クロノプロジェクト正式連載版

 
第8話「林檎の木の上で1」
 
 
 
 ナン大陸はガルディア民族発祥の地である古都サンドリノがある。太古の昔、
まだ野や山に神がいると信じられていた時代に初代ガルディア王はこの不毛の地を
離れ、現在の北方大陸へと遷都した。
 以後この地は初代ガルディア王が危惧した通りに次第に衰退していった。今では
首都トルースとは比較にならぬ水準較差だが、それでもゼナン砂漠を越えてパレポ
リへ抜ける前の拠点都市として栄えてきた。
 カエルもまずサンドリノへ寄り、マルマジロを手配して砂漠を越えることを考え
ていた。その道中、前方で何やら若い男達が老婆を囲んでいる。老婆はその行為に
憤っている様子だった。
 
 
「何しやがるんだい!お放しよぉ!」
 
「おい、ババァ!お前魔族だろ!」
「何言ってるんだい!あたしゃ人間だい!この顔のどこが魔族だって言うんだい!
 さぁ、お放しよ!」
「じゃぁ、何でそんなフードを深くかぶっちゃってんのかなぁ?こんな天気が良い
 のに頭を隠すなんて角でも生えてんじゃないのぉ〜?」
「そんなことあるわけないでしょ!なんてしつこいガキ共だい!あたしゃ急いでる
 んだよ!お放し!」
 
 
 若者達に囲まれた老婆。篭に林檎を詰めて手提げ持っている。
 若者がその手提げをひったくる。老婆は慌てて取り返そうとするが、その隙に他
の男が後ろに廻り込んで老婆の頭巾を取ってしまう。
 
 
「あぁ!!なんて奴らだい!」
「やっぱり魔族じゃねぇか!なめんじゃねぇぞ婆さんよぉ。
 嘘つきは泥棒の始まりだぜ?」
「この林檎も盗んできたんだろ?悪い奴だなぁ!」
 
 
 若い男達は老婆から林檎の入った篭を奪い手に持った。老婆は慌てて取り返そう
と必死に手を伸ばすが、手に届きそうになると他の若者にすぐにパスされてしまい、
取り戻すことができない。
 
 
「馬鹿言うんじゃないよ!誰が盗むかい!なんだって言うんだい!魔族が泥棒だな
 んていい加減にするんだね。さぁ、お返し!さもなくば承知しないよ!」
「へぇ、そんなにこの林檎が大事なのかい?」
「お前達には関係ないよ。さっさとお返し!」
「旨そうだなぁ。どれどれ一個喰ってみるかなぁ。」
 
 
 若者は林檎を食べようと口に持って行く仕草をする。他の若者もそれを見てニヤ
ニヤヘラヘラと笑っていた。そこに一人の若者が林檎を食べようと口に持って行く
若者に言った。
 
 
「おい、魔族の林檎だぜ!毒でも入ってるかもしれねぇぞ!」
 
「おぉ、それを早く言えよ。危うく食うところだったじゃねぇか。」
「その林檎、もしかして街で売って町中の人を殺そうって魂胆なんじゃねぇのか?」
「有りうる有りうる!」
「へへ、その野望もこれでおしまいだ!」
「あぁあ!?」
 
 
 若者は老婆の見ている前で林檎の入っている篭を叩き付ける様に投げ捨てた。篭
の中の林檎は衝撃で砕けたり四方に散らばった。
 
 
「あぁぁぁ、あぁ……、なんてこったい…。」
「へへ、ざまぁ見ろ!人間を見くびるなよ!」
 
 
 若者達は老婆の悲しむ姿を見て楽しみ笑っている。老婆は林檎を見る眼に涙を浮
かべていた。
 
 
「…おのれぇ、よくも林檎を!!」
 
 
 老婆は怒り、魔法で杖を出すとその杖を握り締めて若者達に向かって跳びかかっ
ていった。しかし、老婆の動きは若者達には見切られており、まるで遊ばれている
ような状況だった。
 
 
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」
 
 
 老婆の息が上がるのは早かった。全力の反撃も空しく老婆はその場で息が整うの
を待つように立ち尽くしていた。
 
 
 
「もう終わりかい?早ぇなぁ?」
「ま、こんなもんだろ?」
 
「悪いなぁ、婆さん。人間様の為に死んでくれ。
 
 
 
 若者たちは剣を持ち老婆を囲んだ。老婆はもう覚悟が決まったように動かない。
 
 
「へへ、最後は行儀がいいんだな。あばよ!」
 
 
 若者が剣を振り降ろす。老婆は眼をつぶり最後の時を待った。
 …だが、その時は一向に訪れない。
 
 
「ん?やけに重………!?うぉ!?蛙???」
 
 
 大きな蛙男は剣を振り降ろそうとしていた若者の剣を掴んでいた。
 
 
「ほう、こんな援軍が来るのをわかっていたから大人しくしてやがったんだなぁ?」
「………。」
「やっちまえぇ」
 
 
 若者達は蛙男を囲み攻撃を繰り出す。しかし、蛙男はその攻撃をスラスラと受け
流した。そして受け流すと同時に若者達の懐に拳の一撃を加えた。若者達は悲鳴を
上げて殴り跳ばされた。
 
 
「つ、強ぇ、逃げろ!!!」
 
 
 若者達は蛙男の強さを悟るとすぐに逃げ去った。
 
 
「…大丈夫か?」
「…フン、お前も人間だね?そんな姿してたってわかるよ。あんたが噂に聴くカエ
 ルだろう?人間の味方のカエルがどういう風の吹き回しだい!」
「……。」
 
 
 老婆には見えていた。その男の真の姿が。それだけに余計に許せなかった。
 
 
「元はと言えばお前が魔王様を倒しさえしなければ、あたしはこんな目に合うこと
 はなかったんだよ!お前のせいであたしの夫は病の床に伏してるんだ!」
 
 
「…すまない。こんな状況は…オレも望んでいなかった。」
 

 カエルはそう言うと散らばっているまだ食べられそうな林檎を集め出した。
 老婆はその姿を見て自分も林檎を拾い始める。
 
 2人は黙々と散らばった林檎を集めていた。
 
 
 

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