クロノプロジェクト正式連載版
第13話「さらし者」
カエルとスプリガンは、
お化け蛙の森を一週間程滞在してからパレポリの街へ出た。
パレポリの街へはスプリガンが下調べをしていたので、事前の情報は十分収集できて
いた。あとは船を使って外海に出てしまえばガルディアの大地から離れることができる。
しかし、その船を使うまでが厄介だった。スプリガンの事前の調査では、街では現在
「蛙狩り」の触れ書きが出ており、蛙を狩った者には報奨金が出る有様だった。そんな
場所にカエルが入ればどうなるか…想像せずとも結果は明らかであった。
そこでスプリガンは一計を案じる。それはその「触れ書き」を逆手に利用しようとい
うものだった。
「…やはり、コレしかないのか?」
「ブツブツ言わない。」
「………。」
カエルはスプリガンの変身した姿である女剣士によって、剣にまるで蛙の丸焼きで
もするかのように縛り付けられて担がれていた。人々の視線が二人に否応無く集中す
る。
「おらおら、どきなどきな!ジロジロ見るんじゃないよ!
そんなに見るなら見物料貰うからね!!」
スプリガンの鋭い睨みと威勢のいい声に、人々の目は逸れた。
二人はそのまま町長の家に直行した。
「…これがあのお化け蛙の森の主!?!おぉ、凄い、我々が苦しみ続けた蛙をよくぞ
倒して下さった!!早速報奨金をお渡ししますぞ!」
応接間に通されたスプリガンは長椅子に座り、町長と息子に対面していた。
町長は蛙を捕らえた事に大層驚くと共に、とても喜んで報奨金を家の者に用意させ
る。スプリガンは町長から遠慮なく金を受け取った。
「さて、お金はお渡し致しますが、その蛙は私どもが証拠として引き取らせて頂きま
すぞ!」
長老の息子達が立ち上がって引き取ろうとする。それに対してスプリガンは即座に
手を払い、睨み拒絶した。
「おいおい、この獲物はあたしのだ。コイツを渡せと言われても渡す気は更々無いか
らね!」
「しかし、それでは町の者達に本当に主蛙が捕まって倒されたという証拠を見せられ
ない。私どもとしては是非ともお譲り頂き、我々の手でまさにその息の音を止めた
ことを示したいと…。」
町長の言葉に、担がれているカエルは冷や汗をかいていた。しかし、黙って目をつ
ぶっていた。
ーーー元は同じ人間なのに、姿が違うばかりにここまで言われるとはねぇ…。
スプリガンがカエルの心情を気にしつつ反論した。
「証拠を示せれば良いのかい?」
「えぇ、まぁ、そうです。」
「よし、じゃぁ、あたしがその証拠として街の奴等にこいつを披露すればいいんじゃ
ないかい?その後であたしらがこの街から船で出て行く所を見届けてくれれば、ま
さにいなくなったということが街の奴等にも示せるだろう。違うかい?」
「う〜ん…わかりました。いいでしょう。では、街の者達を集めて説明しましょう。」
話がつくと、早速町長は街中の住民を中央広場に集めた。
住民達は近くの森の主が倒されたという報に、喜びと興味を持って集った。
「さぁ、さぁ、皆さん!
今日は遂にこの剣士様がにっくき蛙の主を倒して捕らえてきてくださいました!」
町長は満面の笑顔でそう言うと、演説台の上にカエルを剣に括り付けて担ぐスプリ
ガンを招いた。スプリガンは胸を張って堂々と住民達に言った。
「あたしが倒した証拠に、コイツはあたしの言うことなら何でも聴くと約束した。今
から披露するから、よーくご覧よ!まず、伏せ!!」
カエルはスプリガンの命令に驚きつつ、しぶしぶ伏せをする。
民衆はカエルのその態度に明らかに不満な顔を見せていた。スプリガンは住民達の
表情に内心冷や汗をかきつつも、冷静な態度で対処してみせた。
「ん?御主人様に向かって、そのいやいやの態度は気に入らないねぇ!
命令にはピっと応える!」
スプリガンがカエルを鞘に収まった剣で小突く。
カエルは複雑な心境になりつつも、嫌だと暴れるわけにもいかないので我慢して応
えた。
「さ、もう一度、伏せ!!!」
カエルはピッと伏せをした。それを見てスプリガンはすかさず次の命令を住民達に
も聞こえる様、大声で叫んだ。
「お手!お変わり!お巡り!伏せ!ジャンプ!…」
スプリガンの命令は約一時間続いた。その間カエルは命令通りにピッと遅れること
なくしっかりと動き続けた。しかし、さすがのカエルも日中のパレポリの暑さと、連
続した慣れない命令への対処もありヘトヘトだった。
スプリガンはカエルの表情を見てこれ以上は続けられないと思い、住民達に切り上
げの説明をする。
「さて、この通りだ。ま、皆安心して普通の日々を送っておくれよ。あたしはこいつ
を下僕として使うつもりなんだ。文句は言わせないよ!」
スプリガンはそういうと、カエルを再び剣に縛り付けて広場を出ようとした。しか
し、支度が整い台を降りて去ろうとした時、一人の住民がとんでもないことを叫んだ。
「息の根を止めろーーーっ!」
この叫びを聴き、住民達が騒ぎ始めた。
辺りから間もなく殺せコールがそこかしこに出始め、住民達の表情がみるみる険悪
な顔に変わって行く。
スプリガンは予想外の展開に汗が滴る。そこに町長が困った表情でスプリガンに近
寄り言った。
「…剣士様、ここはどうか街の者達の願いを聞き入れては頂けないでしょうか?
…お礼は弾みますから。」
スプリガンは町長の最後の言葉にカチンときた。怒りが込み上げて大声で叫ぶ。
「…気に入らないねぇ!!!」
あまりの大きな声に周囲は驚き、誰もがスプリガンに注目し静まった。
「そんなにこんな蛙一匹の命を奪って楽しいかい!
根性が気に入らないねぇ。だったら力づくで自分で捕まえればいい!
あたしはそうしたんだ!自由に利用する権利はあたしのもんだ!
こいつをどうしようが、あんたらに関係ない!!!」
スプリガンは叫び終わると周囲を睨み回した。だが、静けさは僅かしか続かなかっ
た。スプリガンの発言の後の住民達の表情は、先程の険悪な表情をさらにエスカレー
トさせたものだった。
「この街からさっさと出て行けぇーーーっ!!!!」
「そうだっ!そうだっ!出て行けぇーーーっ!!!」
町人達の出て行けの連呼が始った。町長も青ざめて恐縮している。
スプリガンはその声に負けじと声を荒げて叫ぶ。
「よぉし!言われなくても出て行くよ!!!」
スプリガンはそう言い終えると、堂々とカエルを担いで港に向かう。
人々はスプリガンの行動に静かに道を開け、彼女の進むのを静観した。スプリガン
もただ黙々と進み、港でチョラス行きの船の前に来て足を止めた。後方を付いて来て
いた住民もそれを見て囲む様に足を止めた。それまでの間は誰もが何かを言うでもな
く、靴音だけが周囲に響き渡る異様な空気で満たされていた。
スプリガンが住民達の方を振り向き言った。
「あたしはここから船で出る!
これであんたらの街にコイツは出てこない!いいね!!!」
そう言い終えるとスプリガンはそのまま振り向かずに船に入って行った。待機して
いた船員は町長の方を見た。町長はそれに頷いて応えると、出航の用意が始まり、桟
橋が外された。人々は何も言えず、ただ二人が船に乗り込むのを静観した。
船が出航する。
最後まで誰もがただ帰るでもなくそこにいた。それは惜しまれた別れでもなく、嬉
しい別れであるのかも分からない。ただ、人々は確認したのだった。二人がこの街か
ら確かに去って行った事を。
船が見えなくなる頃、町長は1人呟いた。
「…なんと言う別れだろうか。」
町長は闇に暮れた空を暫く眺めていた。
二人を乗せた船は、暮れた闇の向こうに消えて行った。
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