフィオナの見解も一理あることは、今までの生活の
中で分かっていた。
フィオナはカップに茶を注ぎ差し出し、自分のカップにも注いでから言った。
「…ここへ来た人達を見てきて思うの。私達に違いなんて有りはしないって。
確かに見た目は違うかも知れない。でも、持っている心は皆平和を望んでいるの。
そして、誰もが平等に普通に喋られる今の、この森を愛しているの。」
「しかし…」
「えぇ、あなたの気持ちはわかるわ。でも、それは私達の一存で決められることでは
ないでしょ?森には沢山の仲間がいるわ。今までもちゃんと話してきたように、こ
れからもどんなことでも、しっかり話して行かなくてはならないわ。」
「………。」
「…もし、仮に勢力のことを考えて、密かに人間を増やすことを考えてみて?彼等は
そんな意図したことを快く思うかしら?それは結果的に、私達に無用な感情を生み
だすだけよ。…それでは他の場所と変わらない。」
フィオナはマルコを見据えて話し終えると、カップを持ち茶を含んだ。
マルコは頭では分かるが、気持ちとして理解し難かった。
「じゃぁ、未来はどうだって良いって言うのか?」
どうにもフィオナが平静を保っているのが信じられなかった。ましてや、この会話
でも茶を飲みながら余裕で話している。自分はこんなにも落ち着けないのに。
フィオナはカップを置くと、マルコの言葉に対していつもと違う気迫を持って答え
た。
「 そうは言っていないわ。
私はあなたの考えには同意しないけど、人間の住人が増えることを否定するつも
りもないの。私はね、この森に住んで森を育てたいという人を拒むつもりはないの
よ。」
「ならば…」
「でもね、そこに対立を生みたくはないの。もう沢山よ!私が戦争中に貴方の帰りを
どんな気持ちで待っていたか、あなたは考えたことある?」
「そ、それは…」
「あなたと同じ様に私も戦争は嫌なの。でも、それはみんな同じなのよ。でも、あな
たの言っていることは、自分の平和だけを望んで、魔族は平和を望んでいないとい
う立場に立っているわ。それじゃ無用な対立を生んでしまう。
ここはたぶん、世界で唯一の場所だと思うの。みんなそれをわかっていると思う
のよ。そもそも人間と魔族に闘う理由なんてあるのかしら?」
「…。」
「良いじゃない。ここにだけ唯一の例外があっても。それは誇るべきことだわ。
第一、私達が頑張ることで人間と魔族の関係は変われるかもしれない。今はダメか
もしれないけど、私達の子供達や未来の世代ならきっと…。」
マルコはフィオナの言葉に暫く考え込んだ様に黙った。そして、暫くしてカップを
手に取り茶を含んだ。茶の湯の熱さと渋さが気分を新たな気持ちに変える様だ。茶を
飲み終えるとマルコは言った。
「…そうだな。俺は随分と狭い事を考えていたようだ。」
マルコの落ち着いた様子に、フィオナはマルコのカップに茶を注ぐと言った。
「ううん。あなたの気持ちは、私達の立場からすれば出て来ても不思議じゃないわ。
その気持ちを無理に無くす必要は無いと思うの。でも、今はそういう時じゃないと
いうことね。」
二人は暫く茶を飲みながら、ゆっくりと穏やかな森の午後を過ごした。
数日後
小鳥のさえずりが聞こえる。早朝の冷たい風がひやりと伝う。
朝の陽の光森を照らし、今だ眠る森の住民達に朝を告げる。
ガサゴソ、ガサゴソ…。
「…あなた、たまにはこういうのも良いケロね。」
「そうケロ?そうケロ?だからオレが言っただケロよ。やっぱ夫婦だケロ、たまには
こういう静かな一時を作ってだなケロ…」
「シー、もう、言葉は要らないケロ。」
「!…そうだケロな。」
ガサゴソ、ガサゴソ…。
カエオとカエコが朝の森の木陰で良い雰囲気(?)で過していた一時、彼等の前方
から何やらガサゴソと音がする。
「!?…何かイヤな予感がしないケロ?」
「…いやねぇ、まさかぁ。またパトラッシュケロよきっと。」
「…そうケロな。おい、パトラッシュ!悪い冗談はよしてくれケロ。
ささ、出てくるケロ!」
タッタッタッタッタッタ…
カエオの問いかけには全く反応せず、その音はどんどん近付いてくる。
近付いてくるに従って、その足音がパトラッシュのものと明らかに違う事に気が付
く二人。
タッタッタッタッタッタ…
「…パトラッシュの足音じゃないケロ!?」
人の声が、近付いてくるモノの向こうから聞こえる。
「待てぇぇぇぇええええ!!!」
その声はギニアスの声だ。
カエオは何故ギニアスの声がするのか分からなかった。しかし、その答えは即座
に暇を与える事無く彼らの目前に現れた。
「!?!」
二人は驚いた。目前に現れた男は決して見紛う事無い男の姿だった。
男が突進しつつ言った。
「どけ!お前等を切るつもりはない!
しかし、退かねば切って捨てるのみ!」
「ひぃぃぃぃ」
「あんたはソイソー!!!」
「まだ生きていたケロかぁ!?!」
二人は直ぐに道を開けて草葉の影に隠れた。
ソイソーはそれを見るとすぐに走り去って行った。
「…フン、そう易々と死んでたまるか。」
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