クロノプロジェクト正式連載版

 第12話「夜空を見上げて」
 
 
 ワザワ…ザワザワ…
 
 
 カエルは森の奥深い中へと歩いていく。
 
 奥へ進むにつれて茂みは濃くなり、足下は水が浸かり、そして暗い。
 暗い夜の森の中を、新月のため、月明かりも無く勘で進むカエル。
 暫く進むと、少し開けて星の見える泉のある古木の林に行き着いた。古木はどれも
かなりの樹齢だろう。何百年の昔から生えているのだろうか。
 …だが、そんな余裕は当時の自分には無かった。
 
 
 
「(…変わらないな。…あの時と。)」

 
 
 
 カエルは古い記憶を回想していた。
 …それは魔王戦争の頃、まだサイラスが生きていた時のことだった。
 
 
 
 
「…ここが奴の住処か、結構奇麗な場所に住んでいるもんだな。」
「…あぁ、でも、逆に薄気味悪いよ。」
「ハハハ、グレン、そんなんじゃいつまでたっても怖がりは治らないぜ!」
「…いいよ。ぼくはこのままで。」
「おいおい、すねるなよぉ。謝るからさ。」
 
 
 二人はこの夜更けの森で、勇者バッジを盗んだゴールデンフロッグ(以下略、Gフ
ロッグ)を追っていた。
 水の化身であるGフロッグは夜行性で、夜に動くため本来ならば昼間に闘う方がず
っと楽だが、昼間は森の奥深くに隠れているために倒せない。だから、彼らは夜にG
フロッグが自分から巣を出た所を倒そうと考えていた。
 
 
「…来る!」
「!?」

 
 
 サイラスが呟く様に言った。すると、前方に見える泉の中から沢山の泡が浮き上が
り、やがてそれがシャボン玉のように夜空へ舞い上がる。そのシャボン玉は徐々に固
まって行き、やがて巨大な蛙の姿に変貌した。
 ついに姿を現したGフロッグ。Gフロッグはバシャンと巨大な水しぶきを上げて着
地した。そして、不適な笑みを浮かべて言った。
 
 
「…ほぅ、いつぞやのこわっぱ共か。この我に、夜戦いを挑もうという勇気は褒めて
 つかわすぞ。だが、その生意気な根性は気に入らんな。」
 
 
 Gフロッグがそう言った途端、周囲に一斉に気配が生じた。
 
 
「!?」
「グフフ、お前達の動きなどお見通しだ。我のテリトリーに入った時点でお前達の運
 命は我が握ったのだ。」
 
 
 周囲から一斉に気配達が襲いかかる。無数の蛙が二人に次々と襲いかかりその動き
を止めた。Gフロッグはそれを大層満足そうに笑みを浮かべてみていた。だが、Gフ
ロッグの笑みが消える。
 サイラスはグランドリオンに力を込めた。すると、周囲一帯の殺気が急速に引き始
め、攻撃が止んだ。
 
 
「…小癪な。これが噂に聴く聖剣の力とやらか。」
「今日こそ奪われたバッジを返して貰うぞ!!!」
「…しつこいのぉ。お前達にできるかな。」
「できるさ!!グレン!」
「おぅっ!」
 
 
 サイラスが構えて相棒に声を掛ける。二人は構えると同時にGフロッグ目掛けて
ジャンプした。
 
 
 
「うぉぉおおおお!!!!」
 
 
 
 二人の剣影が交差する。Gフロッグにエックス切りが炸裂した。
 Gフロッグが苦しみ悶える…と思えば、それは演技だった。Gフロッグは途中でケ
ロリとした表情になり、再び笑みを浮かべた。
 
 
 
「…我に剣など効かぬと何度言えばわかる?…哀れよのぉ、人間とは。
 我が魔力を振るえばそなたらの身動きなど、ホレ。」
 
 
 
 Gフロッグは足を上げ、しこを踏む様にどすんと地面を叩いた。すると、辺り一面
がスコールの様な土砂降りに襲われ、二人の行動を取りにくくした。
 しかし、サイラスは踏ん張り、構えを解かずに耐えて叫んだ。
 
 
 
「く…余裕でいられるのもそこまでだ!我が剣を受けてみよ!!!」
「フン、無駄な足掻きを。…よかろう。しかと見てやろうじゃないか。」
 
 
 
 サイラスは剣に力を込める。グランドリオンはほのかに緑色の輝きを帯び、稲妻の
ような光線が剣の廻りを走る。
 Gフロッグは剣の輝きに驚き引きつった。
 
 
 
「!?」
「ニルヴァーナ・スラァァァッシュ!!!」

 
 
 
 サイラスが叫ぶ。
 グランドリオンの輝きが一層増して、長い光の剣になった。
 サイラスはそのままその剣でGフロッグに切り込む。すると、前までは傷一つ付け
るどころかすり抜けてしまったGフロッグを、ついに両断した。
 
 
 
「ウギャァアアアア!!!!!!!!」
 
 
 
 Gフロッグは沢山の光の粒となって飛散して消えていった。すると、バッジが静か
に泉の上に輝きながら浮かんでいた。
 相棒がサイラスの顔を見て笑顔で頷く。サイラスはそれを見てバッジを手に取ると、
握り締め振り上げた。
 
 
 
 二人は勝利の声を夜の森に轟かせた。
 
 
 
「………どうした?眠れないのか?」
「…あら、気付いていたのかい。そっとしておいてやろうと思ったのに。
 …感傷かい?」
 
 
 スプリガンの問いかけに、カエルは微笑んで応えた。
 
 
「ハハ、当たらずとも遠からず…だ。」
「そうかい。ま、こんな夜だ。
 …誰だって何か考えたくなるもんさね。」
 
「…あぁ。」
 
 
 二人は夜空を見上げた。
 空には新月の夜に満天の星空が広がっていた。
 
 

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