クロノプロジェクト正式連載版

 第17話「森を抜けると」
 
 
 翌朝
 
 
「ねぇ!あっち、開けてるよ〜!」
 
 
 マールが茂みの向うを指差して大声でクロノを呼ぶ。
 クロノはマールの指差す方向を見た。確かに木がまばらで開けている様に見えた。
二人は駆け足でその方向へ向かった。
 
 近づいてみるとそこはもう森の外。街道も見える。どこかは分からないが、ガルディ
アの時代らしいことはわかった。周囲を見回すと、森から出て右側には街らしいもの
が見えた。
 
 
「パレポリじゃない!?」
「あぁ、行ってみよう!」
 
 
 二人は街道を街の方角に向かって歩き出した。近づいてみると、その街並は中世の
街並だった。着ている服も匂いも昔嗅いだことのある匂いが漂っている。ただ一つ違
うことは活気だ。人々は太陽の下に活気に満ちあふれていた。昔来たパレポリもそれ
なりに賑わいを見せていたが、それはおとなしく慎ましやかなものだった。
 
 
「安いよ安いよ〜!新鮮な海の幸はどうだぁ〜い!」
「おぉ、そこのお二方、どうです?お安く致しますよ〜!」
 
 
 二人はグッズマーケットに来ていた。さすがに満足な寝床にもありつけなかったこ
ともあり、二人は巻貝亭に入って食事をしたいと考えていた。
 巻貝亭とは現代まで続く老舗飲食店で、この時代でも様々な料理が出る料理店だが、
そこで食事をとれるだけのお金を二人は持ち合わせていなかった。そこで所持品の婚
礼衣装のアクセサリーを売ることにした。
 
 
「ねぇ、おじさん!このブレスレット買って頂けません?」
「ほぅ、良い代物ですなぁ。見せて頂けますかな?」
 
 
 その商人の男にブレスレットを渡した。店主はしげしげと様々な角度から見定めて
いたが、突然ぎょっとしたように驚いて尋ねる。
 
 
「…お嬢さん、これを何処で?」
「え?これ?私の家の家宝よ。…もっとも、もうただの物でしかないわ。」
「…このブレスレットはとても貴重で高価な物です。本当にこれを売りたいと?」
 
 
 店主の真剣な顔に、マールは苦笑しつつも答えた。
 
 
「…私も本当は売りたくないけど、その……家が潰れちゃったから。」
「…マール。」
 
 
 クロノがマールの心中を察し肩に手を置いて自分に寄せた。店主は二人の姿をまじ
まじと見つめて真顔で言った。
 
 
「…あなた方のその服を見た所、そのアスールの染めは高貴な方のみに認められたも
 の。相当の位の高いガルディア貴族の方とお見受けします。これを売って得たお金
 で、一体何をされるおつもりなのですか?」
 
 
 店主の真剣な質問に、二人は顔を見合わせてお互い苦笑しつつマールが答えた。
 
 
「そのぉ…………食事を。」
「…食事!?
 このブレスレットは領地を持てる程の価値を持っているのですぞ!」
「えーー!?」
 
 
 店主の言葉に二人の方が驚いた。店主はなおも続ける。
 
 
「 あなた方のその服もそうです!
  その服はガルディアンアスール染めというサンドリノに古くから伝わるとても貴
 重で高価な品。これは代々ガルディア王国に務めるかなり高位の貴族のみが国王よ
 り拝領するもの。普通じゃ着れない代物ですよ!」
 
 
 二人は唖然として口をだらんとあけて互いの顔を見合わせた。
 二人にとってはただの衣装にしか考えていなかった婚礼の伝統装束が、これほど高
価な物だとは思いもよらなかった。
 しかし、考えてみれば二人は世界最高の地位にいた人間であり、当然の様に最高の
品物が揃えられた環境にいたのだ。それらを売ろうとすれば高くて当然なのだった。
二人はどうしたら良いかわからず、暫く固まっていた。店主は二人のあまりの困り様
にため息をつきながら微笑んで言った。
 
 
「ふぅ、最初は盗品をお売りに来られたのかと思いましたが、お二人とも…見た所本
 当にお困りの様だ。
 どうでしょう?私どもの家で食事などなさいませんか?
 宜しければお泊まり頂いても結構です。」
 
 
 店主の意外な提案に二人は目を丸くして驚いた。しかし、マールはこの有り難い提
案にそのまま乗るのは悪いと思い、逆に提案した。
 
 
「でも、それは悪いわ。何か受け取って貰えないと私たちも気持ちが収まらないの。
 そうだ!おじさんのお店を手伝わせて!」
「なんと!?しかし、素人の出来る様なものじゃない。生半可な気持ちでされては困
 るんですよ。」
「私たち、お金が欲しいんです。売ることが出来ないなら、仕事をしたいんです。勿
 論…、おじさんの邪魔はしませんから…。」
「…う〜ん、では、良いでしょう。今日一日お二人に手伝って頂きましょうか。」
「やったー!」
 
 
 店主は仕方ないという表情でしぶしぶ承諾した。
 クロノ達は思わず大声で喜んだ。
 そんなクロノ達の笑顔を見ていたら、何故か店主も良い気分がした。
 
 
「では、お二方。まずは自己紹介と行きましょうか?私はここパレポリで古くから貿
 易商を営んでおりますニードヴァルと申します。ニードと呼んでくれて結構です。」
「あ、私はマール。」
「俺はクロノ。」
「えぇ、クロノさんにマールさんですか。宜しくお願いします。さて、お仕事の前に
 その服を普通の服に変えましょうか?その服で商売をしていたら、お客さんは平伏
 しちゃいますよ。」
 
 
 ニードはにっこり微笑むと、二人を街の仕立て屋に連れて行った。そこでその時代
相応の一般的な服を買い与え二人に着せた。そして、二人の服を入れて運べる様にリュ
ックの様な袋を二人に渡した。
 クロノは麻色のバンダナに綿のカーキ色のシャツにこげ茶色のチュニックを羽織り
茶色のズボンを、マールはベージュのワンピースにフード付きの茶色のコートを着た。
 ニードはもう少し綺麗な服を着てはどうかと二人に勧めたが、二人は普通の服で良
いと一般的な価格の一般的な服を選んだ。そして、その後は二人に食事を与え、仕事
場であるニードの店に行った。
 
 二人はニードと一緒に店で仕事をした。ニードの店には貿易商というだけあり、様
々な土地の商品が扱われていた。
 
 クロノは武器に関しての扱いは手慣れたものでニードも驚く程だったが、それ以外
の商品についての知識や接客能力は乏しいというニードの判断もあり、武具の販売を
割当られた。
 マールはさすが王女様だけあり、世界中のあらゆるアクセサリーも一目で見分けが
つくほど目が肥えていた。ニードはその目の確かさを買って道具の販売を割り当てた。
 
 店には様々な人間が買いにくる。中には商人が商談に現れることもあり、そういう
時はニードが相手をした。ニードの商売はとても上手く、二人はさすがと感心して見
ていた。店には人が絶えること無く、とても活気に溢れ、一息つく暇もない程の盛況
ぶりだった。
 忙しさの中、二人の時はあっという間に過ぎ行き、日が暮れる頃に店は閉店した。
 
 
「お二人さん、今日はよく働きましたね。お二人のおかげで今日の売り上げはいつも
 の倍でした。これは今日の給料です。」
 
 
 店主は二人に100Gずつ給料をだした。二人は喜んで受け取った。特にマールは
生まれて初めての給料に感激していた。
 
 
「ありがとう!ニードさん。私…嬉しい。」
 
 
 マールの喜びようにニードは驚いたが、同時に初めて見た時の印象が強く確信に変
わっていった。
 
 
「しかし、お二方はかなり高位の貴族の方の様ですな。下衆な勘ぐりで恐縮ですが、
 あなた方はガルディア国王陛下の…親戚の方々ですか?」
 
 
 突然の鋭い質問に二人は一瞬驚くが、お互いに顔を見合わせて笑みを浮かべてマー
ルが答えた。
 
 
「ニードさんの目は鋭いなぁ。当たりじゃないけど、間違いでもないわ。でも…」
 
 
 マールが含みを持って言葉を止める。ニードはその先が気になる。
 
 
「でも?」
「…私たちのことには関わらない方が良いわ。ニードさんのためにも。」
「…そうですか。よほどの事情がおありなんですな。」
「今日はどうも有り難うございました。あ、そうだ、ニードさん、手を出して!」
 
 
 マールは突然ニードに手を差し出す様に頼んだ。ニードはどうするのやらと思いつ
つ手を開いて差し出した。マールはそこにそっと手を添え、何かを置いた。
 
 
「…これは!?…ブレスレット。」
「労賃は頂いたけど、それは服代として受け取って。」
「この様な高価な物を…」
「良いの。そのブレスレットは慈悲のブレスレットなの。代々我が家に語り継がれて
 きた慈悲を持つ人の証。あなたにぴったりだわ。じゃ、私たちはこれで。」
「……わかりました。有り難く頂戴しましょう。また困ったときはお立ち寄りを。」
「えぇ、ニードさんもお元気で。」
 
 
 その後二人はニードに外まで見送られつつニードの家を後にし、夜も更けた街を歩
き出した。
 
 
 ニードは二人が去ったのを見届けると、家に入り居間のソファーに座った。
 
 手の中にはマールがくれた一組のブレスレットがあった。その一つをテーブルに置
き、もう一つを手に取り燭台の火の光に近づけて模様を眺めていた。
 それは見事な作品で、青く美しく透き通るウォターブという名の世界でもごく微量
しか存在しないと言われる宝石をプラチナに散りばめたものだった。
 くるくると回して作りを見ていると、裏側に刻印がされているのが見えた。
 懐からルーペを取り出して覗いてみる。
 
 
「…これは!?」
 
 
 ニードはまさかとは思った。
 だが、そこには紛れも無くその印が刻印されていた。
 
 それは、強く美しい鳥の神、
 ガルディアンイーグル…ガルディアの紋章だった。
 
 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

 前回  トップ  次回

--------------------------------------------------------------------------------------------------

 お読み頂きありがとうございます。
 拙い文章ですが、いかがでしたでしょうか?
 
 宜しければ是非感想を頂けると有り難いです。励ましのお便りだと有り難いです
が、ご意見などでも結構です。今後の制作に役立てて行ければと考えております。
 返信はすぐにはできませんが、なるべくしたいとは思っておりますのでお気軽に
是非是非お寄せ頂ければと思います。

 感想の投稿は以下の2つの方法で!
 
 感想掲示板に書き込む    感想を直接メールする
 
 その他にも「署名応援」もできます。詳しくは以下のページへ。
 
 …応援署名案内へ
 
 今後ともクロノプロジェクトを宜しくお願いします。m(__)m