クロノプロジェクト正式連載版

 第16話「ゲートの向こうで」
 
 
 突如現れたゲートから亜空間へ吸い込まれ、その中を漂う二人。
 
 
 上下左右の感覚が今ひとつ掴めない。二人は離ればなれにならない様にしっかり手
を繋いでいた。不意にマールの方を向くと、視線を感じてマールがクロノの方を見た。
マールは不安そうな顔をしている。クロノはマールが不安がらない様に、手をギュっ
と握って笑顔を見せ前を向いた。
 
 
 空間は様々に歪み、その中を速度感すら分からないが、吸い寄せられている感覚を
感じつつ進んでいた。
 至る所に輝きの紐状の筋…プラズマリボンが走り、空間はそれらの筋に直結してい
るものもあれば、透過しているものもある。プラズマリボンは輝きを満たしながら崩
壊せずにその空間を漂っているだけのように見える。
 それは見ている限りに無害であり、美しくすらあった。
 
 
 突然前方に目もくらむような輝きが音も無く起きた。それと同時に空間の歪みがよ
り一層強まり始め、ただ事ではない何かを感じる。
 
 クロノは急いでマールを引き寄せると強く抱きしめた。マールもしっかりクロノの
背中を掴んだ。
 
 
 激震が走る。
 
 
 
 
 
 アアアアアアアアアア!!!!!!
 
 
 
 
 
 突如クロノ達の前方に見える空間から遥か後方へ、巨大なプラズマリボンが幾筋も
走り爆発しだした。衝撃が周囲の亜空間壁に伝わり誘爆し始める。クロノ達の周囲の
空間は次々に爆発の輝きに包まれて、遂にクロノ達をも飲み込んだ。
 
 
 巨大な輝きの中は、熱とも冷気ともわからないが、とてつもない衝撃が体中を走る。
 その時、クロノは凍りついた。それは、自分の中に過るまさかの姿を映していたか
らだった。その衝撃は…自分の記憶ではないが、様々な映像がまるで自分が体験した
ことの様に全身に衝突していった。
 
 
 
 
 
「…………俺、死んだのか?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 …そう思った時には、意識が飛んでいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 …寒い。
 
 
 
 
 …寒い。
 
 
 
 
 ……すげぇ…寒い。
 
 
 
 
 …………………………寒い?
 
 
 
 
 クロノは意識を取り戻した。
 目を開くと…そこは暗黒の闇の中だった。
 
 
 
 何処に居るのだろう?
 ゲートを出たのだろうか?それとも、…まだここは?
 
 
 
 …ふと気がつく、自分は仰向けに寝ているのだと。
 
 重力を感じる。
 だが、闇は変わらずそこにたたずんでいるかのようだった。
 
 
 
「…マール?」
 
 
 
 何も見えないが、とりあえず起き上がり妻の名を呼ぶ。
 妻…ようやく結婚したのに、こんなことで失ったとは思いたくない。クロノは唇を
噛み、もう一度呼びかける。
 
 すると、微かに何かが聞こえた。
 
 
「…ぅ、うーん……」
「マール!おい、いるなら返事してくれ!マール!」
「………クロ…ノ?、………え?、…私、生きてる?」
「あぁ、良かった!今そっちに行く。」
 
 
 クロノは目を閉じて立ち上がった。どうせ見えないならばと目を閉じたのだ。そう
することで割切れば…視力を頼らなければ、他の感覚がそれを補完するだろう。
 目を閉じると、それまで分からなかった様々な情報が音として入ってくる。それは
様々な気配としてクロノの頭の中に描き出された。そして、そこには確かにマールの
気配を確認出来た。
 思ったより近くにいる。3m?いや、2mだろうか?歩いて数歩の所にマールが起
き上がろうとしている音がした。
 
 
 
「ねぇ、何も見えないよぉ。私達…生きてるのかな?」
 
 
 
 マールはクロノに問いかけた。
 その言葉はマールも自分と同じ何かを見ていたのだと思われた。マールのもとにそ
っと近づき、背後から抱きしめる。
 突然抱きつかれてビクっと驚いたマールだが、すぐにその腕が誰の物か分かり安堵
した。強く逞しい、暖かい腕。
 
 
 
「…クロノ。」
「俺達、生きてるぜ。」
「…うん。…暖かい。」
 
 
 
 二人は互いの温もりを感じ、生きている実感を得た。お互いが相手の無事を素直に
喜び、しばし互いが暖まるまで静かにうずくまっていた。
 体が暖まると再びマールが問う。
 
 
 
「…ここは何処?」
「…わからない。俺も何も見えないんだ。言えることは…どっかの森の中にいるのか
 もしれない。」
 
 
 
 
 風が泣く。
 木々のざわめきが聞こえる。
 
 
 
 
 落ち着きだすと周囲から様々な情報が入ってくる。…そんなことから随分と体の感
覚が失われていたことを実感する。
 そして、体の感覚が徐々に正常に戻りつつ有るらしいことも。
 
 
 
「…そう。それにしても寒いわね。秋かしら。凄く寒い。」
「あぁ、ゲートの先がいつの時代に繋がっていたのかわからないが、俺達のいたガル
 ディアじゃないことは確かだな。」
「えぇ。やっと春だと思ったのに…逆戻りしたみたい…。」
 
 
 マールがため息を吐きつつ、手を温めるために息を吹きかけていた。クロノはその
気配を感じて、ふと思いつく。
 
 
「ちょっと待ってろ。」
「うん」
 
 
 クロノが立ち上がり辺りの気配を探ると、幾つかの木らしい気配を感じる。その中
の比較的離れた木の気配を感じ取ると、そこに向かって腕を伸ばし構えた。
 クロノの指先から閃光が走る。その光は一瞬で狙いを定めた方角に飛び、直撃した。
直撃の瞬間火が燃え上がり、ぼうっと辺りが光で照らされた。
 目を開くと、…ようやく辺りが本当に森であることを確認出来た。
 
 
「焚き火にあたろうぜ?」
「フフ、そうね。」
 
 
 二人は推測通りの森と分かり安堵した。今は何処の森かなんてどうでも良いことだ
った。…どういう場所かわかりさえすれば、もう何も怖くない。
 二人は燃え上がる木に近づいてお互いの顔を確認して微笑んだ。クロノが上空を見
上げると、空は厚い雲で覆われて星一つ見えない。
 
  
「通りで星が見えないわけだ。曇ってやがる。一雨来そうだな。」
「本当、なんか嫌な雲ね。」
「…だからと場所も分からないのに闇雲には動かない方が良い。今日はここで寝るし
 かないな。」
「うん、でも、雨が降って来たらどうするの?葉っぱもないし…ずぶ濡れ…」
「そうか、んじゃ、工作しよっか?」
「え?」
 
 
 クロノは近くの木の枝を持つと構える。視点の先には一本の木があった。枝を剣に
見立てて構えると一閃する。するとカマイタチが起こり、木を切り倒した。
 倒木した木に対して更にカマイタチを走らせる。すると木が瞬時に数枚の板にスラ
イスされた。板はマールの背丈程度のサイズのものと、長めのサイズのものが数枚作
られていた。
 再び他の木を見定めて切る。次の木もカマイタチを走らせ次々に切り込んだ。そし
て、出来上がったのは薪サイズの木の山だった。
 クロノは初めに作ったスライスされた板を持ってマールのもとへ行く。
 
 
「それをどうするの?」
「それはな、こうするのさ。」
「え?」
 
 
 クロノは足下の地面にカマイタチを走らせる。すると地面に筋の様に穴が空いた。
そして、移動し同様の筋を幾つか走らせる。筋は焚き火の火を四角く囲む様に刻まれ
ていた。クロノはその筋に今度は先ほどのマールの背丈程の板をどんどん差し込んで
行った。すると囲いができたところで、そこに薪を幾つか置き、火を囲む様に板を置
いた。こうすることで、仮に雨が降っても直に雨水に触れない様に底上げされる。
 残った長めの板を丁度真ん中がぽっかり空く様に重ねた。そして、最後に風で屋根
が飛ばぬ様に重石を載せて完成した。
 
 
「どうだ?雨はなんとかなるだろう?」
「凄い凄い、さっすがクロノ!」
「へへ。」
「でも、あの薪!爺が前に生木は使えないって言ってたよ?」
「ん?オレがそこを考えなかったと思う?分かってないなぁ、この野生児のオレを。」
 
 
 そういうと得意げに薪を手に持ち話す。
 
 
「俺が倒した薪用の木は老木さ。既に立ち枯れてるな。だからもう十分に乾燥してい
 るのさ。」
「へぇ〜!野生児様!感服しました!…クスクス!」
「ハハハハハハハ。」
「とりあえず、薪を中に運ぼうぜ。」
「うん」
 
 
 二人は薪を中に運び込み、小屋の中に入った
 
 
 
 …………、サーーーー…
 
 
 
 雷の音が轟く。
 
 
 
 遂に予想通りに雨も降り始めた。雨が板を打ち鳴らす音を立てている。
 二人は寄り添い火にあたっていた。
 
 煙突代わりに空いた穴から雨の雫が入り、チリチリと焚き火に落ち込む。
 
 
 
「…私達は大丈夫でも、火は大変そうね…野生児さん?」
 
 
 
 マールはしらけた顔でボソリと呟いた。
 クロノは苦笑しつつ外に出て行った。
 屋根は丁度真ん中が空いている。通気を良くしなくてはと思って付けた穴だが、雨
がそのまま入り込むのは具合が悪い。そこで、余っていた端切れの板を薪で少し底上
げして乗せて屋根にした。こうすれば直接雨が入らず、煙も外へ逃げる。
 作業は手早く終えたが、雨脚が強く、短時間の作業にも関わらずずぶ濡れになった。
 
 
 
「うはぁ、すげー雨だな。」
「ご苦労様。」

 
 
 
 マールが優しく出迎えた。クロノは小屋の中に入り座った。雨に濡れて垂れかかる
髪の毛を掻き揚げ、フゥッと一息吹いて落ち着き一言。
 
 
 
「ただいま。」
 
 
 
 火の勢いは弱ったが、落ち着いた熱を供給してくれていた。とりあえずはこれでし
のげる。二人は無言で焚き火の炎を見ていた。
 焚き火はパチパチとほのかな温もりのサウンドを奏でていた。二人の身に起きたつ
い先ほどまでの緊迫した状況からすれば、こうして火にあたりながら自然の音だけを
聞いている状況はとても安らいだものだった。
 マールがクロノに寄りかかる。クロノは片手をマールの肩に置いて寄せた。
 
 
「…明日、どうしよう?」
 
 
 マールが問う。
 クロノはボーッと火を見つめながら答えた。
 
 
 
「雨が止んでいたら、動いてみようぜ。」
「…うん、…みんな無事だよね。」
「…あぁ、…必ず戻ろう。」
 
 
 
 マールはクロノの言葉に安堵したのか、目を閉じ眠りについた。クロノはそんなマ
ールを見て微笑むと、火の番をしていた。

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