クロノプロジェクト正式連載版

第7話「遠い空の記憶」
 
 
 に出てからのカエルはまずガルディアから南下していく道を歩いていた。
 昔住んでいた森に置いてきた荷物の中から持って行きたいものもあったので、森
を経由してパレポリ港から船でチョラスにあるサイラスの墓参りをしようと考えて
いた。
 
 
 
 ゼナン海峡大橋にて
 
 
 
 ゼナン海峡を渡るには橋を使うしかない。昔は渡し船を使っていたが、海流の流
速が速く海難事故が多発したため、3代前の王の時代に建設された。
 当時、工事は困難を極め多くの事故死者を出したが、橋が出来てからは物流がよ
り活発になり、首都トルースと古都サンドリノを結ぶ大動脈として役立った。
 だが、先の魔王戦争時代に幾度となく破壊され再建されの連続で現在は橋の付近
に関所が設けられ、橋の警備の為に常備軍も配備されている。これはカエルの提案
で王が配備したもので、海峡大橋が如何に重要かということが魔王戦争で再認識さ
れてから警備が厳重になった。
 
 
 海峡大橋の検問所周辺は三個師団の宿営地が展開されている。南北の商人が行き
交う交通の要所であることもあり、宿営地は町の様な賑わいを見せている。
 宿営地を素通りし検問所に入る。検問所といっても、警備兵が立ち、柵が設けら
れて入り口を狭めているだけの簡素なものだ。まだ魔王戦争から一年しか経過して
いない。橋の入り口でもあるその周囲は当時の傷跡をそのまま残していた。応急処
置という感があるが、そのための三個師団の駐屯である。そのうち整えばまた警備
体制も変わる予定で作られたのだ。今は無いよりマシだろうとカエルは改めて見て
思っていた。
 カエルが通りかかると周囲の人々が離れて行く。…もう慣れたとはいえ、気持ち
の良いものではない。カエルは構わず進み、警備兵のもとで止まった。すると、二
人並んでいた警備兵は同時に敬礼し出迎えた。市民の態度とは全く違う待遇に少々
驚くが、軽く手を上げてその敬礼に応えた。
 
 
 
「カエル様、陛下より既に命令は下っております。通行証は必要有りません、お通
 り下さい。」
「…そうか。応対感謝する。」
「いえ、我々はあなたにお会いできて光栄です。しかし…」
「…しかし?」
「…この先の地はあなたの武勲を知らない人々も多く暮らしてます故、どうかお気
 を付け下さい。」
「…そうか。二人とも体を大事にな。」
 
 
 
 カエルはそういうと検問所を通過した。
 警備兵の二人は敬礼し通過を見届けた。
 
 
 
 橋の上では海峡の強い風が吹き付けてくる。
 この風を何度受けただろうか?この橋を初めて渡ったのはサイラスと冒険の旅に
出たばかりの頃、まだカエルの姿ではなかったあの日、カエルはサイラスと丁度こ
の橋の中央で語り合った。
 
 
 
「魔王軍の攻撃が激しくなってきたな。」
「…うん。」

 
 
 
 海の向こうに夕日が沈むのが見える。強い谷間の上昇気流が二人の髪を吹き上げ
る。
 親友は遠く夕日が沈む方を見据えて言った。
 
 
 
「………なぁ、グレン。俺、城に仕官しようと思う。」
「君ならきっと良い騎士になれるよ。ぼくが保証する。」
「ありがとう。…グレン、お前もどうだ?」
 
「……ぼくには無理だよ。」
 
「…そうか。剣の腕ならお前の方が上だと思うけどな。」
「………。」
 
 
 
 思い出す記憶。
 
 
 …サイラスはオレの力を評価してくれた。
 
 
 当時のオレにとってサイラスからの評価は何にも負けない勲章の様に感じた。
 だが、俺はサイラスに付いて行くことはできなかった。
 …もし、あの時一緒に仕官していたならば、オレは、
 
 
 
 オレは…サイラスを死なせずに済んだのじゃないか?
 
 
 
 …今更何を言っても変わりはしないが、カエルにとってこの問いはかつて永遠に
も思える難問だった。
 
 
「…サイラス。」
 
 
 
 日の光も陰り始めた午後の空の下、カエルは橋の上で遠い海を見つめながら、ゼ
ナン中央大陸最北の古都サンドリノへと歩いて行った。
 
 
 
続く。

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