クロノプロジェクト正式連載版
第2話「蛙男」
…時は中世。
王国歴600年まで続いた後の時代に魔王戦争と呼ばれた頃から3年が経過し、
ようやく世界は復興しつつある。
蛙の姿に変えられた男の活躍により魔王が掌握しようとした世界は救われたのだ。
しかし、…時代は思わぬ副作用を生み出し始めていた。
「…へへへ、いるいる。金だ金!」
「…あぁ、今日はついてるな。」
二人の男が茂みの中で獲物を品定めしていた。
「1、2、3…456、7匹。」
「どう行く?ウッズ兄貴」
「…いつもの通り、俺が出る。ガンズ、お前は先に回って待ち伏せだ。」
「あいよ。」
ガンズと呼ばれた男は年齢は30代後半だろうか、黒髪髭面の巨漢で見るからに
清潔さとは無縁といった風な男だ。ガンズに兄貴と呼ばれるウッズは40代前半の
ブロンドの中肉中背の男で、頭に帽子をかぶり、腰には鞭を下げている。雰囲気は
ガンズとは打って変わって清潔で知的な感覚が伺える。
ガンズはウッズの指示を受けると静かに去って行った。ウッズはというと、獲物
を見つめながら腰の剣を抜く。
「グワッグワッグワゲコゲコ。(今日はいい天気だな?)」
「ケロケロ(そうだな、)、ケロッケロケロ。(日光浴日和♪)」
「ゲコ、ケロ、ゲロゲロ〜〜。(パパ、ママ、ご飯〜〜)」
「ゲコゲコ、ケーロケロ。(はいはい、分かったわよ〜。)」
ガサガサ
「!」
親蛙が何かの気配に気づいた。
「ゲロロ…、(あなた…)」
「…ゲロ。(…あぁ)」
親蛙は素早く子蛙達をまとめた。そして、気配のする方向を警戒しつつ徐々にそ
の場を気配のする方向の反対側に後退し始めた。すると、突然気配のした方向の茂
みから人間が剣を抜き現れた。蛙達は驚いてダッシュで後方へ逃走を始めた。人間
もそれを見て追う。
子蛙が遅れないように必死に追い立てて走る親蛙達、そしてそれを追う人間、両
者は森の中を縦横無尽に走り続ける。さすがは蛙だけにジャンプ力が強く、一度の
跳躍でかなり進めることや地の利は追われる側にあった。しかし、人間は余裕の顔
でそれについてくる。
「ケロケロ〜!(捕まっちゃうよ〜!」
「ゲロゲロ!(頑張れ!)」
親子達は必死で走り続けた。森の奥深く自分達の住処のある泉までの道のりをひ
たすらひたすら。そして、その泉が前方に見え始めた。
「ケロ!ゲコゲコ!(見ろ!家だ!)」
「ケ!?(あ!?)」
親子は驚愕した。なんと前方の泉に新たな人間が現れたのだ。
「ゲロゲロー!?!(マジでー!?!)」
後方からは先ほどから追ってくる人間が逃げ道を塞いでいた。嫌な汗がにじみ出
る両親。子蛙達は母蛙にすがりつく様に張り付いて震えていた。
「ケーロケーロ〜。(母さん怖いよぉ〜。)」
「ケロン!?(あなた!?)」
「ゲ、ゲロロゲコゲココ!(オ、オレから離れるんじゃないぞ!)」
人間達はしたり顔で蛙親子を囲んだ。ガンズが言う。
「アニキ、上手くいきやしたねぇ!」
「…、まだまだだ。とっとと化け蛙の親玉が出る前にずらかるぞ!」
そういうと剣を構えて容赦なく母蛙に向けて切り掛かる。母蛙がやられると思い
子供達は恐怖して失神する子蛙までいた。母蛙はそんな子供達を庇う様にじっと動
かない。
ムギュゥゥゥ!
「うぉ、コイツ、オレの剣を受け止めやがった!」
「ゲロロロロロ!!!!(なめんなよぉ!)」
父蛙は咄嗟に舌を出して剣を絡め止める。必死に絡めた剣を振り下ろさせない様
に踏ん張った。剣の自由を奪われたウッズもなんとか剣を引き抜こうと踏ん張る。
そこに相方のガンズが父蛙に向かって剣を突き出す。
「ゲロロ!(あなた!)」
「ゲロ!?!(え!?!)」
「!?!」
母蛙は絶体絶命だと思っていた。しかし、予想されたことは一向に起こらない。
恐る恐る見てみると、なんとそこには彼らの最も頼れる男が立っていた。
父蛙も突然のことに驚いていたが、心強い味方の登場に色めき立った。
「…チッ、出やがったなぁ!」
ガンズの剣を受け止めたのは立派な剣と鎧を装備した蛙男だった。その蛙男は
突如上空から降り立ってガンズの剣を受け止めていた。ウッズはその蛙男の出現
に眉間に皺を寄せ、睨みながら相棒に言った。
「ガンズ!わかってるな!」
「おぅよ!」
ウッズの呼びかけにガンズが答える。するとガンズはすぐさま後退して剣を構え
直す。ウッズも剣を手放して後退し、腰に下げていた鞭を取り出した。
剣を持った蛙男は自分の剣を鞘に納めると父蛙に促して、舌でくるんだウッズの
剣を受け取ると蛙親子にすぐにここを逃げる様に伝える。親子はこくこくと頷くと
子蛙を抱えて急いで逃げようとする。それに対してガンズが即座に反応して阻もう
と動くが、蛙男がそれを剣を突き出すことで阻止した。そして、人間達にわかる言
葉で言った。
「…無益な。剣が持ち主を憂いているぞ。」
「へ!毎度毎度格好付けやがって!蛙の分際で生意気な!」
「今日こそはやっつけてやるぜ!」
鞭を構えてウッズが初めに仕掛けた。
この蛙男は相当の剣豪だ。普通の攻撃では読まれてしまう。
ウッズは剣目掛けて攻撃を繰り出した。鞭は蛙男をくるりと縛り上げる。そこに
ガンズが突進した。
「へっへー!今日こそ終わりだ!」
ガンズはそういうと剣を振り上げた。すると蛙男は鞭を剣で切り離し、ガンズの
剣を受けようと予想して振り上げた。
「!?」
蛙男の剣は空を切る。ガンズは振り上げただけで攻撃してこなかった。それどこ
ろか攻撃出来る様な構えをしていない。何をするのだと思う間もなくガンズは剣を
投げた。その剣は蛙男の持つウッズの剣に正確に当たり、ウッズの剣をはじき飛ば
した。ウッズはそれをキャッチ。そして、ガンズは突進して蛙男に体当たりを食ら
わす。
蛙男は突然の上手い連携に思わず体当たりをもろに食らった。ウッズは蛙男が起
き上がる暇すら与えぬ勢いですかさず切り掛かった。蛙男はその剣の振りを身を転
がし避ける。そこにガンズが覆いかぶさる様に飛びかかってきた。
「くそぉ!」
「へ!蛙野郎!これで仕舞いだぁ!!!」
蛙男が呻く。
ガンズが覆いかぶさり抑える蛙男の首目掛けて、ウッズが剣を振り下ろした。
「ぐあぁああああぁあ!!!!」
しかし、その時ウッズの体が突如巻き起こった突風で吹き飛ばされた。
「!?」
「アニキィ!?!」
ガンズが吹き飛ばされたウッズを見て叫んだ。蛙男は起き上がると即座に跳躍し
木の枝の上に飛び退いた。
「…すまないな。」
「いいえ。」
木の上から蛙男が話しかけた相手は桃色の長い髪を束ねた美しい女性だ。その容
姿は人間とは若干違う様だが、その美しさは種族を問わず誰もが頷くだろう。
女性は右手を前に伸ばすと、手のひらを二人の人間の方向に向かって広げた。す
るとキラキラと輝く風がさらさらと流れ出し、それは瞬時に強風に変わり二人に吹
き付けた。
「ち!く、くそぉぉぉお!!!!」
ウッズが風に必死に耐えながら胸のポケットからナイフを取り出した。蛙男がそ
れを見て腰の剣を抜き叫んだ。
「まだやるか!」
ウッズが渾身の力を込めて蛙男目掛けてナイフを投げた。
…しかし、蛙男がいたはずの枝には何もいなかった。
木の葉から陽光が透ける。
風のそよぐ音…空を飛ぶ陰…、
「タァ!!!」
透明に透けたグランドリオンが陽光を透かし輝く。重力もプラスした剣は森を荒
らす物に容赦ない一撃を与えた。
ウッズは蛙男に右腕を強打され激痛が走る。
「くそぉ、覚えてやがれぇ!」
二人の人間は形勢の不利を悟ると撤退して行った。
蛙男はそれを確認すると、ため息を吐いて近くの切り株に腰を据えた。背後から
足音が聞こえる。振り向くと、そこには先ほどの女性がいた。
「…グレン、怪我は無い?」
「大丈夫だ。…しかし、ここも離れる時が来たな。」
「…寂しくなるわね。」
「あぁ。だが、いつまでも迷惑をかけているわけにはいかない。」
蛙男はそう言うと空を見上げる。
空では一羽の青い鳥が空をくるくる回りながら飛んでいた。
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